1年の中でも比較的過ごしやすい気候の秋だが、夏にたまった疲れで心身の不調が出やすい季節でもある。秋の不調の原因は主に3つあり、改善するにはタイプ別の対策が必要だという。そこで、薬剤師の山形ゆかりさんに、タイプ別の秋の不調を改善するためのセルフケアや食事、漢方薬について教えてもらった。
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タイプ別の秋の不調と改善方法
秋の不調は、胃腸疲れタイプ、疲労蓄積タイプ、乾燥タイプの主に3つに分類されます。タイプ別の特徴や改善方法を紹介します。
胃腸疲れタイプ
胃腸疲れタイプは、冷たいものを食べすぎ、胃腸を酷使したことが原因で消化不良や食欲不振などの不調が起きているケースです。また、もともと胃腸が弱く不調が起きやすい人も、このタイプに当てはまります。
不調を改善するには、胃腸への負担が少ない食事をすることや胃腸を冷やさないことが重要です。
間食を控えたり就寝直前の食事を避けたりして、胃腸を休める時間を作りましょう。胃腸を冷やさないためには、温かいものを飲む、半身浴や腹巻きなどでお腹を温めることなどが効果的です。
なお、コーヒーなどカフェインを含む飲み物は胃酸の分泌を活発にする作用があり、胃に負担がかかる可能性があります。飲み物を飲む際は、白湯などのカフェインを含まない飲み物にすると胃の負担を軽減しつつ、温めることができます。
疲労蓄積タイプ
疲労蓄積タイプは、夏の暑さによる疲労が解消しきれずたまっている人です。疲労によって体力が落ちているため、だるさややる気の低下が起きやすくなっています。
また、疲れによって胃腸の機能も低下しやすくなります。すると、体に必要な栄養の吸収が十分に行われなくなるため、体力の回復に時間がかかる傾向があります。
疲労を回復するには、疲労物質などを排出することと栄養の吸収を促すことが重要です。そのために、できるだけ毎日湯船に浸かるようにしたり、寝る前にストレッチを習慣化したりすることで血行を促しましょう。
そして、秋は寒暖差が大きくなる季節です。冷えると血行が悪くなるため、すぐに着脱できる上着を持ち歩く、スカーフやレッグウォーマーなどを活用して首や手首、足首を出さないようにするなど体を冷やさない工夫をしましょう。
乾燥タイプ
乾燥タイプは、空気の乾燥によって肌や粘膜が乾き、喉や目、肌などに不調が起きている人です。具体的な不調には、声枯れや咳、便秘、肌の乾燥によるかゆみなどがあります。
秋は夏に比べて空気が乾燥することや、気温が下がって夏よりも水分補給の頻度が減り水分不足になりやすいことが、乾燥タイプの不調の原因として挙げられます。
お風呂から出たらすぐにクリームなどで保湿ケアをする、こまめに水分補給をする、マスクやのど飴、目薬などで喉や目の乾燥を防ぐなどの方法で対策しましょう。また、部屋の適切な湿度は40〜60%ほどといわれています。湿度が低い場合は、加湿器を使用したり洗濯物を部屋干ししたりして部屋を加湿しましょう。
タイプ別の不調改善に役立つ食材
秋の不調改善に役立つ食べ物も、タイプ別に異なります。
胃腸疲れタイプ
胃腸の調子を整えたい胃腸疲れタイプは食べものを分解し、弱った胃腸の働きを助け、栄養の吸収をサポートすることが期待できる消化酵素を含む、山いもやかぶ、りんごが今の季節におすすめです。
消化酵素は熱に弱いため、あまり熱を加えない調理法が適しています。生のまますりおろして食べたり、加熱時間を短くする工夫をしましょう。
逆に、脂肪分の多い食材は消化に時間がかかるため、胃腸の負担になります。胃腸疲れタイプは、豚バラのような脂肪分の多い肉ではなく、ささみや鶏むね肉などの低脂肪の食材を選ぶのがよいです。
疲労蓄積タイプ
疲労蓄積タイプは、エネルギーを生み出す働きをサポートするビタミンB群を含む食材を食べましょう。
ビタミンB群を含む食材のひとつに、春と秋に旬を迎えるしいたけがあります。とくに、天然栽培の秋のしいたけは香りがよいのが特徴です。しいたけの香り成分であるレンチオニンには血栓の形成を防ぎ血液をサラサラにする効果があるため、血流改善に効果的です。
また、1〜2時間ほど風通しのいいところで天日干しをするだけでも香りや栄養、うまみがアップします。
なお、ビタミンB群が豊富な豚肉や、しょうがやにんにく、とうがらしなどのスパイスといっしょに調理すると血行を促進できるので、より疲労回復効果が期待できます。
乾燥タイプ
乾燥タイプが積極的にとりたい、体に潤いを与える食べ物としては、多くの水分やビタミンを含み、栄養を補いながら体を潤す効果が期待できる果物があります。秋は、なしやかき、ぶどうなど、さまざまな果物が旬を迎えます。食後のデザートにしたりサラダの具材にしたりして、日々の食事に取り入れてみましょう。
ただし、果物は利尿作用のあるカリウムを多く含んでいる傾向があり、食べすぎると体が冷える可能性があります。カリウムは水に溶けやすい性質があるため、水にさらしてから食べたりコンポートにしたりして、カリウムを摂りすぎないようにしましょう。
秋の不調改善には漢方薬も役立つ
秋の不調の改善には、自然由来の治療薬として使われている漢方薬も役立ちます。
秋の不調には、「胃腸に働きかけ、栄養の吸収をよくする」「止渇作用で粘膜を潤す」といった作用のある漢方薬が用いられます。タイプ別に適した漢方薬を選びましょう。
タイプ別のおすすめの漢方薬
・六君子湯(りっくんしとう)
胃の中に停滞している水分を取り去り、消化機能をよくします。胃腸疲れタイプで手足の冷えが気になる人に用いられる漢方薬です。
・補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
胃腸の働きを高めて気力を補い、消化器系と呼吸器系全般の機能をサポートして疲労を回復させます。疲労蓄積タイプで体の倦怠感が強い人に用いられる漢方薬です。
・麦門冬湯(ばくもんどうとう)
胃腸の働きを整えて潤いを作りだし、喉や呼吸器などの粘膜に潤いを与えます。乾燥タイプで声のかすれがある人に用いられる漢方薬です。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、効果が実感できないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用するときには漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:薬剤師・山形ゆかりさん
やまがた・ゆかり。薬剤師・薬膳アドバイザー・フードコーディネーター。病院薬剤師を経て食養生の大切さに気付き、薬膳アドバイザーとしても活動する。牛角・吉野家他薬膳レストラン等15社以上のメニューを開発。そのほか、症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp)で薬剤師を務めている。