更年期

更年期に気をつけたい高血圧、医師が解説するリスク、改善に役立つ食材

血圧を測る女性
注意が必要な更年期高血圧とは?
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多くの女性にとって体と心に変化が訪れる時期である更年期に、とくに注意したいのが高血圧だ。「更年期高血圧は一時的なものと思われがちですが、更年期が終わったあとに数値が戻らない場合は、放置すると脳や心疾患のリスクが高まるおそれがあります」と話す医師の木村眞樹子さんに、更年期高血圧の原因と対策、食生活に取り入れるべき食材や漢方薬について教えてもらった。

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更年期の女性が高血圧になりやすい理由

更年期の女性が高血圧になりやすいのは、卵巣の機能の低下により女性ホルモンであるエストロゲンが減少することで血管が硬くなったり、自律神経が乱れたりするためです。

血管の柔軟性を保つ働きがあるエストロゲンの分泌量が減少する更年期は、血管が硬くなりやすい状態です。血管が硬くなると血液の流れが悪くなり、血圧が上昇しやすくなります。

血圧計
なぜ、更年期は血圧が高くなりやすい?
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また、更年期になると脳が指令を出してもエストロゲンが充分に分泌されないため、脳が混乱します。すると、同じく脳で管理している自律神経にも影響するため、血圧のコントロールも不安定になるのです。

これらのことから、もともと低血圧であった人も、更年期に入ると高血圧になる可能性があります。これを、更年期高血圧と呼びます。

高血圧と病気の関係

更年期の高血圧はストレスや不眠、緊張などによって一時的な血圧上昇が起こりやすい傾向があり、めまいや動悸、頭痛などの症状が同時に起こりやすいのが特徴です。

頭に腕を乗せ、上を向く女性
更年期が終わっても血圧が下がらない場合は要注意!
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更年期が終わると正常値に戻る人もいますが、血圧の変動を繰り返すうちに血圧が高い状態のままになる場合もあります。自宅で血圧を測る際、最高血圧が135mmHg以上、あるいは、最低血圧が85mmHg以上、またはその両方の場合は高血圧と考えられます。高血圧は血管へダメージを与えて動脈硬化を進行させるため、脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めます。セルフケアで数値が改善しない場合は、受診が必要です。

更年期高血圧への対策

更年期高血圧には、血圧の変動パターンの把握や運動の習慣化、減塩といった対策が効果的です。

血圧の変動パターンを記録する

血圧管理のために、定期的に血圧を測り変動パターンを把握しましょう。血圧測定のタイミングは起床時と就寝前、めまいや動悸などの症状が出たときです。測定して血圧が上がっていたら、そのときの症状やストレス、睡眠不足などの背景も記録しておきましょう。

こうして記録をつけていくと「いつどのような状況で血圧が上がるのか」が把握できるようになります。特定の時間帯や状況で血圧が上がりやすいことがわかれば、その時間帯の過ごし方や環境を見直すなどの対策が立てやすくなります。

血圧計と数値表
血圧の変動パターンを知っておこう
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運動を習慣化する

自律神経は交感神経と副交感神経の2種類がバランスをとっていることで、体が正常に活動できます。運動によってそれぞれの働きにメリハリがつけることができ、自律神経のバランスが整いやすくなります。

さらに、適度な運動はストレス解消にもなるので、イライラして血圧が上がることを防ぐ効果も期待できます。

更年期高血圧の対策には、ウォーキングや軽いジョギングなど心臓に負担をかけない有酸素運動をしましょう。運動量は1回10分以上のものを1日に合計30分、週3〜5回が目安(厚生労働省「高血圧の人を対象にした運動プログラム」https://www.mhlw.go.jp/content/000656461.pdf)です。

運動を習慣にするには、無理のない目標を立てて達成感を積み重ねることが大切です。成功体験を積むことで自分に自信がつき、モチベーションを保ちやすくなるので、最初から大きな目標を立てずに、小さなゴールからじょじょにハードルを上げていくのがよいでしょう。

