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《独占解説》劇団四季『アナと雪の女王』オラフの操作、エルサのドレス、オーケンの店のヒミツほかディズニー作品におけるこだわりを解説!

オラフ役の山田充人さんはインタビューに答えながら、パペットを自然と操作。目を見開いたり眉毛を上げたり、オラフに話しかけられている気分に
オラフ役の山田充人さんはインタビューに答えながら、パペットを自然と操作。目を見開いたり眉毛を上げたり、オラフに話しかけられている気分に
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1995年の『美女と野獣』を皮切りに、30年にわたりディズニーミュージカルを上演し、計7作品で3200万人以上を動員してきた劇団四季。『女性セブンプラス』では、大ヒットロングランの舞台裏を独占で徹底取材! 今回は『アナと雪の女王』から、『女性セブン』(2025年11月13・20日号)に掲載しきれなかった俳優のインタビューのほか、舞台装置、衣裳、かつらのこだわりについてもたっぷりご紹介します!【前・後編の後編。前編を読む

【俳優インタビュー】オラフ役・山田充人さんが教える「まばたきの極意」

『アナと雪の女王』のオラフ役として、開幕キャストの1人に抜擢された山田充人さん。オラフのパペットとともに、インタビューに答えてくれました。

──コミカルなオラフ役のオーディション受けようと思われた理由は?

山田:この『アナと雪の女王』は、物語後半でのハンス王子の行動など、ディズニー映画らしからぬ斬新なストーリーがとても印象に残っている作品だったんです。でもいざ実際にオーディションとなると最初はどの役にしようかすごく迷って…。

それまでの自分の路線(『キャッツ』のオールドデュトロノミー役など)とまったく違ったので、最初、自分の中ではオラフは候補になかったんです。ところが、課題のセリフを喋ってみると、意外にしっくりきました。

──いろいろな役の課題を試してみた結果、オラフが一番しっくりきたということですか?

山田:はい。課題が出たらまず、どの役のオーディションを受けるか申請する前に、練習をしてみるんです。ぼくができそうな役は一通りやってみたうえで、“これだ!”と思いました。

──最終的に選ばれた理由は、ご自身では何だったと思いますか?

山田:オラフは性別を問われない役なので、オーディションも男性と女性が混じって行われました。このこと自体が特殊なケースですし、受けている人も、本当にいろいろなキャラクターの人たちがいたので、誰が選ばれるかまったく想像がつかなくて。ですから、選ばれたときは、喜びと同時に驚きが大きかったですね。

──オラフ役といえばパペットの操作も必須ですよね。眉毛を上げ下げしたり、目を細めたり、表情が豊かでその分操作も大変そうです。

山田:右手で眉毛と目と口を、左手で腕を操作しているんですが、角度も加えることで微妙なニュアンスを出すようにしています。

とにかく最初は操作を覚えることに必死でした。

例えばまばたきでいうと、初めはセリフの句読点のタイミングで必ずするように決めて、慣れたら今度は自分のまばたきと一緒になるよう連動させて…と、段階を経て体になじませていきました。いまでは“オラフの目が乾かないタイミング”で、まばたきできるようになりました(笑い)。

演じる山田充人さんのほんわかした雰囲気もオラフそのもの!
演じる山田充人さんのほんわかした雰囲気もオラフそのもの!
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──たしかに! 山田さんとはまた別のタイミングでまばたきしているんですね!! いまお話を聞きながらも、オラフがまっすぐこちらを見ながらウンウンと頷いてくれているので、オラフがインタビューに応じてくれている錯覚に陥りました。

山田:あはは(笑い)!後ろから操作するので、ぼくからオラフの前側が見えません。腕についても、本番中はまったく見えないので、いま、腕は胸のあたりにあるとかお腹あたりだな、とか、口元にあるはずだなとか、稽古を重ねながら、ひたすら自分の感覚を頼りに覚えていきました。操作にとらわれずに舞台に立てたのは、稽古を始めてから1年は経っていましたね。

眉を下げて目をトロンとしてみたり、表情豊か
眉を下げて目をトロンとしてみたり、表情豊か
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腕は小枝で表現。胴体には雪の結晶や石のボタンが
腕は小枝で表現。胴体には雪の結晶や石のボタンが
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──パペットを操りながら、背後に俳優として同時に存在しているのも、オラフ役の特徴です。その難しさは?

