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自律神経失調症の女性作家が女性鍼灸師に言われて大泣きしてしまったひとことと、不調を脱する「3つの思考法」 

不安感や胸がザワつくのは自律神経失調症のはじまりである(イラスト/渡邉杏奈・MONONOKE.inc)
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お受験や介護などを20年以上取材し『女はいつも、どっかが痛い』などの著書を持つ作家・教育&介護アドバイザーの鳥居りんこさんは、ある日突然「頭に血が逆流」し「胸がザワつき」「ワケのわからない不安感」に襲われた。自律神経失調症のはじまりである。そこで出会った鍼灸師に言われて思わず泣いてしまったひとことがあるという。その鍼灸師・やまざきあつこさんとの共著『黒い感情と不安沼 「消す」のではなく「いなす」方法』が話題の鳥居さんが、自身の経験から“不満沼”を這い出るヒントについて綴る。

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「分かるよ。女はいつも、どっかが痛いの」で大泣き

思えば私はいつも大抵、体調が悪い。もちろん大病ではないし、普通に暮らしていられる。動けるし、食べられる。これだけでも十分、感謝すべきことなのだが「今日はすこぶる元気!」という日はないに等しい。10代だった頃から大体そうだから、我が身の体調不良には逆に慣れっこだったんだが、新型コロナウイルスが世に登場する頃から、より訳が分からない状態に追い込まれていった。

ある日突然、頭に血が逆流するような感じがし、何とも言えない胸のザワつきを覚えたのだ。その時点で計った血圧は180を突破。以降も突然、何の前触れもなく訳がわからない不快感が押し寄せる。しかも徐々にその不快感は不安と恐怖に変わり、得体のしれない何かに常に怯えるようになってしまった。

当然、医師の元に駆け込み検査をした。忙しそうな様子の老医師が「これね~自律神経失調症だから。鍼灸に行ったほうがいいかもね、ハイ、次の人」と診断してくれた。

そんなわけで、私は鍼灸院に通うようになったのであるが、鍼灸院の院長先生(以下、先生)は「あっちが痛く、こっちが不快で、何かが不安」と訴える初対面の私にこう言ったのだ。

「分かるよ。女はいつも、どっかが痛いの」

当時の私は自分だけがいつも体調不良で、肝心な時に限って絶不調になることに劣等感を持っていたのだが、先生に「多かれ少なかれ女性はそうで、あなたのせいじゃない。でも大丈夫、治るから!」と言われ、泣いたことがある。人は“症状”の理解者を得るだけで、こんなにも安心するものなのかと思ったことを覚えている。

「人間は元々、不平等、これが大前提」だけれど・・・・

先生によると「女性は臓器が複雑な上に毎月、ホルモンの影響を受け続けるから壊れやすい生き物」とのこと。

大抵の場合、体が先に悲鳴を上げ、気付くと心も限界ってことが多いのだそうだ。心と体は常に一体なのだ。不調になる原因は主にふたつあって、気付かぬうちに疲労が蓄積されたか、本当は嫌なのに、それを押し殺す日々を続けたかららしい。

本当は嫌なのに、それを押し殺す日々を続けると不調になる(イラスト/渡邉杏奈・MONONOKE.inc)
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それからというもの施術で血流を整えてもらっているのだが、先生は折に触れて「不調との付き合い方」を伝授してくれている。もちろん、夜の1時までには布団に入るとか、ガードルや補正下着で体を締め付けない、足を組まない、体を冷やさないなどの、体に働きかける具体的方法もあるのだが、それ以上に「心の持ちよう」を教えてくれることが多い。

「人間は元々、不平等、これが大前提。しかし、人は成長するために生きているのだから、もし、どうにもならないこと(出自、他人の言動、過去の後悔、未来への不安、他人との比較、自己否定…etc)を反芻してわが身の神経を削っているならば、今よりも1ミリ成長するための術を考える。そのために、今よりもほんの少しだけ強くなること。そしたら、不調は遠ざかる」

