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《なぜ判明したのか》ナスDの「経費の不適切使用」にテレビマンから同情の声「昔は家族の食事代も請求」の悪しき慣習

大人気番組だった
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「ナスD」の愛称で知られるテレビ朝日の名物ディレクター・友寄隆英氏(50)にまつわるスキャンダルに、世間からは落胆の声が広がっている。

テレビ朝日は3月19日、同社のエグゼクティブディレクター(50才)が会社経費を不適切に使用していたほか、複数のスタッフに対する人格否定発言などのパワハラがあったとして、降格の懲戒処分にしたと発表した。

この社員は2019年から今年1月にかけて、個人的な会食などの費用を経費として会社に請求し、総額約517万円を不正に受領していたという。テレ朝の発表では社員の名は伏せられていたが、同時にナスDの冠番組『ナスD大冒険TV』の打ち切りが決まり、番組公式SNSや公式ホームページが削除されたことから、処分された社員はナスDであると報じられたのだ。

「番組だけでなく年齢や肩書も一致し、彼の降格も発表されているため、ナスDだと判明してしまいました。彼はフリーのディレクターを経て2003年にテレ朝に中途入社。『いきなり!黄金伝説。』でよゐこの濱口優さんに無人島0円生活をさせる企画が視聴者に大ウケし、業界で頭角を現しました。2017年から2019年まで放送された『陸海空 地球征服するなんて』では、ゼネラルプロデューサーとして番組制作を統括する傍ら、自らロケに赴いて現地で川魚を生で食べるなど、破天荒なキャラで視聴者の人気者に。アマゾンの部族を取材した際には、刺青の塗料として用いられる果物の汁を肌に塗ったところ、顔と全身がナスのように真っ黒になってしまい、それ以来、『ナスD』の愛称が定着しました」(テレビ局関係者)

ナスDは降格処分で人事局付に異動となり、表舞台から姿を消した。ネット上では「やっていることがバブル時代と同じ」「会社のカネを使い込んだのにクビじゃなくて降格で済むのか」など、テレビ朝日の対応を疑問視する声があがっているが、その一方で「ナスDの番組好きだったのに残念」「とっととテレ朝なんてやめてYouTubeで活躍してほしい」など、ナスDを擁護するような声も目立つ。

もっと悪質な人がいるのではないか

今回の一件について、民放で長年働いていた60代の元テレビマンは嘆息しながら語る。

「ナスDは約5年で500万円くらいの経費を不適切私用してたっていうけど、つまり年間で100万、月で数万円くらいでしょ……正直なところ、他にも似たような人がいるのではないか、もっと悪質な人がいるのではないかという声も聞こえる。ナスDは有名人だから、見せしめじゃないのかという印象を受けました。

マスコミの人間は仕事と遊びの線引きが難しく、友人とのプライベートの飲食の領収書を会社に提出する人が少なくないと思います。その友人が番組の企画になるアイデアをくれる可能性もあるなど、何が仕事につながるか分かりませんからね。だから調べられるとアウトになる人はナスD以外にもいると思いますよ。一昔前は恋人とのデート代とか家族との食事代まで“仕事につながるから”と言い張ってこっそり請求している人もいましたけど、これは今も昔もさすがにダメでしょうが……」

いわゆる“オールドメディア”に勢いがあった時代を知る業界関係者からは、そんな声がチラホラ聞こえてくる。ただ、それは一部の悪しき慣習と言わざるを得ない。今やマスコミ企業は軒並み業績が落ち込み、コンプライアンスも厳しくなったこともあり、今後、さらなるメスが入る可能性がある。かつて“どんぶり勘定”で経費を使えていたメディア関係者は、今回のナスDの一件で、戦々恐々としているようだ。

テレビマンとして類まれなる才能を発揮(番組より)
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「同じ店で何度も使用」でバレる

一方で、前出の元テレビマンが語ったように、メディア関係者は人脈作りや取材のため、外で人と会わなければ仕事につながらない。経費を巡るこの手の“問題”は、曖昧な部分もありそうだ。では、どのようにして経費の不正使用は発見されるのだろうか。国税局や税務署で法人税の調査・審理事務を担当した経験がある税理士の植木達也氏に話を聞いた。

