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《野菜の安全性“警鐘レポート”》「カット野菜」の殺菌、洗浄に関する懸念、「有機野菜」で使われる有機肥料に指摘されるリスク

カット野菜の殺菌、洗浄はどう行われているのか(写真/イメージマート)
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厚生労働省が推奨する「1日に必要な野菜の量」は350g。毎日の生活のことだから「手軽に、簡単に」食べたいとカット野菜を活用する人もいれば、「より安心で高い栄養価」を求めて有機野菜を選ぶ人もいるだろう。だが、そこに危険な落とし穴があることを忘れてはいけない。

カット野菜の市場規模は拡大

今年の夏、スーパーの店頭にある変化があった。すいかの形が、玉売りや皮つきの4分の1カット、8分の1カットから、皮なしでカットされパック詰めされた「カットすいか」が主流になったのだ。神奈川県に住む会社員のAさん(52才)が言う。

「自分で切る必要がないし、すぐに食べられて、手も汚れない。少し割高ではありますが、大きいのを買っても結局食べきれないし、コスパを考えるとついカットすいかばかりを選んでしまいます」

実際、民間調査会社・インテージは、2022年に全国のスーパーで販売されたカットフルーツのうち、カットすいかの売り上げは推計で275億5000万円となり、2013年から2.2倍になったと発表した。

使いたい分だけ購入できて、包丁やまな板の出番もなく、手軽で便利――。これはすいかに限った話ではない。スーパー各社が品揃えを充実させているのは、カット野菜も同様だ。カット野菜の製造・販売を行うサラダクラブによると、カット野菜が店頭に並び始めたのは2000年頃。需要の高まりは年を重ねるごとに加速し、2022年度の市場規模は約2000億円と10年前に比べ2.7倍にまで膨らんだという。

漂白剤と同じ成分で野菜を殺菌する

一方である疑問も浮かぶ。埼玉県の主婦・Bさん(59才)が首をかしげる。

「サラダを食べたいときや、野菜炒めを作るとき、数種類の野菜を買うのが面倒で、何種類かの野菜が入ったパックをよく買います。最近ではコールスロー用、きんぴら用などとバリエーションが増えて、カット野菜売り場で献立を考えることもしばしば。

でも、使っていて不思議なのは、どうして野菜が傷んだりしないのかなということ。自分で切った野菜は切り口が黒くなったり、すぐにしなしなになってしまうので…」

カット野菜の懸念すべき点について、加工食品ジャーナリストの中戸川貢さんが話す。

「シャキシャキとした食感や採れたてのようなきれいな色を長持ちさせるために、丁寧に殺菌、洗浄されています。使用されるのは強い殺菌力を持つ次亜塩素酸ナトリウム。ハイターや漂白剤と同じ成分で、ツンとした塩素臭が特徴です。体内に入っても問題がないよう食品衛生法で使用量などについては厳格に管理されていますが、直接触れると皮膚を痛めたり、高い濃度で使うと有毒なガスが発生するおそれがある危険なアルカリ性の薬剤です」

最近では、次亜塩素酸ナトリウムから次亜塩素酸水に切り替えるメーカーも多いと中戸川さんは続ける。

「次亜塩素酸水はヒト由来の成分である次亜塩素酸を主成分とした弱酸性からアルカリ性の水溶液。次亜塩素酸ナトリウムでの殺菌はカット野菜を製造する人を危険にさらすことにもなるので、気を配るメーカーも増えているのです」

洗浄、殺菌に使われる次亜塩素酸ナトリウムは表示義務ない

野菜の持つ栄養素などに詳しい鶴見クリニック院長の鶴見隆史さんもこう口を揃える。

「カット野菜は加工食品なので中国産など輸入野菜が使われているケースも多い。どんな農薬をどの程度使用したかわからない野菜を強い消毒剤で殺菌して、薬剤が残らないよう水洗いして出荷している。まるで洗濯機に洗剤を入れて洗っているのと同じようなイメージです。“水洗いなしで食べられます”と書いてあるのは、消毒液のにおいや成分を薄めるために何度も水洗いしているからでしょう。

かつてはシャキシャキ感を出すためのポリリン酸ナトリウムや、変色を防ぐための酸化防止剤などの添加物が使用されていたことも珍しくありませんでした」

恐ろしいのは次亜塩素酸ナトリウムをはじめとした添加物を使用しているかどうか、輸入野菜を使っているかどうかについて、食品表示を見ただけではわからないことだ。

「次亜塩素酸ナトリウムは、口に入る完成品になる前に“除去される”ものとされ、加工助剤にあたるので食品添加物としての表示義務はありません。

また、野菜の産地についても50%以上を占めるもののみ表記すればいいので、パッケージに入っているすべての野菜が国産かどうかを見極めるのは難しいといえます」(中戸川さん)

カット野菜の弊害について、殺菌以上に中戸川さんが危惧するのは、栄養素が“抜け落ちてしまう”こと。

「栄養は切り口から抜けていくので、ビタミンや水溶性のミネラルであるマグネシウムといった大事な栄養素がとれなくなってしまいます。野菜のビタミンCも損失します。

水溶性の栄養素は水に流れ出るので、洗浄と消毒、カットを繰り返す製造工程でどんどん流出していると考えていい。私はキャベツの千切りは栄養がほとんどないと思うので絶対に買いません」

切った断面からどんどん抜け落ちてしまう栄養成分もある(写真/PIXTA)
切った断面からどんどん抜け落ちてしまう栄養成分もある(写真/PIXTA)
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カット野菜は単価が高いのも事実。自分でキャベツを買って食べきれなければおひたしやサラダにして、常備菜として食べきった方が家計にも体にもやさしいことは明白だろう。

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