減塩を心がける

塩分を摂りすぎると血中のナトリウム濃度が上がり、体はその濃度を調節するために血液量を増やします。すると、血管にかかる圧力が高まり、血圧が上昇します。

そのため、毎日の食事で減塩を心がけることは高血圧対策に直結します。日本の高血圧治療ガイドラインで示されている1日の食塩摂取量は、6g未満(国立研究開発法人国立循環器病研究センター「減塩食について」https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/diet/low-salt/)です。

たとえば、減塩調味料の活用、だしを効かせた味付け、薬味やスパイスを使った風味付けなどの工夫をすれば、塩分を控えつつも味のバランスを整え、満足感を損なわずに食事ができます。

また、しょうゆやソースなどの調味料は、料理にかけると必要以上に使ってしまいやすく塩分過多になりがちになります。た「かける」のではなく「つける」ようにすることで、使用量の調節が簡単にできます。

更年期の高血圧の改善に役立つ食材

更年期高血圧の改善には、カリウム、マグネシウム、カルシウムを多く含む食材を食事に取り入れましょう。

ほうれん草のおひたし
更年期高血圧にはカリウム、マグネシウム、カルシウムを多く含む食材がおすすめ
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カリウムは体内の余分なナトリウムを排出する働きがあり、マグネシウムとカルシウムは血管の収縮と弛緩を助ける働きがあります。これらの栄養素はどれかひとつに偏るのではなく、バランスよく摂取することで相乗効果が期待できます。

これら3つの栄養素が含まれていて、とくにカリウムが豊富なのが、秋から冬に旬を迎えるほうれん草です。カリウムは水に溶ける性質があるので、加熱する際は電子レンジを使用したり、茹でる時間を短くしたりしましょう。なお、ほうれん草は結石の原因となるシュウ酸も多く含んでいるため、加熱後には水にさらしてアク抜きをする必要があります。

ほかにも、カリウムとカルシウムが豊富な水菜や、マグネシウムが多く含まれるあさりなどが秋に旬を迎える食材です。高血圧対策として、毎日の食事に取り入れてみてください。

更年期の高血圧には漢方薬も役立つ

エストロゲンの分泌量の減少や自律神経の乱れ以外に、漢方医学では栄養やエネルギーが不足してめぐりが滞り、血流が悪くなることで高血圧が起こると考えます。

そのため、更年期高血圧の改善には、「栄養やエネルギーの不足を補う」「自律神経の乱れを整える」などの働きがある漢方薬を選びます。これらの漢方薬は、頭痛や肩こり、のぼせなど高血圧に伴うさまざまな不調へのアプローチも期待できます。

おすすめの漢方薬

・七物降下湯(しちもつこうかとう)

加齢に伴って起こりやすい栄養やエネルギーの不足を補い、めぐりをよくして、高血圧に伴うのぼせや肩こり、耳鳴りにもアプローチできる漢方薬です。

・加味逍遙散(かみしょうようさん)

栄養の巡りをよくすることで、女性ホルモンのバランスや自律神経の乱れに働きかけます。女性ホルモンの変動に伴ってあらわれる更年期症状や、精神不安の改善に用いられます。

→加味逍遙散について詳しく知る

漢方薬を始める際の注意点

漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。

ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、いい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。

◆教えてくれたのは:医師・木村 眞樹子さん

白衣を着た女性
医師の木村眞樹子さん
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きむら・まきこ。医師。都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科に在勤。総合内科専門医・循環器内科専門医・日本睡眠学会専門医。産業医として企業の健康経営にも携わる。

自身の妊娠・出産、産業医の経験を経て、予防医学・未病の重要さと東洋医学に着目し、臨床の場でも西洋薬のメリットを生かしながら漢方の処方を行う。

症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でもサポートを行う。

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