【小道具スタッフ】パペットは70種類にも!不測の事態にはF1ピットなみに連携

70種類以上ものパペットを扱う『ライオンキング』では、もしもに備えて上演中も小道具スタッフが常駐している。そんなドキドキハラハラの裏舞台を小道具担当の内海彩乃さんに直撃!

「チーターのボディーは『サンペルカ』という造形によく使われている素材で、軽くてクッション性があるのが特徴です。ここにガーゼのような布を貼りつけ、コーティングしています。
丈夫に作られているものですが、それでも顔の可動域の部分や胴体との繋ぎ目などがへこんだり、中にピアノ線入りの硬い棒が入った足の部分が破れたりすることがあるので、メンテナンスは欠かせません」(内海さん・以下同)

俳優とパペットの顔をつなぐ紐部分も、切れたり取れたりすることもあるという。
「紐はダクロンというのですが、アンサンブルのハイエナなどでも使っていて、切れたり取れたりは珍しくありません。2回公演がある日は、マチネで切れたからソワレまでに直したり、ということもありますし、演目中、次の出番までの間に直さなきゃ、みたいなこともあります。予備を持ち歩き、すぐ対応できるようにしています」
もっともスリリングだった出来事は?
「スカーのようなメカニックを搭載しているパペットが断線してしまったときは緊張感が走ります。そうならないよう、朝もチェックしてきちんと動くかどうか確認は欠かせません」
小道具担当として高校時代からの夢をかなえている真っ最中
まるでF1のピットクルーのような一体感。そんな戦場のような現場を受け持つからには、常駐メンバーはベテランスタッフしかなれないの?
「全然、そんなことないですよ(笑い)! 私も3年目ですし、他の担当スタッフも2年目の者もいます。私はもともとこの仕事がしたかったので、入社研修が終わってからすぐ本番常駐スタッフに立候補したくらい。ですから、『ライオンキング』の担当になれたときは、すごくうれしかったんです。
というのも、私は高校生のときに修学旅行で『ライオンキング』を見てから、「ここに入りたい!」「裏方をしたい!」とずっと考えていたので。『ライオンキング』で人生を変えられたひとりなんです(笑い)」
高校の先生からは「舞台美術は男がするもの」と止められたこともあったそうだが、美大の染物専攻を経て「やっぱり諦めきれなくて、劇団四季に応募した」という経緯があったそう。
人生を変えた『ライオンキング』の舞台の魅力は? 尋ねると、キラキラした笑顔でこう答えてくれた。
「パペットの立体感、デフォルメ、すべてが楽しくて、動物たちに囲まれると、いままで見たことのない迫力を体感できることです。素晴らしい音楽も大音量で聴ける。毎日楽しいし、毎日飽きないです(笑い)。夢が叶っている最中ですね」
まさに人生を変えるミュージカル『ライオンキング』。一生に一度といわず、二度、三度と会場に足を運びたい。
取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