健康・医療

高血圧、がん、心筋梗塞など…さまざまな病気のリスクを下げる「100年免疫力」のつくり方 重要なのは“腸内環境”や“ストレスをためない生活習慣” 

病気のリスクを下げる免疫力のつくり方とは(写真/PIXTA)
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 年を重ねれば重ねるほど、体の不調が重なり、高血圧や糖尿病といった持病が増えていく。その一つひとつを予防するのは難しいが、「強い体」をつくることで“病気になりにくい”状態を目指すことはできる。それはあらゆる病原体から身を守る免疫力を高めること。専門家たちが明かすその秘訣とは──いますぐ実践して、100年免疫力を手に入れよう。

 いまだ暑さが残るなか、インフルエンザが異例の大流行。一時は下火になっていた新型コロナウイルスも、変異株「ニンバス」の感染が急拡大している。

 愛知県在住の主婦・Aさん(52才)もこの夏、ニンバスに感染したひとり。

「ニンバスの特徴は“カミソリを飲み込んだような痛さ”とよく表現されていますが、本当に喉が痛くてたまらなかった。実はコロナ感染はこれが2回目で、1回目は39℃の高熱でうなされました。

 私以外の家族は感染せず、普段からかぜをひくのも私だけ。しかもいったんかかると、なかなか治らない。なぜなのでしょうか……」

 ウイルスなどに感染しやすい人としにくい人、病気が長引く人と治りやすい人の差はいったい何なのか──そのキーワードになるのが「免疫力」だ。免疫力に詳しいイシハラクリニック副院長の石原新菜さんが説明する。

「“疫を免れる”とあるように、免疫力とは文字通り“病気にならない力”です。つまり、免疫力を鍛えれば病院に頼らない健康的な生活を送れます。免疫力は加齢とともに低下しやすくなりますが、食事や生活習慣などに気をつけることで、強化することは可能です」

 何才になっても病気知らずに過ごせる「100年免疫力」の鍛え方を専門家に取材した。

免疫の乱れは万病のもと

 体には細菌やウイルスが入ってくるのを防いだり、侵入してきた異物や異常な細胞を攻撃したりして、健康を保つ機能が備わっている。それが免疫だ。

「免疫細胞と呼ばれる白血球の働きによるもので、リンパ球や好中球、T細胞、NK細胞などいろいろな種類があります。それぞれが役割分担をしながら、がんをはじめ、さまざまな病気から体を守っています」(石原さん・以下同)

 免疫力はストレスや睡眠不足、栄養不足などで低下しやすくなるが、高齢になると免疫機能そのものが落ちてしまう。例えば、50才を過ぎると帯状疱疹のワクチン接種を推奨されるのもそのためだ。

「帯状疱疹(たいじょうほうしん)は水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスによるもの。子供のときにワクチンを打っているので若い頃は免疫力が勝って発症せずにすんでいたけれど、高齢になって免疫力が落ちると、ウイルスの力が勝って発症しやすくなるのです」

高齢になると免疫機能が落ちてしまう(写真/PIXTA)
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 アレルギー疾患を専門とする、秋葉原駅クリニックの佐々木欧さんが続ける。

「加齢に伴う免疫の不調を表す『インフラメイジング』という言葉があります。炎症(インフラメーション)と老化(エイジング)を合わせた造語で、年齢を重ねるごとに体内で炎症が起こりやすくなる現象を指します。

 免疫の乱れがもたらす慢性炎症は万病のもとで、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、心筋梗塞や脳梗塞、がん、骨粗しょう症、さらに認知機能の低下にもかかわります。免疫を整え、慢性炎症を予防することが健康長寿の鍵だといえます」

 歯周病がひどくなり、歯周病菌が全身に飛んで心臓病などの重大な病気を招くのも、免疫力の低下に関係しているという。

 だが、逆にいえば免疫力を鍛えれば、病気知らずの健康的な生活を送れるということだ。

「花粉症のように免疫機能が過剰に反応することで引き起こされるアレルギー症状もあり、免疫力はただ高ければいいという単純なものではありません。オーケストラの演奏のように、バランスよく働くことがもっとも重要。免疫機能は独立しているものではなく、食事や運動、心の健康や社会活動といった脳機能とも密接に影響しあっているのです」(佐々木さん)

理想的な肉と野菜の比率は1:3

 免疫力に大きな影響を与えるのが、腸の働きだ。辨野腸内フローラ研究所理事長で腸内細菌学者の辨野義己さんが説明する。

「全身の7〜8割の免疫細胞が腸に集約していて、外から入ってきたものを排除したり受け入れたりする判断は、腸管の免疫細胞が担っています。

 そのため、腸内環境が悪化するとその働きが鈍ってしまう。腸内で善玉菌が減って悪玉菌が増えると、有毒物質が腸粘膜で吸収されて全身に蔓延し、さまざまな病気を引き起こします」

