社会

《電波利権のカラクリ》既得権益化された放送業界 公共財であるはずの電波を「格安」で「使い放題」できるテレビ局、ないがしろにされるのは“国民の知る権利”

テレビ局は「電波利用料」すらも「格安」で「使い放題」できる

電波利権によるデメリットは、放送事業の透明性が失われるだけではない。

「かねてより、日本の携帯電話料金が高いことが問題になっていましたが、これはテレビ局による電波寡占の影響もあるんです」(田淵さん・以下同)

実際に携帯キャリアとテレビ局の年間の電波利用料を比較すると(2023年度分)、NTTドコモ約176億円、KDDI約145億円、ソフトバンク130億円に対し、テレビ局(地デジ)はNHKが約26億円、在京キー局は日本テレビだけが7億円を超えて、残り4局はいずれも6億円台と、はるかに安い。ちなみに最も少額なのは奈良テレビの約110万円である。

「格安で電波を“使い放題”できるテレビ局に比べて、携帯キャリアの電波使用料の高さは突出しています。一方で、ここで多くの資金を使うため日本の携帯電話料金が高止まりしている面があります」

さまざまな負の側面を持つ電波利権だが、この先、規制が緩和されて国の関与が弱まったり、新規参入が可能になったら、テレビはどうなるのか。

田淵さんは「ここでもメリットとデメリットが生じるでしょう」と語る。

「国の足かせが外れて自由な報道が増える半面、ビジネス面が強化されて無料放送が廃止となり、多くの課金を得るためのエンタメ化やサブスク化が進む可能性があります。すると多くの視聴者に届くべき情報や災害情報が放送されなくなるかもしれない。

公共の電波が私的な商売道具と化して、国民の知る権利がないがしろにされる恐れがあります」

テレビでも多様な動画配信サービスが利用できるようになり、“テレビ番組離れ”が加速(写真/PIXTA)
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若い世代がテレビを見なくなり、視聴率が低下してテレビ業界の低迷が続くなかで、電波利権の存在価値がなくなりつつあるとの意見もある。専修大学文学部ジャーナリズム学科教授の山田健太さんが指摘する。

「いまは電波利権よりもネットとテレビの関係をどうするかが喫緊の課題です。Netflixやアマゾンプライムなどの動画配信が人気を博すなか、万が一フジテレビが倒産するようなことがあってもTBSや日テレの視聴率が上がるのではなく、動画視聴者数が増えるだけでしょう。

これからの時代、規制のあるテレビ局は完全に自由なネットと併存して、自然消滅しないための良質な番組作りが欠かせません。より工夫を凝らして、真面目に視聴者に向き合う姿勢がますます必要になります」

時代が大きく動いて先行きが不透明になり、かつて栄華を誇りテレビの一時代を築いたフジテレビが傾くなか、国民に求められるのはテレビ局の行く末を注意深く見守ることではないか。

「この先、テレビ業界全体が構造改革をしっかり行わないとテレビ局はますます信頼を失います。はたしてテレビ局がどちらの方向に向かうのか、国民はちゃんとウオッチする必要がある。

電波は私たちの共有財産なのだから、テレビ局がおかしな方向に進もうとしたら、『私たちの大切な電波をそんなふうに使ってはいけない』と声を上げることが求められます」(田淵さん)

半世紀以上の間、日本にはびこる「テレビ利権」にまでメスを入れることになったフジテレビ問題。これからのテレビを救うのもダメにするのも、私たち視聴者なのかもしれない。

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(前編から読む)

※女性セブン2025年3月13日号