
更年期はストレスや口腔内の乾燥などが起こりやすく、舌がピリピリ、じんじんするなど、舌の違和感の原因になっていることもあるという。そこで、薬剤師の山形ゆかりさんに、舌の違和感の原因や病気が関係している可能性について、また、違和感解消のための食事や漢方薬について教えてもらった。
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舌の違和感の原因
舌の違和感には、舌痛症や亜鉛不足、口内炎などの病気が関係している可能性が考えられます。また、病気が関係している場合もあるので、診察を受けるべき症状についてもチェックしておきましょう。
舌痛症
舌痛症は「口腔内灼熱症候群(バーニングマウス症候群)」とも呼ばれ、舌に痛みを感じていても見た目には炎症や潰瘍などの異常がない病態です。症状としては、やけどのようなひりひりした痛みや刺すようなチクチクした痛みが舌や口全体に起きます。
明確な原因はわかっていませんが、遺伝やストレス、口腔内の乾燥が関係していると考えられており、更年期の女性の発症率が高い傾向にあります。
また、味を感じるために必要な味蕾細胞の再生に欠かせない栄養素である亜鉛の不足は、味覚障害につながり、舌の違和感が起きやすくなります。
亜鉛不足による味覚障害では、味がわからないこと以外にも、薄味に感じやすい、何も食べていないときに口の中が苦いなどの症状もみられるのが特徴です。

また、味覚障害が起こると味を感じにくくなり、唾液の分泌量が減少するため、口腔内の乾燥にもつながります。亜鉛不足の味覚障害による口腔内の乾燥が舌痛症の原因となっている可能性があります。
口内炎や舌癌などの病気
口内炎や舌癌、口腔カンジタ、ヘルペスなどの口腔内の病気も舌の痛みや違和感を生じさせます。また、口腔内の病気に限らず、糖尿病やシェーグレン症候群、貧血などの二次的症状という可能性もあります。
口内炎は自然治癒やステロイド軟こうの塗布で、数日〜2週間ほどで治るのが一般的ですが、2週間以上経っても治らない、舌の痛みや違和感以外に体にも不調があるといった場合は病気の疑いもあるため、医療機関を受診しましょう。
舌の違和感の改善方法
舌の違和感の原因が病気ではない場合、セルフケアによって症状の緩和が期待できます。
ストレスをためない
舌痛症が原因の場合、ストレスによって舌の痛みが強くなる傾向にあります。ストレスがかかると、交感神経と副交感神経の2種類の自律神経のうち、心身を緊張モードにさせる交感神経が優位になり、心身が休まらずストレスへの耐性が低下します。ストレスが解消されない状態が続くと自律神経のバランスが乱れたままになり、さらにストレスがたまりやすくなって舌の痛みが強くなってしまうのです。
そこで、リラックスしてストレスを解消することで心身を休ませる働きをする副交感神経を優位にさせ、自律神経のバランスを整えると、ストレスへの耐性が高まり、ストレスによる舌の痛みを軽減できる可能性があります。

例えば、38~39℃のぬるま湯に10~15分間浸かる、起床時や就寝前、仕事や家事の合間などに1日数回深呼吸をする、ラベンダーの香りをかぐなどがリラックスに効果的です。
栄養バランスのいい食事を心がける
亜鉛不足だけではなく、舌の炎症の原因になる貧血につながる鉄分やビタミンB12の不足などによっても舌の痛みや違和感が起きることがあります。
朝ごはんを抜く、野菜や魚はほとんど食べないなどの食生活を続けていると、これらの栄養素が不足し、舌の痛みの原因になる可能性が高くなります。
また、鉄分はビタミンCと摂取すると吸収率が高まるなど、それぞれの栄養素は関わり合って作用しているため、特定の栄養素だけを集中的に摂取するのではなく、さまざまな栄養素をバランスよく摂取することが大切です。

栄養バランスのいい食事を摂るには、1日に何をどれだけ食べたらいいのかの目安がわかる「食事バランスガイド」(厚生労働省「食事バランスガイドについて」https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html)を活用しながら、食生活を見直しましょう。
舌の違和感解消に役立つ食材
舌の違和感を解消するには、栄養バランスのいい食事を心がけながら、とくに亜鉛を多く含む食材を摂りましょう。
亜鉛の1日の摂取の推奨量は、18~74歳の男性で11mg、75歳以上の男性で10mg、18歳以上の女性で8mg(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586568.pdf)となっています。
亜鉛の含有量の多い食材には、豚レバーや牛赤身肉などの肉類、牡蠣、しらす、あじ、さば、いわしなどの魚介類、かぼちゃの種やくるみなどの種実類などが挙げられます。日頃から豚レバーや牛赤身肉、しらすなどの食材を積極的に取り入れましょう。

また、亜鉛を摂る際は、クエン酸やビタミンC、動物性たんぱく質といっしょに摂取すると吸収率があがります。牡蠣とレモンを組み合わせたソテーやパスタ、くるみと肉を組み合わせたサラダなど、組み合わせを意識したメニューにするといいでしょう。
逆に、食物繊維やフィチン酸、加工食品の添加物(ポリリン酸)は、亜鉛の吸収を阻害します。亜鉛の含有量が多い食材を摂取するときは、食物繊維が豊富な野菜、海藻類、フィチン酸を含むとうもろこしやごま、いんげん豆、ポリリン酸を含むハムやソーセージなどは控えめにするといいでしょう。
舌の違和感改善には漢方薬も役立つ
舌の違和感には、「自律神経のバランスを整える」、「抗ストレス作用でストレスを軽減する」、「水分の循環をよくして舌に潤いを与える」といった作用のある漢方薬で、不調の根本改善を目指す方法もあります。

おすすめの漢方薬
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
不足した栄養を補い、エネルギーの流れをスムーズにすることで自律神経のバランスを整えます。イライラやのぼせといった更年期症状や、ストレスによる不調などに用いられる漢方薬です。
・麦門冬湯(ばくもんどうとう)
胃にこもった熱を取ることで胃腸機能の働きを高め、のどや気管などの呼吸粘膜に潤いを与えます。口腔内の乾燥にも働きかける漢方薬です。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信する「Medical Health -メディヘル-youtubeチャンネル」(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。