1公演で着替えは14回! チーターの他に雌ライオンにもハイエナにも
──稲葉さんはチーター役に専念するのではなく、アンサンブルとしてほかにもたくさん出番がありますよね? 役の切り替えや衣装の着替えなど、どうされていますか?
稲葉:チーターの狩りはしなやかさをすごく意識するんですが、雌ライオン役では、パワフルに。重心もすごく下に感じながら演じるので、同じ狩りのシーンでも、チーターとはかなり違います。
着替えるのは、チーター、グラス、雌ライオン、チーター、ハイエナ、雌ライオン……14回あります(笑い)。
──なんと14回も!? マチネとソワレの1日2回公演だと、28回の着替えですよね。ハードですが、衣裳とメイクはご自身でされるのですか?
稲葉:本当に急ぎのところはヘアー・メイク担当のスタッフさんに手伝ってもらいながら、あとは自分で。顔のペイントは、スタンプがあるので、素早くできるんです。
祖父が亡くなった日に立った舞台でサークル・オブ・ライフ(命の連環)を実感
──一生に一度は見ておきたいといわれる『ライオンキング』。稲葉さんは俳優としてその魅力をどう感じていますか?
稲葉:ひとつは、子供はワクワクだったり、大人は感動だったり、世代問わず楽しめること。そしてもうひとつは、同じ物語なのにそのときの自分の心情によって、響く言葉や刺さってくるシーンが変わることだと思います。
実は私自身、祖父が亡くなったとき、ちょうど本番の舞台に立っていたんですが、『彼はお前のなかに生きている』というナンバーの歌詞にある、“父も祖父もお前の中に生きている”っていうところでグッときました。
『終わりなき夜』の“日はまた昇る”という歌詞や、ラフィキの“人生は続いていく”というセリフも好きです。
何回も何回も聞いているはずなのに、突然頭に入ってきて、背中を押してもらえるときもあれば、支えてもらえるときもあるんです。
私の友達も独身時代、妊娠中、出産後…と見に来てくれて、「そのときによって感じるものが違う」と言っていました。多分、お客さまひとりひとり、そう感じられる作品になっていると思いますし、だからこそ何回でも、来たくなるのかなと思います。
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まさに「サークル・オブ・ライフ(命の連環)」を噛み締めながら舞台に立っていると話す姿が印象的だった稲葉さん。
サービス精神旺盛で、何度も体を反らせたり伸びをしたり、ネコ科動物らしい仕草を見せて、繰り返し繰り返し、細やかに説明をしてくれる姿が好印象。
抜群のスタイルに、まるでチーターを擬人化したようなミステリアスな雰囲気を持ちながら、一方でかわいらしさと謙虚さがにじみ出るというギャップがすさまじく、取材スタッフ一同、魔法をかけられたような気分になってしまった。