命にかかわるスポーツもある
中山さんは若い頃から運動好きで、いまも日常的にジムでトレーニングをし、冬はスキーなどのウインタースポーツを楽しんでいる。だが、積極的に運動する習慣のある中山さんでも、「スノーボード」「格闘技」「ラグビー」「フルマラソン」「トライアスロン」は、絶対にやらないと話す。
「ストックを使うスキーとは違い、スノーボードはいざというときに手をつくことができないので、骨折や脱臼のリスクが高い。けがをすれば、寝たきりのリスクが増します」(中山さん・以下同)
有酸素運動の代表格として、近年シニアでもチャレンジする人が増えているマラソンも、簡単にはおすすめできないという。

「ハーフマラソンはしても、フルマラソンやトライアスロンは絶対にしません。40代以上になると高強度の有酸素運動は活性酸素が急増して老けやすくなりますし、心臓や血管に大きな負担がかかる。
無理に走るとひざに痛みが出るだけでなく、ロキソプロフェンなどの痛み止めをのんで走ると、脱水症状が進んで腎障害につながる恐れもある。ひどいときはそのまま脳浮腫になり、意識を失うケースも珍しくありません」
戸田さんが避けているのは、ジャンプや背中を後ろに反らせる後屈を伴う「バレーボール」などのスポーツだ。
「跳び上がる動きはひざへの負担が大きく、後屈運動は腰を痛める原因になる。ママさんバレーなどは人気がありますが、50〜60才近くになってからはやめた方がいいでしょう」(戸田さん)
階段は上がるより下りのほうが6倍以上の負荷がかかる
健康維持を目的にするなら、つらい運動習慣を課したり、筋トレで自分を追い込んだり、お金を払ってヨガやピラティスに通う必要はない。
「私自身、基本的には夜、自宅でテレビドラマを見ながらストレッチをします。高齢の患者さんにはCMの間だけスクワットをしたり、バスに乗っている間だけ腹式呼吸をしたりと自分ルールを決めて継続することをおすすめしています」(井上さん)
運動好きの中山さんは、自宅では「ながら運動」を意識しているという。
「歯磨きをするときなどに片脚立ちをしています。洗面台の前ならよろけても体を支えられるので安全です。また、できるだけ電車では座らず、つり革や手すりを持たずに立つようにしたり、病院に出勤するときは階段を使うように心がけたりしています」(中山さん)
階段を上るのは、日常的な動作の中でも特に運動効果が高い。だが、上るのは積極的に行うべきだが、下りる動作は避けるべきだ。
「階段を下りるときは、ひざに歩行時の6倍以上の負荷がかかります。荷物を持っていれば、その負荷も6倍になる。私も、上りは積極的に階段を使いますが、下りるときはエスカレーターやエレベーターを使います」(戸田さん)

毎日の運動がやりすぎか否かを判断する1つの基準は「脈拍」だ。
「どんな運動も、軽く汗をかくくらいがちょうどいい。例えばウオーキングなら、少し息が上がるくらいのスピードです。
安全に理想的な運動効果が得られる負荷の目安は、1分間の脈拍が100回になるくらいがベスト。脈拍は、10秒間測った回数に6をかけることでわかります」(中山さん)
無理をしないことも大切だと、井上さんは言う。
「もし、運動をして痛みや違和感があったらすぐにやめること。私も、前日にたくさん歩いてひざが痛くなったら、階段も使わず、歩く距離もできるだけ減らしています」
健康長寿のためには、いくつになっても運動は必須。だからこそ、自分が無理なく楽しめる範囲で、適度な負荷の中で行うことが重要なのだ。
※女性セブン2025年6月19日号