心身のパワーを上げることが、不調を遠ざける唯一の手段だから、そのためには今まで強力に染み付いてしまった自分の思考癖を改めていくことが大事だという意味である。

思考を終わらせる練習を重ねていく

先生の「不調を脱する思考法」の中で「なるほどな」と思ったことは多いが、次の3点をぜひとも紹介したい。

【1】誰かを見て嫉妬が止まらなくなったなら→「あ、そうなのね」で全て終了

無理をしてまでの「いいね!」はいらないし「それに比べて…」はもっといらない。事実だけを受け取り、そこから湧き出る感情や推測は敢えてストップ。「あ、そうなのね」で思考を終わらせる練習を重ねていくと、他人が何をしようが気にならなくなっていく。

湧き出る感情や推測は敢えてストップさせる(イラスト/渡邉杏奈・MONONOKE.inc)
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【2】もし他人にイラっとしたら→「うんうん、色んな人がいる」でオールスルー

嫌な人に遭遇したとしても「うんうん、色んな人がいる」で、それ以上、その出来事や人物を自分の思考に入れないようにする。目を向けるべきは他人の無礼よりも、わが身の自律神経へのダメージである。体のこわばりは、自分自身の思考の持ち方次第でほどけていく。

【3】「自分ばかりが損をしている」と悲しく感じたら→本当にやりたいことなのか否かで考える

ギブ&テイクのバランスが悪く“報われ度”が足りないと思ったときは、自身が「良い人」でいたいだけではないか?と疑ってみる。ギブをやめても意外と何とかなるもの。ずっと親切にするのが良い人の基準ではない。「やりたいから、やる」「やりたくないから、今はやめとく」でいい。「嫌なら断る」も有りと心得よ。いい意味での自分ファーストが体調を整える。

分かるはずもない他人の立場や感情を妄想したところで・・・・

現代社会は複雑で人間関係に疲れ果てている人ばかりだろう。黒い感情に覆われて、不安の沼にハマる人も多いと思う。しかし、どこまで突き詰めても分かるはずもない他人の立場や感情を妄想してばかりだと、我が身を痛めつけ、結果、疲れ果ててしまう。妄想もエネルギーを使うからだ。それよりも、己のメンタルの安定と己の成長を一番に考えたほうが、断然、体調も良くなるということらしい。

「変えられない他者に固執する道を選ぶのか、自分を生きることに熱中するのかは、あなた次第」と背中を押してくれる先生のアドバイスは貴重だ。

実際、私はちょっとずつ不調を跳ね返す力を身に付けつつある。やはり「こうでありたい!」と願う気持ちが今までの自分を超えていくパワーの源なのかもしれないと思う今日この頃だ。

執筆/鳥居りんこ(作家、教育&介護アドバイザー) イラスト/渡邉杏奈(MONONOKE.inc)

【プロフィール】
鳥居りんこ/1962年生まれ。2003年、『偏差値30からの中学受験合格記』(学研プラス)がベストセラーとなり注目を集める。執筆・講演活動を軸に、現在は介護や不調に悩む大人の女性たちを応援している。近著に、構成・取材・執筆を担当した『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著、双葉社)、など。最新刊は『黒い感情と不安沼 「消す」のではなく「いなす」方法』。

【プロフィール】
やまざきあつこ/1963年生まれ。藤沢市辻堂にある鍼灸院『鍼灸師 やまざきあつこ』院長。開業以来30年間、8万人の治療実績を持つ。中学校教員を経て鍼灸師に。1997年から2000年までテニスFedカップ日本代表チームトレーナー。プロテニスプレーヤー細木祐子選手、沢松奈生子選手、吉田友佳選手、杉山愛選手などのオフィシャルトレーナーとして海外遠征に同行。プロライフセーバー佐藤文机子選手、プロボディボーダー小池葵選手、S級競輪選手などの治療にも関わる。自律神経失調症の施術に定評がある。最新著書は『黒い感情と不安沼』。

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