【幸せの買い方】幸せの土台となる「金融資本」「人的資本」「社会資本」お金を増やすのが難しければほかの2つを大きくする、“幸せを感じられるだけの余裕”のためにお金を使うことも重要

「幸せ」は目に見えないもの。量を測ることも、どれほどの対価で得られるかを知ることも、人と比べることも難しい。だが、“目に見えないのだから買うことはできない”と決めつけてはいけない。正しいお金の使い道を知っていれば、それはすなわち「幸せを買う」ことになる。貧富や収入の差と諦めずに、「幸せの買い方」を知っておこう。【全3回の第1回】
幸せの土台となる3つの資本
3月に値上げされる飲食料品は2300品目超で、夏にかけてさらなる断続的な値上げラッシュが生じるとされている。75才以上の医療費の自己負担割合を増やす方針やいま以上の増税もささやかれるなど支出ばかりが増える一方、日本人の給与は30年以上横ばいのまま。いったい、どれだけ家計の負担が増えるのか──。
ただでさえ少ない蓄えに老後の不安が重なり、多くの人の関心が「どうすればお金を使わずに済むか」に終始しているいま、お金を使うことに罪悪感を覚えたり、「またお金が減った」と憂鬱になることも多い。だが、生きていくためには毎日お金を使わなければならないのも事実だ。どうせお金を使うなら、少しの出費でも、そのたびに最大限の幸せを手に入れられる「幸せの買い方」を知っておきたい。
お金と幸せは密接に関係するが、人は誰しも、お金が増えれば増えるほど幸せになれるとは限らない。作家の橘玲さんが解説する。
「お金が増えると幸福度も上がるのは間違いありませんが、幸福度の上昇はどこかで必ず止まってしまう。テスラやスペースXなどを創業したイーロン・マスクの個人資産は約60兆円とされていますが、彼が資産1億円の人の60万倍、資産100万円の人の6000万倍幸せということはありえないでしょう」

実際、大阪大学社会学研究所の調査によると、年収500万円までは収入が増えるほど幸福度が上がるが、そこから900万円までは横ばい、そして年収1500万円以上は、金額が上がるにつれて幸福度が少しずつ下がった。
お金があればどこにでも住めて何でも買えるのに、なぜ幸せに歯止めがかかるのか。理由は“いいことも悪いこともすぐに慣れてしまう”「限界効用の逓減(ていげん)」だと、橘さんは言う。
「簡単に言えば、“ビールは最初の一口目がいちばんおいしい”ということ。人間の脳は違いに反応するようにできており、一口目のビールのおいしさを『10』とすると、二口目は半分の『5』、三口目はさらに半分の『2.5』……と、おいしさがどんどん小さくなっていく。幸福度も同じで、年収や資産額から得られる幸せはどこかでピークを迎えると、そこからは上がらなくなってしまうのです」(橘さん・以下同)

そもそも「幸せ」の基準は、人それぞれで異なるはずだ。一方で橘さんは、どんな人にも当てはまる“幸せの土台”があると話す。
「幸せの土台とは、経済的な豊かさを示す『金融資本』、お金を稼ぐ能力の『人的資本』、そして家族や友人などの『社会資本』の3つです。この3つがある程度そろっていれば、人は幸せを感じられる。その中でもっともシンプルな戦略は“金融資本=お金”を増やすことですが、それが難しければほかの2つを大きくすればいい。資産や収入が少なくても、地元の友達同士の関係で充実した生活を送っている人たちは“プア充”(経済的には豊かでなくとも、充実した幸せな生活が送れることを指す)と呼ばれます」
人のつながりが幸福度を上げる
幸せになるためには、「幸せを感じられるだけの余裕」を持つためにお金を使うべきだと話すのは、幸福学研究者の前野マドカさんだ。
「幸せの第一条件は、最低限の衣食住が確保できていて、生命が脅かされない環境にあること。
お腹がすいているのに食べ物がまったくなかったり、暖房をつけずに寒さに耐えるような暮らしは心の余裕をなくし、本当はあるはずの幸せにも気づけなくなります。食べる量を減らしたり、エアコンをつけずに生活することは、お金の節約にはなっても、幸福度は下がる一方です」
まさに“衣食足りて幸福を知る”なのだ。また、衣食住にかかわる生活必需品を安さだけで選ぶと、幸福度が下がるかもしれない。節約・投資系ユーチューバーで節約オタクのふゆこさんが言う。
「毎日使うものが“安かろう悪かろう”では、幸せは感じにくい。例えば、衣服や日用品、家具・家電などを激安価格で販売する海外のECサイトが問題になっていますが、その中には粗悪品が多く報告されているほか、一部の商品からは有害物質が検出されるなど、心身の安全を損なう例があります。優先順位が高い生活必需品は、安さを第一の判断基準にしない方がいいでしょう」
必要以上に切り詰めず、ある程度のお金はかける。それ以上に効果的なお金の使い道は「人とかかわる」ことだ。

「心の余裕を増やすためにもっとも効果的なのは、できるだけ多くのコミュニティーに属して、人とのつながりを感じること。一つひとつのつながりは、ゆるいものでもかまいません。
地域のボランティアやイベントなどは、参加費を惜しまないでほしい。数百円が何倍もの幸せにつながるはずです」(前野さん)
拓殖大学政経学部教授の佐藤一磨さんも、人とのつながりが幸福度に与える影響は大きいと話す。
「米ハーバード大学の長期にわたる調査でも、“安心・信頼できる人間関係を維持できると、大きな幸せを感じる”とわかっています。
家族や友人との時間を持つための帰省や食事などにお金を使うことは“幸福を買っている”といえるでしょう」
家族や友人に先立たれたり、絶縁している人も少なくない。孤独を好む人もいるだろう。
そうであれば、金融資本や人的資本を大きくするなど、自分に合った資本を増やせばいいのだ。
(第2回に続く)
※女性セブン2025年3月20日号