健康・医療

《50代女性の4割が摂取》サプリメント市場が急拡大した背景 専門家からは効果に疑問の声も 

スプーンにもられた黄色のSupplement
サプリメント市場が急拡大した背景とは(Ph/イメージマート)
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健康を維持し、病気を予防するための術は、時に一大ムーブメントを起こしながら、常に情報がアップデートされ生活に根づいてきた。手軽さや簡便さも重視され、健康食品やサプリメントなど、健康増進・病気予防に関連するビジネスが活況だ。しかし、「かえって体に害を与えかねない危険なビジネスも紛れている」と専門家らが指摘する。

“紅麹問題”でサプリメントへの盲信が指摘される

精神科医の和田秀樹さんが、まず例に挙げるのは、今春、大きく報じられた紅麹問題だ。

「悪玉コレステロール値を下げる効果があるとして販売を伸ばしてきた紅麹由来のサプリメントを摂取した人たちから腎機能障害などの健康被害が相次ぎ、死亡者まで出る事態となりました。関連が疑われる死亡例は5件でしたが、6月には新たにサプリメントとの因果関係が疑われる死亡事例が76件あったと発表された。

“健康のために行うことが体に悪いはずがない”と、盲信してきた日本人の常識が間違っていたことの証左となってしまった」(和田さん)

サプリメント市場が健康食品の4分の1ほどを占めるまでに急成長

しかし、これは氷山の一角かもしれない。サプリメント市場はいまなお急成長中で、その規模は2200億円を超え健康食品の中でも4分の1ほどを占めるまでに存在感を高めている。しかし、サプリメントが市場に出回るようになったのは極めて最近のこと。東京大学非常勤講師の左巻健男さんが解説する。

乳酸菌飲料3つの口が並んでいる
社会保障費の削減とも呼応してサプリメントの認知拡大は急拡大した(Ph/イメージマート)
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「サプリメントが日本の市場に登場したのは1990年代の後半です。それまでは、“食品と医薬品は厳密に区別する”という考えのもと、錠剤やカプセルなど医薬品と類似する形で食品を販売すべきでないとされてきた。

そんな中、1994年にアメリカで栄養補助食品健康教育法という法律が制定されます。それにより、一定の科学的根拠があればアメリカの食品医薬品局に通知するだけで効果効能を表示できるようになりました。アメリカの企業がサプリメントに力を入れ始めると、日本へも市場開放のオーダーが入った。日本人の健康志向の高まりと呼応して日本でもそうしたサプリメントを製造、販売しようという流れができました」(左巻さん・以下同)

ちょうどその頃に高齢社会に突入した日本では当時、医療費高騰が問題視されるようになり、そうした社会保障費の削減とも呼応してサプリメントの認知拡大は急ピッチで進められた。

「厚生省は、1997年にビタミン、1998年に168種のハーブ類、1999年にミネラル類と、次々とサプリメントの流通を許可しました」

50代女性の約4割がサプリメントを摂取

折しも、町の薬局がドラッグストアへと様変わりするタイミングと相まって、サプリメントは市場に広く展開され、瞬く間に人気商品となる。

サプリメント市場の今の状況を示したグラフ
出典/矢野経済研究所「健康食品市場に関する調査」
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「バブル崩壊後で不況が続くなか、サプリメントの登場で健康食品業界は成長産業の柱になりました。“簡単に健康になれる”ツールとして、利用する人の数はどんどん増えていき、2012年に行われた内閣府の実態調査では50代以上の約3割がほぼ毎日摂取しているというデータも報告された。アメリカには及ばないものの、いまや日本は立派なサプリメント大国です」

実際、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2019年)によると、男性より女性の方が摂取率が高く、50代では約4割が摂取している。目的は健康の保持や増進であるのは言うまでもないが、左巻さんは、「ほとんど効果がない」と一刀両断する。

「50代以降の摂取率が高いのは当たり前のこと。年を重ねるほど不調を感じるようになって健康に意識が向くわけですから。だけど残念ながら効果は乏しい。そもそもサプリメントは薬ではなくあくまで食品なわけで、医薬品のようにきちんと効果と副作用を調べていません。にもかかわらず、病院では医師がサプリメントをすすめるケースもある。それは利益が出るからであって、効果があるからすすめているわけではない」

効果がはっきりしないばかりか、紅麹サプリメントのように体に害を与えるものもある。

「アメリカや中国など海外から輸入されるサプリメントの中には、過去に覚せい剤の混入が発覚したものもあります。添加物や着色料、合成保存料などが多用されているケースも少なくないほか、劣悪な製造環境で作られるサプリメントもあります。管理するのは食品衛生法で、効能に関する試験はなく、毒でなければ売っていいというような緩いルールが課せられているに過ぎません。

医薬品は原材料受け入れから製造、出荷までの工程をGMP(適正製造規範)に沿うよう求められていますが、サプリメントには義務づけられていない。第三者の目が行き届かないどころか、外部に委託して製造している場合、販売元ですら、どんな環境で作られているか把握していない場合もあるのです」

機能性表示食品は届出制で国の審査は必要ない

サプリメント市場が拡大していくなかで誕生したのが“効果効能をアピールできる”「特定保健用食品(トクホ)」や「機能性表示食品」だ。

健康食品と医薬品の境界線を示す表
厚生労働省、消費者庁の情報にもとづき作成
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「サプリメントが流通し始めた当初は、あくまで食品扱いなので効果効能をうたうことはできませんでした。より幅を広げようと登場したのがトクホであり、機能性表示食品です。

根底には、この分野を成長させたいという政府の思惑がありました。特に機能性表示食品は、アベノミクスのひとつとして導入された。トクホの認可を受けるには時間もお金もかかるので企業にとっては負担が大きかった一方、機能性表示食品は届出制なので国の審査は必要ありません」

効果効能をうたうには、信頼できる論文の提出や、有効性や安全性の情報を提出することが義務づけられている。しかし、これらの論拠も絶対とはいえないかもしれない。

「論文の作成を請け負う会社すらあるほどで、杜撰な内容のものも多い。しかし、機能性表示食品については国は一件一件精査するわけではありませんから通ってしまいます。

かつて私が講演で、ある企業の健康食品を批判したんです。それが新聞の記事になって、企業が“効能を示す論文はしっかりある”と新聞社を訴えました。判決としては新聞社の完全勝訴でした。裁判所は企業が提出した論文について信ぴょう性がないと判断したんです。かように“根拠”は杜撰なものといえます」

※女性セブン2024年8月8・15日号

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