肥料に残ったO157やサルモネラ菌が野菜に感染する可能性
利便性ではなく、味や質を求めて市場がじわじわと拡大しているのが有機農業で栽培されたオーガニック野菜だ。
有機農業は、2006年に制定された「有機農業の推進に関する法律」において、「化学的に合成された肥料と農薬を使用せず」「遺伝子組み換え技術を利用しない」ことを基本に「農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業」と定義された。農薬や化学肥料の使用量が減ることで、温室効果ガス削減効果も期待され、日本のみならず世界的に市場が拡大している。
しかし、そこにもリスクがある。
「化学肥料や農薬を使用するより、有機肥料を使った方が人体にとって遙かに安全なのはいうまでもありませんが、有機肥料を取り扱うのはそう簡単ではない。
有機肥料は大きく分けて牛や豚など家畜の糞尿を発酵させて作る動物性肥料と、草やわらなどを発酵させて作る植物性肥料があり、いずれも充分な発酵が不可欠です。発酵が不充分だと動物性肥料の場合、サルモネラ菌やO157が残ったままで野菜が細菌に感染してしまう可能性があります」(鶴見さん・以下同)
加えて懸念されるのは家畜が何を食べて育ったかという点だ。農薬や抗生物質たっぷりの飼料や、遺伝子組み換え作物を食べて育った場合、糞尿への影響も問題視されている。
「さらに、肥料を使いすぎることで野菜に硝酸態窒素を発生させることが危惧されます。硝酸態窒素は植物の成長に欠かせない要素ですが、過剰になると体内に吸収されて亜硝酸態窒素に変わる。これが食べた人の血液中の赤血球のヘモグロビンと結合して、細胞へ酸素を運ぶのを妨げます。
亜硝酸態窒素の濃度によって、目の周りや唇が紫色になったり、頭痛やめまいといった神経系のトラブルを引き起こしたり、昏睡や不整脈、最悪の場合は死に至るリスクがある。特に子供は重症になりやすく、1980年代にはアメリカで硝酸態窒素を多量に含んだほうれん草を食べた赤ちゃんが、顔を真っ青にして死亡した事件もありました」
化学肥料に比べて有機肥料は体にいいからたくさん使おうというのはかえって逆効果になるかもしれない。
「有機JASマーク」を得ずに無農薬や自然栽培をうたう農家も
「亜硝酸態窒素は人間の体内で肉や魚のたんぱく質に反応し、発がん性物質を発生させるということも研究され始めています」
有機栽培を行っている農家のほとんどが安全な肥料を作り、体にいい農産物を作っていることは間違いない。その“証”が、「有機JASマーク」だ。しかし、なかには有機JASマークを得ずに無農薬や自然栽培をうたう農家もいる。
「有機JASマークがついていないもので、“自称”無農薬、“自称”自然栽培の野菜は信頼のおける農家や販売店で購入しましょう」(中戸川さん)
簡単だから、時短だから、安全だから、健康にいいから、などメリットばかりでなく物事にはデメリットやリスクという側面があることを私たちは忘れてはいけない。
※女性セブン2024年9月19日号