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【”最強の遺言書”をつくる家族会議の開き方】出席者は「家族全員」ではなく「相続人全員」が望ましい いきなり“分け方の話”をするのはNG 

最強の遺言書をつくるための家族会議の開き方とは(写真/PIXTA)
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資産家一族が集まって莫大な遺産を奪い合う——多くの人が抱く「相続」のイメージだが、現実は違う。うちは普通の家庭だからと「遺言書」をつくらずにいる人ほど、相続争いや相続税に苦しむことになる。誰も後悔しない「最強の遺言書」をつくるための家族会議の開き方を解説する。【全3回の第1回】

10月からは「デジタル遺言書」も使えるように

少子高齢化、多死化が進み、2025年にはいわゆる団塊世代全員が75才以上の後期高齢者になるなどの影響で相続件数が急増。“大相続時代”を迎えて制度改正が重ねられる中、10月から施行が予定されているのが「デジタル遺言書」だ。公証役場で作成する公正証書遺言が電子化され、紙保管からPDFでの保存に移行する。司法書士で行政書士の太田昌宏さんが言う。

「これまでの対面や出張方式に加え、ウェブ会議システムを利用したリモート作成が可能になり、署名はタッチペンによる電子サインに。さらに従来の紙の正本・謄本に加えて電子謄本の交付も受けられるようになります。遺言者や証人が特別な準備をする必要はなく、より身近で利便性の高い制度へと変わる見込みです」

こうした動きは、相続件数急増に伴いトラブルも増加していることが背景にあり、回避のために遺言書の必要性が高まっているとも言える。「お金持ちがつくるもの」「何を書けばいいかわからない」とつい避けてしまいがちだが、高齢の親がいつ不測の事態に陥るかはわからず、認知症などで遺言書を残せなくなることもある。「法律的に有効で、家族に共有され、全員がその内容に納得している」“最強の遺言書”があれば、相続税対策や手続きをスムーズにし、“争族”を避けることにも大いに役立つ。そして、作成には「家族会議」が欠かせない。

「ただ遺言書を書くだけならひとりでもできますが、“どうしてそんな分け方をしたのか”について親族から納得を得られなければもめる。すると手続きはいつまでも進みません。あらかじめ家族会議で遺言者の意図を伝えておき、相続人の間に不公平感があれば調整しておくことが、法律的にはもちろん、心理的にも最強の遺言書への近道なのです」(太田さん)

円満でスムーズな相続のための遺言書づくりは、どう進めればいいのか。

出席するのは「法定相続人全員」であって「家族全員」ではない

最強の遺言書のための家族会議の出席者は「相続人全員」が望ましい。相続実務士で夢相続代表の曽根惠子さんが言う。

「きょうだいのうち、誰かひとりでも出席していないと、後から“聞いてない”ともめる可能性が大きいです」

ただし、あくまでも「法定相続人全員」であって「家族全員」ではないことに注意すべきだと話すのは、相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さんだ。

「長男の嫁や長女の婿、孫など、家族であっても、法定相続人でない人を呼ぶべきではありません。“子供が多いからって、毎年たくさんお年玉をもらっているでしょう”などと、相続とは関係のないことまで話し合いが及び、もめやすくなる恐れがあります」

同席すべきはあくまでも父、母、子供たちだけ。会議に招集するのは、遺言者となる「親」からが理想的だ。「今度、みんなで食事でもしよう」と機会を設けたり、正月や盆の帰省や法事などのタイミングで「終活のことで」とやんわり切り出すのがいいだろう。

最強の遺言書のための家族会議
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一方で、親の気持ちがなかなか遺言書に向かないこともあるだろう。子供、すなわち相続人側から切り出す場合は、伝え方が重要だ。

「ニュースや知人のトラブル事例を引き合いに出すと、比較的自然と話ができます。また自分も協力するからと、親任せにしない意思を伝えることも大切です」(明石さん)

相続人全員が納得する遺言書をつくるための会議なので、対立を招きかねない進め方はNG。

いざ会議が始まってからも、「家は長男に渡す」「貯金は半分ずつでいい?」などと、いきなり分け方の話はしないこと。

「会議のはじめは、負債を含む財産の全体像の共有から。これくらいの貯蓄があって、この家を売るとこれくらいの金額で、いくらの保険に入っているよと内容も含めて伝えましょう。このとき、不動産評価額や株などの有価証券のほか、負債も隠さず、おおよその金額を共有してください。『分け方』の話はその後です」(太田さん)

(第2回に続く)

※女性セブン2025年9月25日・10月2日号