 腸内の善玉菌は、それぞれが免疫細胞のスイッチを入れる役割も果たしている。しかし、年を重ねると善玉菌が減ったり、腸内細菌の多様性が失われるなどの変化が起こる。それが免疫力低下の要因の1つとなるため、善玉菌の数と種類を増やせれば免疫力を高めることが可能になる。その重要な鍵を握るのが食事だ。

「腸内環境の乱れの最大の原因は便秘。毎日お通じがあることが、腸内環境の安定につながります。そのためには海藻類やきのこ類、野菜など水溶性食物繊維を多く含む食材を摂ることが大事。便を滑らかに出しやすくしてくれるうえ、腸内細菌のエサになって善玉菌を増やしてくれる。おすすめは、菊いもやきくらげ、こんにゃく、わかめなどです。

 豆類やいも類などに含まれる不溶性食物繊維も必要で、食生活では水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を2:3の割合で摂ることが理想です」(辨野さん)

 石原さんが強く推奨するのは納豆だ。

「腸内環境を整える納豆菌と食物繊維が同時に摂れ、たんぱく質も豊富。血圧を下げる効果のあるナットウキナーゼやビタミンKも含まれていて、栄養バランスに優れています」

 ビタミンDの摂取も大事になる。ビタミンDには免疫バランスを整える働きがあり、きのこ類に多く含まれる。なかでも辨野さんおすすめのきくらげは、しいたけの約7倍の含有量があるという。ほかにも青魚がいいとされる。

「あじやいわし、さばなどの青魚を積極的に摂ってください。ちりめんじゃこは天日に干されているのでビタミンDが増えています」(石原さん)

全身の7~8割の免疫細胞が腸に集約しているため、食物繊維などを摂取する腸活が大事になる(写真/PIXTA)
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 青魚のメリットはビタミンDだけではない。

「炎症を抑制する作用のあるオメガ3系の不飽和脂肪酸とたんぱく質が豊富。たんぱく質は筋肉をはじめ免疫細胞を含む全身の細胞の材料になるので、一日を通じてしっかり摂りましょう。朝は不足しがちなので、卵や納豆、豆腐、牛乳、ヨーグルトなどで何かしらは摂るように心がけること。

 腸内細菌が多様なほど腸内環境が安定するので、ヨーグルトも時々銘柄を変えたり、みそや粕漬けなどさまざまな発酵食品を日替わりで摂るといいでしょう」(佐々木さん)

 辨野さんも30年前までひどい花粉症に悩まされていたが、「300gのヨーグルトを1日1個、2年間食べ続けていたら症状が軽減した」と話す。

 たんぱく質というと肉のイメージが強いが、そう単純なことではない。

「動物性脂肪の摂取に偏ると免疫機能は低下するといわれています。食べる比率は『肉1:野菜3』。焼き肉も肉だけ食べるのではなく、サンチュに巻いてコチュジャンやにんにくを加えて食べるような習慣をつけましょう。

 私は『1:3』を意識しながらモロヘイヤやオクラ、きのこ、海藻などを積極的に摂取。なめこなどのきのこ類、わかめなどの海藻類はみそ汁に入れて具だくさんにして飲んでいます」(辨野さん)

 免疫力を低下させる食品もある。

「保存料や人工甘味料を使った加工食品、酸化した脂質は腸内環境を乱しがちです。糖質の摂りすぎも高血糖を招いてインスリン抵抗性を悪化させ、免疫機能を乱します」(佐々木さん)

 食べ物に気をつけると同時に腸を温めることも意識したい。石原さんが言う。

「腸を温めることは免疫力アップになるので、腹巻きも忘れないで。昼間も寝るときもつけることをおすすめします」

 腸を守ることは、すなわち免疫力を高めることにつながるのだ。

再婚したら免疫力がアップした?

 生活習慣も免疫力に大きな影響を与える。石原さんは「起きたらまず太陽の光を浴びる」ことをすすめる。

「“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンが分泌され、自律神経のバランスが整い、免疫機能にプラスの効果をもたらします」

 朝、太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜のいい「眠り」にもつながる。睡眠中に分泌される成長ホルモンが免疫細胞を活性化させるため、睡眠時間と質は免疫力アップに欠かせない。

「睡眠時間が5時間未満の人と7時間以上の人では、かぜをひく確率が4倍違うという研究があります。6時間と7時間ではそこまで大差がないので、最低6時間は寝た方がいい。

 寝ているときは究極のリラックス状態になり、腸にとってのゴールデンタイム。ぐっすり眠ることで善玉菌の活動がよくなり、免疫力も上がります」(石原さん・以下同)

