
子育てや働き盛りの年代が過ぎ、ふと人生でひと息つきたくなったとき、あなたなら何をしたいですか? 娘二人の独立を機に、長年の夢だった韓国ソウルでの留学生活を始めたライター田名部知子さんが、50代のリアルな留学生活の様子をリポートする。
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57歳で留学を決意した背景~なぜ今なのか?~
現在57歳の私はその年齢に自分でも驚きますが、気がつくといよいよ還暦も見えてきました。これまで20年以上、週刊誌の記者として活動しながら主婦として母として、二人の娘を育て家族を守ってきました。ところがコロナ禍を前後して更年期の症状に悩まされ、それまで自信があった体力にも衰えを感じ、キャリアの行き詰まりも感じていました。私の人生の目標である「生涯現役」という目標を叶えるためにも、今より効率よく働けるための何か特別なスキルや新しいことへのチャレンジが必要だと感じていたのです。
韓国語は20年前からゆるゆると週1回のグループレッスンを受けていたのですが、なかなか中級以上に上がれないジレンマを感じていました。そんな時ちょうど次女が社会人になり、時期を同じくして隣県に住む両親が90代にして家を新築する元気な姿を見て、これまでの忙しい日々から一息ついて自分自身に投資する時は今しかないと確信し、2022年秋に韓国留学を決めたのです。

大学の“語学堂”ってどんなところ?
私は現在、ソウルの有名大学が集まる活気のあるエリア、新村(シンチョン)の西側にある西江(ソガン)大学が運営する韓国語の専門学校、西江大学韓国語教育院(いわゆる語学堂)に通っています。
ここでは多国籍のクラスメイトたちと共に楽しく韓国語を勉強していますが、クラスメイトはアジア各国をはじめ、アメリカ、フランス、ドイツ、チリ、ヨルダン、ジョージア、トルコ、チェコスロバキア、ロシア、カザフスタン、モンゴル、ケニア、コンゴ……など多様な国籍の学生がいて、授業を通じて異文化を体験することもできます。50年以上生きてきて、世界にはこんなにも多様な文化や考え方が存在することを、日々、肌をもって感じています。

私がソガン大学の語学堂を選んだ理由は、立地の良さと会話中心の授業が魅力だったから。周辺には他にも新村駅を挟んで東側に、延世(ヨンセ)大学、隣の駅には梨花(イファ)女子大学があり、長時間勉強のできる居心地のいいカフェや良心的な価格の食堂など、学生にはありがたい環境が整っています。

ソガン大学の語学堂では、ペアやグループでの会話練習が多く行われ、発表や課題を通して会話力を身につけていきます。韓国の大学にはたいてい語学堂があるのですが、ソガン大学のように会話中心の授業が有名だったり、文法や書き取りの強化に特化していたり、TOPIK(韓国語能力試験)対策に強いといわれる学校もあり、それぞれ個人の目標に合った学校を選ぶのが重要だと考えています。
ソガン大学の学費はソウルの語学堂の中ではいちばん高いのですが、会話中心の質の高い授業内容と電子黒板などの最新機器をどこよりも早く導入するなど最新設備が整っているため、コストパフォーマンスは良いと感じています。ただ施設がもう少し新しければなおいいのになあとは思います。
ちなみに授業料は、私が在籍する午前クラスの場合、入学金が10万ウォン(約1万1276円)、教材費が5万ウォン(約5638円)、授業料が183万ウォン(約20万6355円)です。授業の雰囲気はアットホームでテストや課題も充実していますが、テストや課題の量は多くこなしていくのはなかなかハードです。

学校への登録申請や学生ビザ(D4)の申請はほぼオンラインで可能なので、私はすべて自分で準備したのですが、手続きには想像以上に時間と労力がかかり、二度手間、三度手間だったこともありました。ですので韓国留学に限らず留学を考える際は、特にミドルエイジ以降の場合は、留学エージェントを利用するほうが断然効率がいいと思います。
またこれは私見ですが、ソガン大学のクラス分けは成績順で行われているようで、成績が上位のクラスにいることで、勉強意欲の高い友人と一緒に学ぶことができます。留学生の中には遊びをメインに来ている人も一定数いるので、遅刻や欠席、授業中に寝ている、スマホをしているなんていう学生がいると気が散るのも事実。そういう意味でもしっかり勉強していい成績を取らなければならないと思い、定期テストや課題には真剣に取り組んでいます。
ソガン大学に限らず、語学堂の成績と出席率は、国の出入国管理事務所が管理している留学ビザに連動しているので、テストで一定の点数を取り、出席率をクリアしないと上の級に進級できません。
具体的にはソガン大学の場合、成績は全科目(会話、読解、筆記、聞き取り、作文など)で70点以上、出席率は70%以上で次の級に進級可能。3回落第すると退学です。しかも国によって語学堂間の転校ができない規則があるので、退学させられたら別の語学堂に行けばいいやというわけにはいかないのです。国を挙げて留学生にしっかり勉強させる仕組みができていると感じています。

50代留学生の1年間の留学費用は?
実際に韓国で生活を始めてみると、予想外の二つの問題に直面しました。それはかつてないレベルの円安と物価の高騰です。これらの影響で体感として、コロナ前に比べて物価が2.5倍アップした感じがします。おまけにコロナ前は100円=1000ウォンとレート計算も簡単でしたが、現在は100円=約850ウォンで計算しなければならずややこしいのです。私は日本から円を持ち込んで為替レートが良い時に両替所で両替していますが、年間を通じて授業料や住居費を含めたすべての費用が高騰し、おそらくすでに100万円以上は軽々予算オーバーしていると思います(涙)。
ちなみに初年度にかかった費用は、授業料、住居費、新生活準備金、交通費、光熱費(管理費、ジム使用料などを含む)、食費、通信費、国民健康保険料(6か月以上滞在すると自動的に支払う)などを合計すると、約450万円(退去時に全額戻る入居時の保証金100万円含む)ほどになります。
留学に対する家族の反応は?
「50代で留学中」と人に話すと、日本でも韓国でも、「旦那さんや家族は何て言ってるの? 旦那さんはよく許してくれたね」という反応が最も多いのです。実際、夫と娘たちは「賛成もしないけど反対もしない」といういたってクールなスタンスです。私は一度思い立ったらやらずにはいられない性格なので、実はほとんど家族に相談せずに、留学の準備を始めてしまいました。それでも娘たちには相談していたのですが、夫と両親に告げたのは出発の1か月ほど前で、呆れられているうちに逃げるように韓国にきてしまった点は、今でもちょっと反省しています。
とはいえ、自分の中で次のような完全帰国の条件を三つ決めています。
【1】自身に深刻な健康問題が起きたとき
【2】両親に深刻な健康問題が起きたとき
【3】娘が結婚して孫ができたとき
これらのどれかの状況になった場合は、無条件で帰国すると決めています。
留学を始めて1年半が過ぎましたが、幸いホームシックになったことは一度もありません。それでも遊びに来た家族が日本に帰る時は、やはり毎回強烈な寂しさを感じます。また、普段はたいてい夜中に一度は目が覚めるのですが、娘がいるときは朝までぐっすり眠れるので、そんな時、家族の存在はすごいなと改めて思います。

◆ライター・田名部知子

『冬のソナタ』の時代からK-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2023年1月、韓国ソウルで留学生活と人生初めての一人暮らしをスタート。大学が集まる新村(シンチョン)にある西江(ソガン)大学の語学堂に通う。twitter.com/t7joshi
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