山田:観客のみなさんはパペットの方を見ていらっしゃいますが、語りを入れる俳優も見えているわけです。パペットに完全に意識を持っていくべきか、操作しながら演じる“人”の部分にどのくらい意識を残すべきかは悩ましいところで、いまも試行錯誤しています。

毎回の舞台で、同じ感覚、同じ言葉だけれど、何も考えずに、その場に立つ。難しさもありますが、これからも“相棒”と一心同体でありたいと思っています。

【オーケンの店】舞台監督が明かす“隠れディズニー”と見えない細部へのこだわり

暖をとるためにオーケン(右端)の店を訪れたアナとオラフ、クリストフ(撮影:阿部章仁)(C)Disney
暖をとるためにオーケン(右端)の店を訪れたアナとオラフ、クリストフ(撮影:阿部章仁)(C)Disney
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エルサを追って雪山に向かうアナが途中、暖を取るために寄った「オーケンの店」はサウナが併設された山小屋で、店内には食料品から衣料品、雑貨類までさまざまなものが揃う。ここには遊び心あふれる、細かすぎるこだわりが。舞台監督の野田彩未さんが解説してくれた。

半額になった水着を手に解説してくれた舞台監督の野田彩未さん
半額になった水着を手に解説してくれた舞台監督の野田彩未さん
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「エルサの魔法によって突然冬になってしまったアレンデール。そこで、夏物一掃のセールになっているんです。『水着が半額』というセリフ通り、ボーダーの水着には半額に値下げした値札がついています。

そのほか、戸棚などには複数のディズニーキャラクターが潜んでいますよ」(野田さん・以下同)

食べ物から土産物、生活雑貨も揃うオーケンの店。雪や氷もリアルに再現
食べ物から土産物、生活雑貨も揃うオーケンの店。雪や氷もリアルに再現
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よく目を凝らすと、『ライオンキング』のシンバのマスク、ミッキーマウス&ミニーマウス、スティッチ、アイアンマン、『アラジン』の魔法のランプ、『メリー・ポピンズ』のオウムの持ち手の傘を発見!

ミッキーの置物と『ライオンキング』のシンバのマスク
ミッキーの置物と『ライオンキング』のシンバのマスク
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スティッチとアイアンマンの人形
スティッチとアイアンマンの人形
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小さ~い、『アラジン』の魔法のランプ
小さ~い、『アラジン』の魔法のランプ
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『メリー・ポピンズ』のオウムの取っ手の傘
『メリー・ポピンズ』のオウムの取っ手の傘
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「絶対ここにこれを配置する、という世界共通の決まりがあるわけではなくて、ディズニーのちょっとした遊び心ですね。小道具の雑貨は、スタッフがアンティークショップで買い集めたものも使ったりしています」

そんなこだわりもありつつ、『アナ雪』の世界観を見事に作り上げたと思うと、感動もひとしおだ。当然、メンテナンスも細部まで丁寧に行われている。

「スヴェンの好物・にんじんの入った木箱は、クリストフが文句を言いながら乱雑に扱うシーンのため、こまめにメンテナンスしていますし、カウンターにもクリストフがのぼるので、補強は欠かせません。

綿でできた雪は、白さをキープするため、黄色くなってきたら貼り替えるようにしています」

にんじん4本で950K。日本円ではいかほどの設定なのか気になるところ
にんじん4本で950K。日本円ではいかほどの設定なのか気になるところ
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また、舞台の左右と上を囲む、プロセニアムアーチと呼ばれる飾りには、北欧の象形文字を模した彫刻が施されている。

「舞台の下手には『リトルマーメイド』の人魚やセバスチャンのような絵柄が。ほかにも『アラジン』の空飛ぶ魔法の絨毯やランプなど、10作品超のモチーフが描かれているんですよ」

開演前には、木彫風のプロセニアムアーチにあるディズニー作品の絵柄を探すのも楽しい
開演前には、木彫風のプロセニアムアーチにあるディズニー作品の絵柄を探すのも楽しい
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向かって左側の下手には『リトルマーメイド』の人魚やセバスチャンのような絵柄が
向かって左側の下手には『リトルマーメイド』の人魚やセバスチャンのような絵柄が
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ディズニー作品らしい遊び心が随所に散りばめられていて、会場に足を運ぶたびに新しい発見があるのも『アナと雪の女王』の楽しみの1つ。観劇の際には、双眼鏡を片手に、舞台の隅々を探してみるべし!

