
「春眠暁を覚えず」という漢詩にもあるように、気候がいい春はつい心地よく眠りすぎてしまうもの。だが年を重ねると、“寝ても寝てもなぜか疲れがとれない”“眠気はあるのに夜、眠れない”という悩みを抱える人も多いだろう。最善の解決策がほかならぬ「昼寝」。正しいとり方をすれば仕事のパフォーマンス向上、病気の予防などうれしい効果が。心身の健康をもたらす昼寝の極意を伝授する。
生活習慣病の予防、免疫力のアップ…あらゆる健康効果が
毎日の生活習慣において、睡眠が果たす役割は大きい。日中の疲れをとるのみならず、生活習慣病の予防、免疫力アップ、近年では認知症リスクを下げることなどあらゆる健康効果が報告されている。一方で、加齢やスマートフォンの見すぎなどで、不眠、質の低下など睡眠の悩みを抱える人は増えている。

厚労省が2019年に行った調査によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は男性の約37.5%、女性の約40.6%というデータがある。2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査報告では、調査対象33か国のなかで日本人の平均睡眠時間は最短だった。日本人にとって睡眠不足の解消は大きな課題なのだ。
加えて春は、日照時間の変化で体内時計に狂いが生じたり、寒暖差が大きく自律神経が乱れることで眠気を感じやすいとされる。“朝も昼もずっと眠い”“眠気のせいで昼寝をしてしまい、夜眠れなくなって朝すっきり起きられない”という悪循環に陥っている人も少なくない。そんな睡眠の悩みを抱える人に推奨したいのが、「昼寝を習慣づける」ことである。睡眠評価研究機構代表で医学博士の白川修一郎さんが、昼寝の効用を話す。
「日中に眠気が強いと気分が落ち込みやすくなったり、突然怒りっぽくなったりと感情の起伏が激しくなるケースが多く、体調不良に悩まされることもあります。こうしたトラブルは適切な昼寝をすることで改善可能です。昼寝は心身の健康を維持し、作業効率を上げる効果があり、さらには脳の働きを回復してくれるのであらゆる世代にメリットが大きいのです」(白川さん)
企業や学校でも積極的に導入
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック院長の楠裕司さんもこう続ける。

「最近、学校や会社でも昼寝が注目されています。日中に短時間の睡眠をとることで頭がスッキリし、集中力がアップするという研究結果もあるほど。
GoogleやAppleなど世界を代表する企業でも、パワーナップと呼ばれる昼間の短時間仮眠を推奨しています」(楠さん)
昼寝を取り入れ、生徒の成績が向上した学校もあるという。睡眠専門医の坪田聡さんがこう解説する。
「福岡の県立明善高校では、昼休みの間に生徒たちが昼寝に取り組みました。すると、昼寝をした生徒はテストの成績が上がり、難関大学の合格者が続出したそうです。受験生などの子供をもつ家庭では、昼寝を取り入れることをおすすめしたいですね。ビジネスマンなら、重要な商談には昼寝をしてから臨むといいかもしれません」(坪田さん)
心血管疾患リスクが低減。免疫力もアップ
さらに、「昼寝にはさまざまな病気を予防する効果もある」と話すのは、日本睡眠学会総合専門医の阪野勝久さんだ。

「週に1~2回の昼寝が、心臓発作や脳卒中などの心血管疾患リスクを低減するという研究があります。特に、短時間の昼寝は血圧を安定させ、健康維持に役立つといわれています。さらに、昼寝は免疫システムを支えるサイトカインという物質の分泌を促すとされ、感染症に対抗する免疫力の向上にもつながる可能性があります。昼寝をすれば、感染症や炎症に負けにくい体づくりをサポートできるかもしれません」(阪野さん)
また、高齢者においては30分程度の昼寝をとることで脳が活性化し、認知症の発症率を6分の1に減らせるという研究もある。
白川さんは、女性特有の悩みの解決にも昼寝が効果的と話す。

「女性の場合、月経前に眠気を感じる人が3割ほどいます。また、更年期の人も日中に眠気を感じやすい。そんな人は昼寝をして脳をリフレッシュさせ、午後を乗り切るといいでしょう」(白川さん)
そもそも、睡眠には疲労回復効果はもとより、体の機能を修復する重要な働きがある。
「眠っている間に筋肉や内臓、けがをしたところなどが修復され、成長ホルモンも分泌されます。つまり、体を元気に保ち、体力の増進を図るためには、日頃から充分な睡眠をとる必要があるのです。
脳にとっても睡眠は重要です。日中に覚えたことや経験したことは、眠っている間に脳の中で整理され、記憶として定着します。また、体内に蓄積された老廃物や、ストレス物質の洗い流しも行っています。しっかり眠ることで、次の日も仕事に集中できるようになるのはそのためです。睡眠時間が不足すると、脳の回復が行われないため、イライラしたり体調を崩しやすくなります」(楠さん)
夜間に睡眠時間を確保できない人にこそ、昼寝が効果的なのである。