健康・医療

《母親から子へと伝播する「腸内細菌」》健康のほか、脳の発達や行動にも影響 箱根駅伝優勝の青学の選手に“特徴的な細菌”が多いという調査結果も

青山学院大学駅伝ランナーには特徴的な腸内細菌が宿っていた

これまで腸内細菌の主な役割は消化吸収や感染防御とされてきたが、腸内フローラの研究が花開くとともに、さまざまな病気との関連が指摘されるようになった。

「同じ腸でも小腸は病気が起こりにくい半面、大腸には腸内細菌が棲みつき、大腸がん、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎など病気の種類がもっとも多い臓器で、さまざまな病気の発生源なのです。ですから、大腸の腸内細菌が乱れると免疫系の異常や老化などが進んで、さまざまな部位に疾患が発生するリスクとなります。

また、21世紀になり、腸内細菌が糖尿病や高血圧、肥満などの生活習慣病をもたらすことも指摘されるようになりました」(辨野さん)

腸内細菌が乱れ、悪化することで高血圧を引き起こす(写真/PIXTA)
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福田さんは、自らが行った研究で、腸内細菌の驚くべき機能を明らかにしたという。

「今年の箱根駅伝でも優勝し、大きな話題になった青山学院大学ですが、彼らの強さは腸内細菌にあるのではないかという仮説を立てました。そこで、チームを訪ね原晋監督にお願いして選手の便を提供していただいて調べたんです。すると、青学の選手の腸内には『バクテロイデス・ユニフォルミス』という特徴的な腸内細菌が多くいることがわかりました。しかも、3000m走のレースタイムが速い人ほどその菌が多い。

その菌をマウスに10週間飲ませたところ、持久力が約2倍になり、さらにその菌を増やすオリゴ糖を一般の人に2か月間摂取してもらったところ、エアロバイクで10kmの走行タイムが10%短縮されました。つまり腸内細菌は持久力にまで影響を有しているということです。ほかにもマウスの研究から、腸内細菌が食べ物の好みにも影響を与えることもわかっています」(福田さん・以下同)

いくつもの影響のなかでも注目されるのが脳と腸が相関するという「脳腸相関」だ。

「脳と腸は4つのルートでつながっています。まずは迷走神経という神経です。これは例えば、脳がストレスを感じると腸が不調になって下痢を起こしたりします。2つめはホルモンを通じたやりとりで、ご飯を食べて満腹になると腸からホルモンが分泌されて食べることをやめます。3つめが免疫細胞で、腸内細菌の状態がよくないと炎症などを引き起こす免疫細胞が腸で増加し、それが脳の髄膜まで移動すると、うつ病になる可能性があります。4つめは腸内細菌が作り出すさまざまな成分で、それらが腸から吸収されると血流にのって全身をめぐり、その一部が最終的に脳にも作用します」

腸内細菌は体のさまざまな機能に影響を与える
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通常、私たちは司令塔である脳が腸をコントロールしていると考えるが、現実には、“腸が脳を支配する”場面もあるという。

「イソギンチャクやナマコといった脳のない動物はいても、腸のない動物は存在しません。そして脳のない動物は、腸が脳の役割を果たしています。

人間においても腸は腸、脳は脳と独立して機能するのではなく、実は腸が脳をコントロールしているとの研究が多く、近年は自閉症や認知症、パーキンソン病やアルツハイマー病といった脳の機能と関連する病気を、腸内細菌が引き起こす可能性が指摘されています」(辨野さん)

さらに最近は、薬の効果にも腸内環境が影響することがわかってきた。

「例えば、がんの免疫療法に用いられる薬が効くかどうか、副作用が起こるかどうかに、特定の腸内細菌の存在がかかわることが、最新の研究で明らかになりました」(細川さん)

これほどまで私たちの健康に影響を与える恐るべき腸内細菌。だがそれは逆に考えれば、腸内環境を整えれば病気を予防できるという希望につながる。

「腸内細菌をいかにコントロールできるかが、生活習慣病やがん、脳の病気などを未然に防いで健康寿命を延ばすことに関与します。また、認知症などの脳疾患を予防するうえでも、腸内環境を整えることは重要なポイントになるでしょう」(辨野さん)

(後編に続く)

※女性セブン2025年2月6日号

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