
男女雇用機会均等法の施行からまもなく40年。女性の就業率は年々上がり、専業主婦世帯と共働き世帯は完全に逆転した。女性の活躍が推進される社会では、日本初の女性総理大臣となった高市早苗総理のように「仕事に邁進」し、家計を担う「大黒柱妻」が増えている。だが、その実態はさまざまだ。
「稼ごうと思えばすぐに稼げる」
美容師をするYさん(49才)の夫(56才)の職業は、ひとり親方の大工。収入はYさんの半分ほどだ。

「仕事がないときや、雨で現場がなくなったときなどは家でゴロゴロしています。雨が降っても洗濯物を入れないし、どんなに私が忙しそうにしていてもご飯も炊いてくれません。『家にいるなら家事を手伝ってよ』と頼んだことは何回もありますが『おれはお前に食わせてもらってるわけじゃない』と腰をあげようとしない。
周りから『奥さんが稼いでるから悠々自適ですね』とか言われるのが屈辱みたいで『おれだって、仕事さえあればお前より全然稼げるんだ』と逆ギレするので面倒くさくなって頼まなくなりました。妻に家事をやらせることで夫のメンツを保てているのかな。
ただでさえ、私の方が夫よりも長時間働いているので不公平じゃないですか。でもそれを言うとへそを曲げるので、私は食洗機やロボット掃除機、洗濯乾燥機などの便利家電を買い揃えたり、ウーバーイーツを利用して家事負担を減らしています。これらは当然私の経済力の賜物ですが、それにはもちろん触れず、“便利な世の中になったよねえ”とだけ言っています」(Yさん)
夫より稼ぐと気遣いが必要
夫より稼いでいながらも、いや夫より稼いでいるからこそ「夫への気遣いが必要」だと話すのは、フリーランスのデザイナー、Mさん(35才)。
「4才年下の夫は公務員で、年齢的にも収入は高くありません。結婚前からそれが夫のコンプレックスになっていたようなので、『家を建てよう』ということになったとき、本当は私の貯金でキャッシュでまかなえたところを、あえて夫名義で住宅ローンを組みました。
公務員ですから審査もスムーズだし、予想よりも融資限度額が高かったんです。“やっぱり公務員は強いわ”“フリーランスじゃ、ローンは組めなかったかも”などと持ち上げたら、夫は見たことがないくらい得意そうな顔をしていました。気をよくしたのか夫は限度額いっぱいまでローンを組み、お陰で立派な家が完成。夫も満足そうで自画自賛していますが、金利がもったいないので、自分の貯金と収入でこっそり繰り上げ返済するつもりです」

漫画家の瀧波ユカリさんも、「大黒柱妻」のひとり。想像もしなかったからこそ、重責を感じたと話す。
「結婚して数年間、子供が生まれて乳児のうちは共働きだったのですが、お互いフリーランスだったので時間の取り合いになってしまい、夫婦で相談して夫から『漫画を優先した方がいいんじゃないか』という提案を受けていまの形になりました。必ずしも私が仕事をして夫が家事をするというわけじゃなく、夫には経理や漫画データの管理など仕事もサポートしてもらっています。
でも、漫画は自分で収入をコントロールできる仕事ではないので、うまくいかなくなったらどうしようというプレッシャーは常にあります」(瀧波さん・以下同)
男性より稼げない社会構造
不安は常に夫に共有しながら解消していくという瀧波さんだが、「もし夫が大黒柱だったら」と思うと、それはそれで不安を覚えるという。
「友人や知人の話を聞いていると、やっぱり稼げない妻の方の発言権が低くなるというのはよくあるパターンのようですし、“おれより稼いでから言え!”というようなことを言われている女性っていっぱいいるんです。もし自分の夫がそういうタイプだったらすごくキツいですよね。
そもそも女性は家事や育児、介護を担うものとされていて、男性よりも稼げない社会構造で不利益を被っている。それなのにパートナーから“稼いでから発言しろ”なんて言われたら耐えられません」
ここ数年、瀧波家にも介護の問題が生じた。
「夫の両親も高齢となりケアサービスが必要ですが、私がそのために夫の実家に行くことはないです。夫が自分でやるから、と。でももし夫が稼ぎ頭で私がずっと家にいるようなライフスタイルだったら、私が動かざるを得なかったかも」