【エルサ&アナの衣裳】美しさと機能性の両立で“早着替え”も可能に

同じ役であっても、衣裳は着回しされるのではなく、基本的に俳優のサイズに合わせていちから仕立てられる。俳優一人ひとりを採寸し、衣裳が概ね完成してからもフィッティングを行って微調整を加えていくのだ。
子どもにも大人気のエルサとアナのドレスについて、コスチューム担当・山形亜希さんが説明してくれた。
「『ありのままで』を歌唱する際のエルサのドレスは、とにかくきらびやかに輝くよう、種類と形の違うビーズやスパンコールが全面に縫い付けられています。ビーズはすべて手縫いされています。
衣裳を俳優に試着してもらい、ゆるく感じたり、動いたときに違和感がないかといった声を聞きながら、ミリ単位で修正します。実は、俳優のその日のコンディションによっても急遽手直しということもあるんですよ」(山形さん・以下同)
エルサはとくに舞台上で、衣裳の“早替え”があるが、それにも工夫があるという。
「このエルサのドレスは、早着替えにも対応できるよう、実は袖にはファスナー、首元にはホックがついているのが特徴です」
舞台から見ると、ファスナーがついているなんて、まったく気づかない。

では、アナのドレスは? エルサの戴冠式の際にアナが着る、いかにもお姫さまといったドレスも、とても華やかで可憐。
「このドレスは、“一度、着てみたい”という声をよくいただきます。
これを着てハンスと激しく踊るシーンがありますから、全体的に厚みがあってしっかりした作りになっているので、肩紐も落ちません。
前身ごろのビーズは飛び出ないデザインで、ハンスにリフトされても生地を傷めないようになっています。スカートの前側には表生地と裏地をつなぐ糸ループがたくさんつけられ、足を上げても引っかからないような工夫が施されているんですよ」


【ヘアー】同じ役・同じ髪形でも、俳優の骨格に合わせてかつらを微調整

“映え”ながらも“扱いやすく”するのは、衣裳だけでなく、かつらも同じ。ヘアー・メイク担当の藤岡莉子さんは言う。
「髪形をキープするために使うのは、スプレーではなくヘアクリーム。スプレーでガチガチに固めてしまうと、かえって自然な動きが損なわれて違和感が出てしまうんです。かといってシャンプーも頻繁にはできない。そこでヘアクリームを使用し、髪形をキープしつつ、柔らかい質感を保っています」(藤岡さん・以下同)
そう話しながら、エルサのかつらを器用に整えていく藤岡さん。もしかして、終演後、毎回、三つ編みを編み直している?
「そうなんです。三つ編みは編み直した方が断然きれいなので、終演後に毎回、いちから編み直しています。
エルサのかつらにはビーズのワイヤーを編み込むことで、氷の魔法を持つエルサらしさを表現。ただしそのまま編み込むと毛流れがボサボサになってしまうので、太くて短いストローを毛束の間に挿しこんでから、その中にビーズワイヤーを通していきます。こうすると毛流れが乱れませんから、このワザは、お子さんの髪を結ってあげるときにも使えますよ。

衣裳と同じく、かつらも俳優のサイズに合わせて用意されていると藤岡さん。
「同じ役であっても、俳優の顔立ちに合わせて前髪の立ち上がり方を少し変えるなど、骨格に合わせて調整しています」
確かに、丸顔の人と面長の人では、似合う前髪が違う。このように、きめ細かくサポートするヘアー・メイク集団だが、実は過去にこんなヒヤッとした経験があったとも。
「エルサで言うと、衣裳にかつらのビーズが引っかかって取れなくなってしまって、早着替えシーンで普段よりタイムロスしたことがありました。本番ではほどけないようにしつつ、いざというときにほどけやすいようにも作る。遠回りなようでも、それが確実なんです」

こうした裏方のメンテナンスがあってこそ、俳優は演技に、観客はストーリーに没頭できるというもの。次に観賞するときは、舞台装置や小道具、そして衣裳やかつらにも、ぜひ目を向けてみたい。
取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