
1995年の『美女と野獣』を皮切りに、30年にわたりディズニーミュージカルを上演し、計7作品で3200万人以上を動員してきた劇団四季。『女性セブンプラス』では、大ヒットロングランの舞台裏を独占で徹底取材! 今回は『アナと雪の女王』から、『女性セブン』(2025年11月13・20日号)に掲載しきれなかった俳優のインタビューのほか、舞台装置、衣裳、かつらのこだわりについてもたっぷりご紹介します!【前・後編の前編】
【インタビュー】エルサ役・谷原志音さん×アナ役・三代川柚姫さん「ディズニーヒロインには、必ず共感できる部分がある」

──2013年公開のアニメーション映画を基に創作されたミュージカル『アナと雪の女王』は、2021年の開幕と同時に大きな話題を集め、新たな“アナ雪”旋風を巻き起こしました。おふたりとも2022年に初出演となりましたが、選ばれたときのお気持ちは覚えていますか?
谷原:実は私、オーディションに3回落ちているんです(苦笑)。もともと映画も大好きでずっと出たかった作品だったのでアナ役のオーディションを受けていたら「エルサはどうか?」と声をかけていただいたんです。挑戦していた期間が長かった分、選ばれたときは本当にうれしくて、『ありのままで』をお客様の前で歌える!というワクワク感でいっぱいでした。

──『リトルマーメイド』のアリエルや、『ライオンキング』のナラなど、これまでディズニーミュージカルのヒロインを務めてきた谷原さんでも苦戦した、厳しいオーディションだったのですね。三代川さんも子役時代、『ライオンキング』のヤング ナラを演じるなどディズニー作品とは縁がありましたね。合格したときのお気持ちは?
三代川:私も、もちろんうれしかったのですが、すでに上演されたものを見ていたのでプレッシャーも大きかったですね。歌があって、ダンスがあって、アクロバティックな動きもあって、ほぼ出ずっぱり。こんな大役が私に務まるのかなと…。
──たしかに観ている側も、ハンスに持ち上げられるリフトシーンや吊り橋から落ちかけるシーンなど、アクロバティックな動きにハラハラしてしまいます。演じてみて怖くはありませんでしたか?
三代川:いや、それが演じてみると全然怖くないんですよ。もともと高いところが好きというのもあるのですが、たくさん稽古を重ねてきて「絶対落ちない」というスタッフや共演者との信頼関係がありますから。
もちろんハンス役の俳優が変わったり、久しぶりに私が演じることになったりしたときは毎回しっかり確認をしています。吊り橋のセットは劇場にしかないので、劇場に入ってからの確認になりますが。

谷原:私は「絶対落ちない」とわかっていても、ものすごく怖がっちゃうと思います(笑い)。これはもう性格の違いですね。
私生活でもアナとエルサそのもの
──三代川さんの前向きで大胆なところはアナと似ていますね。
三代川:はい、自分でもそう思います(笑い)。仕事に関しては多少慎重に考えられるのですが、オフのときの私は楽観的で、勢いで進めていくタイプ。事前に調べずに行動して、何かが起きてから「あ、そうだったんだ」みたいなところは、アナっぽいですよね(笑い)。
谷原:そうなんだ(笑い)!? 私は調べてからじゃないと動けないな。
三代川:谷原さんはエルサにそっくりですよね。
谷原:そうなの。私はしっかりしなきゃ、頑張らなきゃと思うエルサタイプ。実生活で長女だからかな。家庭は厳しかったので両親の言うことは絶対だったし、弟とは小さい頃、どこにでも一緒に出かけるくらい仲良し。そういう環境もエルサと似ているんですよね。
でもそれ以上に、どのディズニー作品のヒロインを見ても、必ず自分と似ていると思えるんですよね。アリエルもナラもそう。まだ自分が演じたことのないディズニー作品を見ていてもそう感じるんです。
それはきっと、彼女たちが自問自答しながらも、自分の生きる道を決めていくから。だから共感できるし、勇気をもらえるんじゃないかなと思います。

三代川:本当にそうですよね。ディズニー作品は家族愛や姉妹愛、いろいろな愛がテーマになっているので、誰が見ても深く共感しやすいのかなと思います。私も日々、舞台に立ちながら愛を感じています。
谷原:最後のフィナーレではたくさん愛を学んで、感じて、あったかい気持ちになります。終わると普段の性格よりちょっと明るくなります。
──演じるうえで大変だったことはありますか?
谷原:エルサの葛藤に気持ちが入り過ぎて本当に苦しくなってしまい、体が思うように動かなくなってしまったことがありました。たとえば戴冠式のシーンでは『危険な夢』というナンバーの“隠して”という部分を歌おうとすると喉が詰まって声がものすごく小さくなってしまったり、アナに手袋を取られてしまうシーンでは右腕が上がりにくくなってしまったり。
──いわゆる“役が憑依する”タイプなんですね。舞台を降りても役のままですか?
谷原:そうですね。エルサを演じているときの私には話しかけづらいと後輩が噂しているのを聞いたことがあります(笑い)。
三代川:私はわりと切り替えが自然とできるタイプで、寝たらすぐリセットされちゃいます(笑い)。舞台を降りれば普段の自分とあまり変わらないですね。
『生まれてはじめて』ではホッとして『ありのままで』では興奮状態に
──歌についてはいかがですか? いろいろな内容の歌が続き、とくに三代川さんはずっと歌いっぱなしという印象です。ダンスしながらも歌われていますよね?
三代川:私がいちばん緊張するナンバーは、エルサとアナで歌う『生まれてはじめて』。誰もが知るビッグナンバーなので、ここを無事歌い終えるとホッとします(笑い)。
アナは確かに出番が多いんですが、その分、物語が一緒に進んでいくので気持ちが作りやすいんですよ。誰かと歌うことも多いので、それに助けられたりもしています。むしろひとりで気持ちを作らないといけないエルサの方が大変そうだなと思います。