「経費の不正使用がバレる端緒としては、『税務調査』が多い。マスコミ業界は取材や接待などで経費使用が多い職種ですから、定期的な税務調査では、調査官が従業員が会社に提出した領収書を確認することになります。その際、調査官が何百、何千人の従業員の領収書を全部見ることはできないので、領収書を並べてみて、金額が突出して高い、同じ店で何度も使用している、数字やゴム印がおかしいなど、“怪しい”と感じたところを抽出してピンポイントで事実確認を行う。それで問題が見つかれば、当然ほかにも同じようなケースがあるだろうということで、そのことを会社側に突きつけて、自主的に監査させるという流れが多いと思います。

私は国税局で税務調査を担当していた頃、上場企業を含めた大企業を対象とする調査部門に在籍したこともあるのですが、そのような流れから従業員の不正経理が発覚するということは珍しくありませんでした」

テレビ朝日の篠塚浩社長3月25日の定例記者会見で、当該社員の経費不正が5年間にわたり発覚しなかったことについて、「チェックはしたが、見つけられなかったということ。制作費監査チームに弁護士や公認会計士も入ってもらい、機能強化したい」「経費のチェック体制を強化し、再発防止策を速やかに実行して信頼回復に努める」と述べた。

「マスコミ業界は昔から“どんぶり勘定”というのが知れ渡っているので、税務調査で従業員がらみの不正経理問題を指摘されたことがある会社も多いと思います。そのような場合、会社が従業員の使用する経費についてどの程度のチェックを行っていたかがとても重要になります。チェック体制が甘ければ、会社ぐるみの責任だと認定されてしまう。従業員による横領で会社は被害者であるにも関わらず、会社自身の不正だと認定されてしまうわけです。会社にとってはダメージは大きいですし、最近はマスコミ業界でも経費を“どんぶり勘定”で認めるということはちょっと考えにくいですね。

各社は経費使用についてある程度のルール付けをして、チェックしているのではないでしょうか。ただ、マスコミ関係者の場合、“人と会うことが仕事”という側面もありますから、仕事に少しでも関係していれば、経費としての説明はつくと思います。家族との食事はさすがにアウトでしょうけどね。

(ナスDの場合)税務調査の流れで発覚したのかもしれませんが、彼の場合はパワハラの問題もあったようですから、会社側に狙い撃ちにされた可能性もありますね」(植木氏)

「逮捕される可能性は十分にある」

従業員は会社側に領収書を提出する際、経費の名目として「××社の○○氏と△△のための会食」などと記載するのが一般的だが、会社側が飲食店や○○氏に確認の連絡をして、不正使用が発覚するというケースもあるのか。

「実際あるのかもしれませんが、あまり聞いたことはありません。ただ、たとえば税務調査で一度経費の不正使用が発覚して、『今後はきちんとチェックします』と発表している会社は、会食の相手や打ち合わせの内容、会食の時間や場所などを領収書と一緒に申告させていると思います。それを会社側が時系列で管理することで、頻度や金額に異常な点があれば不審な点が浮かび上がってくるでしょう。そういう場合に会社側が必要に応じて、抜き打ちで相手先に連絡し、事実確認などを行うことはあるかもしれません」(植木氏)

経費を不正使用した従業員が会社側から告訴されたり、逮捕される可能性もあるのか。

「税理士はコメントする立場にありませんが、経費の不正使用は、刑法上の業務上横領罪に当たると思われますので、使い込んだ金額や悪質度によっては告訴されたり、逮捕される可能性は十分にあるでしょう。会社のお金を横領されたというのは、ひいては株主のお金を横領されたのと一緒なので、株主に対する説明もつかない。

不正使用した分のお金を全額返してもらえるのであれば、会社の中で降格などの処分で終わるケースもあるかもしれませんが、コンプライアンスが重視される近年の風潮だとそれもちょっと難しいのではないかと思います」(植木氏)

昔から「オン」と「オフ」の区別がつきにくいのがマスコミの仕事だったが、「正当」と「不正」の見極めはしっかりと行わなければいけない。

体を張っていたナスD(番組より)
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よゐこの起用で番組は大ブレイク
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