「体重2キロ増」が前兆の可能性も
よくある例は、体重がわずか2キロ増えただけなのに、それが高インスリン血症やインスリン抵抗性といった異常を表す兆候だったというもので、そのうちにHDL値が下がったりすることがある。
その後、ほぼ同時期に高血圧や脂肪肝になり、中性脂肪値が上がったりする。
たいてい最後に現れる症状は高血糖で、2型糖尿病と診断されることになる。
スコットランドの西部で行われた冠動脈疾患の予防研究では、2型糖尿病と診断される前に、脂肪肝と中性脂肪の増加が認められるとされた。
脂肪肝は、メタボリック・シンドロームの初期にみられる。メタボリック・シンドロームの患者のほぼ全員に脂肪肝がみとめられる。脂肪肝があってメタボリック・シンドロームでない人は、ごく少数だ(図9-4参照)。
インスリン抵抗性と2型糖尿病がメタボリック・シンドロームを引き起こすことがないのは、それがメタボリック・シンドロームのひとつの症状だからだ。
メタボを引き起こすのは高インスリン血症である。この問題の元凶はフルクトースとグルコースの過剰摂取による高インスリン血症だが、特に問題なのはフルクトースのほうだ。
肥満や2型糖尿病といった症状を含むメタボリック・シンドロームは、お察しのとおり、糖を摂りすぎることが原因である。
「体重が増えないのにメタボ」という事例
肥満、インスリン抵抗性、膵臓のβ細胞の機能障害は、すべて防御機能が働いた結果、現れる症状だ。
肝臓に負担がかからないように、新しく作られる脂肪を脂肪細胞に取りこむ結果、肥満になる。
極めて稀だが、先天性の「リポジストロフィー」といって、脂肪細胞が欠損している疾患の患者をみればそれは明らかで、彼らは体重が増えないのに、メタボリック・シンドロームの症状──脂肪肝、高中性脂肪値、高いインスリン抵抗性──がある。
リポジストロフィーと同じ状態にしたネズミの場合、脂肪細胞のないネズミに脂肪細胞を移植し戻したところ、メタボリック・シンドロームが完全に治ったという。
脂肪細胞はメタボリック・シンドロームを引き起こすのではなく、メタボリック・シンドロームから体を防御しようとしているのだ。
なぜそうといえるのか。脂肪細胞がなければ、脂肪は器官の中に蓄積されるしかなくなり、それがメタボを引き起こす。脂肪が脂肪細胞の中に蓄積されれば、代謝の異常は起きない。
つまり、肥満とは、高インスリン血症やインスリン抵抗性の根本原因から身を守る防御策の第一段階なのである。
同じように、インスリン抵抗性は、器官の内部に脂肪をためこまないように、脂肪が入ってくるのを体が防ごうとするから起こるのである。
肝臓は新たなグルコースが入ってくるのを拒む。なぜなら肝臓はすでにグルコースでいっぱいだからだ。それがインスリン抵抗性というかたちになって現れるわけで、これは防御策の第二段階である。
最後に「糖尿病」と診断される
最後の防御策は、膵臓がインスリンの製造をやめてしまうことだ。すると、血糖値が急激に上がって腎閾値を超え、糖尿病の典型的な症状が現れる。
だが、そのおかげで、体に害をもたらすほどの過剰なグルコースが体から安全に排出され、それ以上に代謝の異常が起こらないようになるわけだ。こうして、体は過剰なグルコースと過剰なインスリンという根本原因に対処するが、その代償として現れるのが糖尿病の症状なのである。
問題の本質は過剰な糖であり、体は必死でそれを尿に排出しているにすぎない。
私たちが問題だと考えている症状のすべて──肥満、インスリン抵抗性、膵臓のβ細胞の機能不全──は、じつは、たったひとつの根本原因「過剰な糖」に対して体が行っている対処法なのである。
根本原因がわかったのだから、この問題の解決法──そして2型糖尿病の解決法──は明らかだろう。
「糖の摂取を避け、インスリン値を下げること」だ。
糖の過剰摂取の問題、インスリンの分泌が多すぎる問題、異所性脂肪の問題を解決しないかぎり、この問題は大きくなりつづける。逆にいえば、根本原因に正しく対処さえすれば、2型糖尿病もメタボリック・シンドロームも、元に戻すことが可能である。
◆教えてくれたのは:医学博士・ジェイソン・ファン(Jason Fung)さん
医学博士。減量と2型糖尿病の治療にファスティングを取り入れた第一人者。その取り組みは『アトランティック』誌、『フォーブス』誌、『デイリー・メール』紙、「FOXニュース」などでも取り上げられた。ベストセラー『The Obesity Code』(『トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ』サンマーク出版)の著者。カナダ・オンタリオ州のトロントに在住。