谷原:たしかにそうかもしれない(苦笑)。急に激しいナンバーを歌うので体がびっくりしている感覚もあります。それにエルサはずっと一人。最後まで一人きりで歌い切らないといけないですからね。
──そんなエルサが『ありのままで』を歌い上げる一幕終わりは、客席からものすごい拍手がわき上がります。演じる側はどんな気持ちなんでしょう?
谷原:『ありのままで』のときは興奮状態に近くて……周りの音が入ってきづらくなるんです。しかも強い照明を浴びていたのが一気に暗転するので視界が真っ暗で、「セットにぶつからないように舞台袖に戻らねば!」ということで頭がいっぱい(苦笑)。最近はスタッフが両手を持って誘導してくれます。
──では、おふたりの好きなシーンは?
谷原:雪だるまのオラフが《愛は、自分よりも誰かを大切に思うこと。》とはっきり伝えてくれるところ。幼少期のアナとエルサが作ったオラフが愛を知っているということは、いま愛がわからないと言っていても、もともとお互いに愛があったわけです。それをオラフが教えてくれるというのが良いし、シンプルに素敵な言葉だし、好きな場面ですね。
三代川:私もオラフが愛を教えてくれるシーンは大好き。クリストフがアナをハンスのもとに送り届けながら歌うナンバー『クリストフ・ララバイ』も切なくてお気に入りです。
劇団四季のモットー「慣れ、だれ、崩れ=去れ」との闘い
──本作に限った話ではないのですが、劇団四季は創立時から「慣れ、だれ、崩れ=去れ」というモットーを掲げていらっしゃいますよね。おふたりは同じ演目を長期で演じるとき、どうやってフレッシュな気持ちで舞台に立っているのでしょうか?
谷原:本当に、それは毎回の課題だよね?(三代川さんと顔を見合わせながら)
初心を思い出し、いま初めて起きていることなんだと思おうとしても、まず思おうとする時点でダメなんですよ。セリフや歌は叩き込んだうえで役のことは何も考えず、「ただそこに立つ」ということを意識しています。
もしどうしても煮詰まってしまったら、ドラマや映画など、違う世界に一度身を置くこともあります。例えばこの間まで出演していた『ゴースト&レディ』のときは、似たようなドラマを探して見ることで、良いリフレッシュができました。
三代川:私は相手役の些細な変化に気づけるくらい、相手をよく見て観察するようにしています。そうすると、そこからもらえる情報で新鮮な気持ちになれたりするんです。

谷原さんも三代川さんも、身振り手振りで話しながらも、終始、背筋をピント伸ばしていたのが印象的で素敵。
──最後に、オフタイムの過ごし方を教えてください。
谷原:私は愛犬(トイプードル)に癒されています。
もともと私はインドア派で、オフの日は窓も閉めて絶対一歩も外に出ない人だったんです。それが最近は犬のお散歩があるので、朝晩外に出るようになり、お日さまを浴びてビタミンDを体内で生成できるようになりました(笑い)。
朝6時半に起きて、道に咲いている小さいお花を発見したり、お散歩ですれ違う人とたくさん会話するようになったり。犬のおかげで自分の性格が明るくなってきた実感があります。
三代川:私も猫(スコティッシュフォールド)を飼い始めたんですが、猫と過ごす時間がかけがえのない癒しになっています。
私は普段からいろいろなところにお出かけしたい派で、オフの日は窓を全開にして(笑い)、特別な予定がなくても1日1回外出するタイプ。いまは猫ちゃんのおかげで家にいる時間が増えて、落ち着いてきた気がします。
谷原:ここまでタイプが違うけれど、やっぱり“妹”は“妹”で。久しぶりに会ってもなんの違和感もなく自然でいられるんです。
三代川:阿吽の呼吸みたいな感じですよね。これからもお姉ちゃんを頼りにしています!
取材を終えると、時計を見て、「暗くなる前に、犬の散歩に行かなくちゃ!」と急いでその場を飛び出した谷原さん。三代川さんは本誌スタッフとひとしきり談笑して劇場を後にした。
舞台とはひと味違う一面に、この“姉妹”の魅力が一層深まった。
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舞台上から客席を望むと、2階席までしっかり見通せて、俳優からは観客の反応がはっきり見えるのだそう。大いに笑って泣いて拍手を送れば、あなたの声援が間違いなく届くはず。俳優と観客がつながれるこの距離感、たまりませんね!

【後編】では、オラフの操作のヒミツ、そして舞台装置や衣裳、かつらに関する裏方スタッフによる解説をお伝えします。
取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