
普段は来ないような客層が悪いクチコミを書き込んだ
2020年から新型コロナウイルスが世界的に感染拡大し、海外からの渡航が制限されたことで、外国人観光客は日本から姿を消した。「ステイホーム」の影響で大きな打撃を受けた旅行業界を救済するため、日本政府は同年7月から「GoToトラベル」を実施。国からの助成により、旅行代金が最大半額の割引になるということで、多くの日本人がこのキャンペーンを利用した。
しかし、そこで露呈されたのが日本人旅行者のマナーの悪さだった。ドライヤーやバスローブなどの備品が盗まれるほか、泥酔して暴れる、子どもが廊下を駆け回るなどの迷惑行為が多発したという。瀧澤氏が続ける。
「『GoToトラベル』は普段は手の出ない憧れの高級ホテルや旅館に泊まるチャンスでしたから、多くの日本人が利用しました。一方で“(普段は泊まらないような客層が押し寄せたことで)高価な備品盗難が増加した”という高級ホテル・旅館からの報告も目立つようになりました。私が当時取材したあるホテルでは、大浴場に設置されていたダイソンの高級ドライヤーが日本人客に盗まれて警察沙汰になり、その後犯人は捕まっています。
また、ホテル業界の常識として昔から言われていることですが、宿泊料金の安いホテルほどコンプレイン(苦情)が多いといわれます。なので『GoToトラベル』の期間中は、高級なホテルや旅館への期待値もあったのでしょうが、クチコミ評価が下がるというケースもあり、“普段は来ないような客層が悪いクチコミを書き込んだ”と分析するホテルや旅館の担当者も多くいました。クチコミ評価のシステムというのは一回下がると回復するためのハードルは高く、いまだに『GoToトラベル』の影響に悩まされている施設もあります」
「今後社内で検討いたします」
コロナ禍が収束し、この1~2年は再びインバウンドが活況するようになった。昨年(2024年)の訪日外国人観光客の数は約3687万人で、2019年を超えて過去最多を更新している。
外国人観光客と日本人観光客どちらもマナーの悪さが目立ち始めたなか、今回のベビーカー盗難騒動が起き、“犯人”の人物像を巡る論争が巻き起こった。
「インバウンド活況で儲かっている事業者も多いですが、その一方で生活環境などが脅かされ、悩んでいる人もたくさんいる事実があります。たとえば、外国人観光客が増えすぎてホテルの宿泊料金が高騰している上に予約も取りにくくなっていて、出張の際に困っている人も多い。そうした現況から外国人観光客への不満が蓄積されて総じて批判の声が高まる状況にあるように感じます。
インバウンドウエルカムという旗振りには、同時に日本社会に蓄積する不満を緩和させるような市民への丁寧な説明や方策も肝要です」(瀧澤氏)
観光地で起こったさまざまな騒動は、すべてオーバーツーリズムが原因──日本人のなかで知らぬ間に溜まった不満が、そんな“決めつけ”を招いているのかもしれない。
当の「おたる水族館」は3月26日に公式ホームページを更新。「貸し出し用ベビーカーの紛失について」と題した《おしらせ》の中で、「今後、ベビーカーの貸し出しを中止する予定は現在のところございません」「盗難、紛失防止については様々な手法があるため、今後社内で検討いたします」と綴った。
SNSの発信が発端で起こった今回の論争。しかし、水族館側としても、このような“犯人探し”の展開は望んでいるはずもない。