 ただし、食べてすぐに寝るのは睡眠の質を悪くする。暴飲暴食や脂っこいものは避け、夕食は就寝の3時間前には終わらせたい。

「飢餓状態がオートファジー(細胞が自らの一部を分解して再利用する作用)を活性化させ、免疫機能を高めることがわかっています。腹八分目を心がけ、なるべく空腹タイムを確保すること。可能な人は『1日2食』にして、16時間のプチ断食を実践するのもいいと思います」

免疫力・腸年齢チェックシート
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 入浴も免疫力アップに効果的だ。

「リラックス効果や冷え取りだけではありません。40〜41℃のお湯に15〜20分つかると、『ヒートショックプロテイン』(HSP)というたんぱく質が数日後をピークに作られます。これが免疫力と代謝のアップ、老化防止につながり、ストレスにも強くなるといわれています」

 日常生活で何より大切なのは、ストレスをためないこと。リラックスし、副交感神経が優位になることで、腸内細菌の活動も活発になり、免疫力が高まるという。

 神奈川県に住むBさん(62才)は、60才を超えてから健康のために塩分や糖分などを気にして、食生活を制限してきた。それ以来、体調がスッキリせず、季節ごとにかぜをひいたり腹痛を起こしたりしていたという。

「そんなとき同窓会で友人たちと再会し、週に1回待ち合わせて一緒に街歩きをすることにしたんです。

 ストレスをためないためにもおいしそうなお店を探して、最後は“自分へのご褒美”にみんなでデザートを食べたりして(笑い)。気がついたら、体の不調をほとんど感じなくなっていました」(Bさん)

 趣味を持つのもいい。

「特に歌って声を出すことはストレスを軽減させ、気分改善につながります。合唱なら社会交流も含まれるので、心理的な面からも免疫にいい。楽器や語学など、新しいことへの挑戦は免疫力だけでなく認知機能の維持にも役立ちます。

 疲れていたら、休日はダラダラ過ごしてもいいでしょう。疲労がたまっていると免疫力が低下しますから」(佐々木さん)

 2024年8月にステージ3Aの乳がん(浸潤性小葉がん)を公表し、11月に右乳房全摘手術を受けた梅宮アンナ(53才)は今年5月に再婚を発表。現在はのむ抗がん剤とホルモン剤による治療を続けているが、ほとんど不安定な状態がないという。

 今年9月に行われたトークショーでは、「再婚して免疫力がアップしたから?」との質問に「結婚したからだと思います。間違いなく!」と笑顔で答えていた。

 石原さんが分析する。

「恋愛のように楽しく、笑顔になることは気持ちが前向きになり、免疫力の向上につながります」

 つまりネガティブな気持ちでいると、免疫力を低下させてしまうということ。

「孤立は心理的ストレスを増大させます。人づきあいがストレスだという人は、いつも行くお店の人や宅配便などの荷物を届けてくれる人など、日常で会う人に“ありがとう”と感謝の気持ちをこめて挨拶することでも効果があります」(佐々木さん・以下同)

インナーマッスルを鍛える

 体を動かすことも、免疫力を高めることにつながる。

「適度な運動は全身の血流を促進させ、免疫細胞が体内を効率よく巡るのを助けます。少し息が上がる程度の早歩きを30〜45分、週に3〜5日が目安。水分を摂りながら行うと循環が保たれてさらに効果的です。座りっぱなしも避けて、こまめに歩くだけでも効果があります」

 筋肉には免疫細胞の材料になるアミノ酸の供給源の役割もあるため、意識的に筋肉を鍛えることも必要だ。

運動は大事だが、長時間のランニングなど過度な運動は逆効果に(写真/PIXTA)
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「体幹や下半身の筋肉を鍛え、加齢によって筋肉量が減少する『サルコペニア』を防ぐことは免疫機能を保つうえでも重要です。

 おすすめは、腰やひざに負担がかからない範囲で行うスクワット。最初は1日5回から始め、慣れてきたら10回を1日に2〜3セットくらいに増やすといい。足を肩幅よりやや広めに開き、椅子の背などに手を添えると安全に行うことができます」

 現在77才の辨野さんは、「スクワットに救われた」と話す。

「実は73才の頃に初めて便秘になり、非常に苦しい思いをしました。そこで腸の周りの筋肉を鍛えるためにスクワットを始めたところ、すっきり解消したんです」

 辨野さんがほかに推奨するのは、速歩とゆっくりを繰り返すウオーキングと、下りの階段歩き。いずれもインナーマッスルが鍛えられて、「腸活」につながるという。

 運動は大切だが、無理をする必要はない。汗だくになって息が上がるほどの運動は逆効果になることも。

「過度な運動は免疫機能を一時的に抑制し、かぜなどの上気道感染症のリスクが高まるとされています」(佐々木さん)

 食事も生活習慣も運動も、明るく前向きに取り組むことで「100年免疫力」を手に入れよう。

女性セブン2025109日号 

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