【エルサ&アナの衣裳】美しさと機能性の両立で“早着替え”も可能に

エルサのドレスのビーズを一針一針、つけ直すコスチューム担当・山形亜希さん
エルサのドレスのビーズを一針一針、つけ直すコスチューム担当・山形亜希さん
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同じ役であっても、衣裳は着回しされるのではなく、基本的に俳優のサイズに合わせていちから仕立てられる。俳優一人ひとりを採寸し、衣裳が概ね完成してからもフィッティングを行って微調整を加えていくのだ。

子どもにも大人気のエルサとアナのドレスについて、コスチューム担当・山形亜希さんが説明してくれた。

「『ありのままで』を歌唱する際のエルサのドレスは、とにかくきらびやかに輝くよう、種類と形の違うビーズやスパンコールが全面に縫い付けられています。ビーズはすべて手縫いされています。

衣裳を俳優に試着してもらい、ゆるく感じたり、動いたときに違和感がないかといった声を聞きながら、ミリ単位で修正します。実は、俳優のその日のコンディションによっても急遽手直しということもあるんですよ」(山形さん・以下同)

エルサはとくに舞台上で、衣裳の“早替え”があるが、それにも工夫があるという。

「このエルサのドレスは、早着替えにも対応できるよう、実は袖にはファスナー、首元にはホックがついているのが特徴です」

舞台から見ると、ファスナーがついているなんて、まったく気づかない。

氷の結晶を思わせる、さまざまな形のビーズやスワロフスキーがあしらわれている
氷の結晶を思わせる、さまざまな形のビーズやスワロフスキーがあしらわれている
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では、アナのドレスは? エルサの戴冠式の際にアナが着る、いかにもお姫さまといったドレスも、とても華やかで可憐。

「このドレスは、“一度、着てみたい”という声をよくいただきます。

これを着てハンスと激しく踊るシーンがありますから、全体的に厚みがあってしっかりした作りになっているので、肩紐も落ちません。

前身ごろのビーズは飛び出ないデザインで、ハンスにリフトされても生地を傷めないようになっています。スカートの前側には表生地と裏地をつなぐ糸ループがたくさんつけられ、足を上げても引っかからないような工夫が施されているんですよ」

エルサの戴冠式でハンス王子と出会ったアナは、ドレス姿で踊り、リフトされる場面も (C)Disney
エルサの戴冠式でハンス王子と出会ったアナは、ドレス姿で踊り、リフトされる場面も (C)Disney
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激しく動くアナのドレスは前身頃を念入りの補強
激しく動くアナのドレスは前身頃を念入りに補強
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【ヘアー】同じ役・同じ髪形でも、俳優の骨格に合わせてかつらを微調整

エルサの髪を結い上げるヘアー・メイク担当の藤岡莉子さん
エルサの髪を結い上げるヘアー・メイク担当の藤岡莉子さん
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“映え”ながらも“扱いやすく”するのは、衣裳だけでなく、かつらも同じ。ヘアー・メイク担当の藤岡莉子さんは言う。

「髪形をキープするために使うのは、スプレーではなくヘアクリーム。スプレーでガチガチに固めてしまうと、かえって自然な動きが損なわれて違和感が出てしまうんです。かといってシャンプーも頻繁にはできない。そこでヘアクリームを使用し、髪形をキープしつつ、柔らかい質感を保っています」(藤岡さん・以下同)

そう話しながら、エルサのかつらを器用に整えていく藤岡さん。もしかして、終演後、毎回、三つ編みを編み直している?

「そうなんです。三つ編みは編み直した方が断然きれいなので、終演後に毎回、いちから編み直しています。

エルサのかつらにはビーズのワイヤーを編み込むことで、氷の魔法を持つエルサらしさを表現。ただしそのまま編み込むと毛流れがボサボサになってしまうので、太くて短いストローを毛束の間に挿しこんでから、その中にビーズワイヤーを通していきます。こうすると毛流れが乱れませんから、このワザは、お子さんの髪を結ってあげるときにも使えますよ。

結った髪が絡まないよう、切った太いストローを使ってビーズのワイヤーを通していく
結った髪が絡まないよう、切った太いストローを使ってビーズのワイヤーを通していく
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衣裳と同じく、かつらも俳優のサイズに合わせて用意されていると藤岡さん。

「同じ役であっても、俳優の顔立ちに合わせて前髪の立ち上がり方を少し変えるなど、骨格に合わせて調整しています」

確かに、丸顔の人と面長の人では、似合う前髪が違う。このように、きめ細かくサポートするヘアー・メイク集団だが、実は過去にこんなヒヤッとした経験があったとも。

「エルサで言うと、衣裳にかつらのビーズが引っかかって取れなくなってしまって、早着替えシーンで普段よりタイムロスしたことがありました。本番ではほどけないようにしつつ、いざというときにほどけやすいようにも作る。遠回りなようでも、それが確実なんです」

マチネの終演から3時間近くたっても、まだまだメンテナンスは続く
マチネの終演から3時間近くたっても、まだまだメンテナンスは続く
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こうした裏方のメンテナンスがあってこそ、俳優は演技に、観客はストーリーに没頭できるというもの。次に観賞するときは、舞台装置や小道具、そして衣裳やかつらにも、ぜひ目を向けてみたい。

(前編を読む)

取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥

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