
『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)で初主演を18歳で飾り、当時『史上最年少のイケメンライダー』として注目された半田健人さん(40)。芸歴20年以上を誇る彼が、初著書『たずねる 半田健人の歌謡曲対談集』(本の雑誌社)を、4月23日に発売。歌謡曲研究家として、半田さん自ら高度成長期の日本を元気づけた昭和歌謡界の立役者たちに、ニッチな質問を次々と投げかけ、貴重な証言をあつめた異色対談集だ。発売を記念して、生い立ちや仮面ライダーとの出会い、歌謡曲愛まで詳しく聞いた。
高校2年生で「ジュノンボーイ」ファイナリストに
編集部(以下、――)『たずねる――半田健人の歌謡曲対談集』は、意外にも初著書とか。版元である本の雑誌社の担当編集者から「初めての著作なのに、半田さんは取材者のポジションでいいんですか? もうちょっと前に出ませんか」と心配されたそうですね。
半田(以下、略)「ははは、そういえば。でも、自分が前面に出るのは〝仮面ライダー〟のときだけでいいんです」
――半田さんといえば、やはり俳優の印象が強いです。芸能界入りのきっかけは、2001年の『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』で、ご自身で応募なさったそうですね。このときは……
「高校2年生でした」
―― やっぱり、幼い頃から人気者だった?
「どうでしょう。僕は兵庫県出身で、幼い頃から〝古いもの〟と〝東京〟に魅かれる子供だったのは確かです。歌謡曲にどっぷりハマるようになったのは、10 歳ぐらいですかね。共感してくれる友達はいませんでしたが(笑)」
―― 半田さんが10代の青春時代を送った1990 年代の半ばといえば、ビーイング系のミュージシャンの最盛期です。さらにその先には、小室サウンドを中心にしたエイベックス系の大ブームが控えていました。
「打ち込み音楽は、僕にはまるで響かなかったなぁ。味気ない伴奏に、畳みかける歌い方、歌詞はまるで日記みたい。すべてにおいて、その逆を行っていたのが、1960 年代、70 年代の歌謡曲でした。最初はざっくばらんに聴いていたのですが、耳に留まる曲はたいがい同じ人たちが関わっていることに気付きました。作曲家なら都倉俊一先生。編曲家なら馬飼野俊一先生や川口真先生。同級生たちはロックスターに夢中なのに、僕だけ都倉先生がカリスマ(苦笑)」
――では、最初の夢はミュージャンですか。
「ミュージャンとかシンガーというよりは、職業作曲家に憧れました」
――それが、どうして俳優の道へ?
「とにもかくにも、まずは東京へ。それが僕の夢でしたが、東京で暮らしたいがために東京の大学へ進学するという考えはありませんでした。父はいささか複雑だったようですが、母は僕の考えを尊重してくれたので、芸能界への足掛かりを求めて『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』に応募を決めました。幸い、ファイナリストに残ることができ、所属する事務所も決まりました。それで事務所から最初に『音楽と俳優、どちらをやりたいの?』と訊かれたわけです」

「仮面ライダー」の重要さがわかっていなかった
――やりたいのは音楽ですよね。
「でも、迷わず『俳優』と答えました。名前もキャリアもない新人が最初から『やりたい音楽』をさせてもらえるとは思えなかったので、まずは何も知らない『俳優業』を一から勉強しようと。そこで舞い込んできたのが『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)のオーディションでした」
――そして乾巧(いぬいたくみ)として、いきなりの主演。
「いま思えば『何も分かっていなかったからこそ挑戦できた』というのが、本当のところかもしれません。じつは僕、それまで『仮面ライダー』を観たことがなかったんです」
――えっ!
「幼稚園の頃は『戦闘シーン』が嫌で、仮面ライダーだけでなく、ウルトラマンやゴジラも苦手でした。お気に入りは『ムーミン』、岸田今日子さんが声優を担当されていないシリーズですね。小学生になると、エンタメ洋画の『ターミネーター』や『エイリアン』とかにはハマったのですが。
もしも、自分がきっちり『仮面ライダー』を見て育って、1970年代の藤岡弘さんからの錚々たる役者さんたちや、シリーズそのものの歴史的な意味を知っていたら、プレッシャーに押しつぶされていたかもしれません。だから逆に、今のほうが怖いです。自分にとって『仮面ライダー555』がどれだけ大切なものか、頭でも心でも分かっているつもりなので」
――デビューした頃は、馴染みのない仮面ライダーを軽んじていたわけですか。
「軽んじていた、というより「仮面ライダー」シリーズの主役を受け持つ重大さをわかっていませんでしたね。『仮面ライダー555』がそれなりに話題になったので、放映が終わった後、普通のトレンディドラマやバラエティ番組からも声をかけていただけるようになりました。十代でデビューして、あっという間に二十代に入って。もともとやりたかった音楽の仕事が近づいてくるわけです」
後編では、念願だった歌手活動の苦難、熱のこもった歌謡曲の話などを聞きました。

プロフィール
半田健人(はんだ・けんと)
1984年6月4日、兵庫県芦屋市生まれ。俳優・歌手・音楽研究家。「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」のファイナリストに選ばれたことをきっかけに芸能界入り。2003 年「仮面ライダー 555(ファイズ)」乾巧(いぬい・たくみ)/仮面ライダーファイズ役で初主演を飾る。2014 年、自身初のオリジナル・フル・アルバム「せんちめんたる」を CD&LP 同時発売。2016年にはビクターエンタテインメントからメジャー・デビュー・シングル「十年ロマンス」をリリースするなど、俳優のみならず音楽のフィールドでも精力的に活動を行っている。出版イベント・サイン会が4月27日(日)19時から隣町珈琲(オンライン配信あり)にて、5月2日(金)18時から書泉グランデにて、5月10日(土)13時からタワーレコード渋谷店6Fにて開催予定。