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「女の初恋は別腹」名古屋主婦殺害事件、26年越しの容疑者逮捕 オバ記者の心の片隅で蠢き出す説明できない感情 

「名古屋主婦殺害事件」のニュースでオバ記者が感じたこととは(写真/イメージマート)
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 事件が起きてから26年の月日を経て、容疑者が逮捕された「名古屋主婦殺害事件」。容疑者は、被害者の夫の同級生だった──。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏が、「名古屋主婦殺害事件」のニュースで感じた胸騒ぎについてつづる。

「名古屋主婦殺害事件」のニュースを見て、心のなかで蠢き出すもの

 このところ、「名古屋主婦殺害事件」の記事がスマホ画面に出てくると、つい手を止めて見入ってしまう。

 理由は1つ。被害者の夫・高羽悟さん(69才)と安福久美子容疑者(69才)と私、同級生なの。私は昭和32年生まれの早生まれなので、31年生まれの人と同級。『ひょっこりひょうたん島』『巨人の星』といった当時の人気テレビ番組のタイトルを言うだけで、たちまち半ズボンの男子と吊りスカートの女子がざわめいていた小学校の教室にワープできる。

 もちろん、26年前の凄惨な殺害現場がニュースで流れると目を背けたくなる。「いつかここに犯人を立ち会わせて現場検証をしたい」という一念で26年間、2000万円以上にのぼる家賃を払い続けた高羽さんの気持ちを思うと、胸が締めつけられるし、殺人罪などの時効撤廃を求めて尽力し、2010年に実現したと聞くと「よかったねぇ」と思う。

 でも、それとは別に、いま心の片隅で“私の中の安福久美子”が蠢き出すのをどう説明したらいいのだろう──。

安福容疑者は当時どんな思いだったのか(写真/イメージマート)
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 女の恋心には2種類あると思う。

 1つは打算も何もなく、「ただあの人が好き!」という想い。もう1つは、「あの人が好き」は同じだけど、その前に「高学歴な」とか「名の通った会社の社員の」とか「私にやさしい」といった“ただし書き”がつく恋心。たいがいは前者を経験した後に、後者の男と交際や結婚したりするんだけど、じゃあ、前者の気持ちが消滅するかというとそうはいかないんだわね。

 これはあくまで私の独断と偏見だけど、ひと言で言えば「女の初恋は別腹」で、そこにはいつまでも枯れない純度100の美しい泉がこんこんと湧き出ている。その純粋な気持ちを“想い人”に踏み躙られた、と安福容疑者は思ったのではないか、と想像するのよ。

 43才のときの同窓会で、「あなたに振られたけど私は大丈夫。結婚して仕事もバリバリしているのよ」と精一杯の虚勢を張ったのに、「そりゃあ、よかったね」はない。さらに、「若い嫁さんをもらって子供も生まれた」と自慢げだったと聞かされたとすれば、その胸中はいかがなものか。

 でも、だからといって、その5か月後に、想い人の妻を亡き存在にしようと思うものだろうか?と、これは誰もが思うことだけど、不可解という意味では思い当たることがある。私と同い年のM子がしたことがそうだ。

初恋の彼に「私の結婚生活を壊してほしかった」

 理想の結婚相手は高学歴・高収入・高身長の「三高」で、M子のお相手はまさにそれだった。なのに20年後、40才を過ぎて子育ても一段落したM子は、顔を合わせればUくんの話をした。UくんとM子は高校の同級生で、大学に入ってもつかず離れず。いくつかの行き違い、すれ違いがあって結ばれはしなかったけど、「本当に好きだったのは初恋の彼だったのよね」と、耳にタコができるほど聞かされた。

 そしてある日、私はM子から「話がある」と呼び出された。なんでも、ある計画を立てたのだと言う。で、聞けば、「Uくんに会って気持ちの決着をつけてくる」と言うのよ。

 そのきっかけは同窓会。“やけぼっくい”の定番だ。ただ今回の事件と違うのは、同窓会で2人が会っていないこと。Uくんは海外出張中で出席しなかったが、男友達に「M子に会いたかったな。よろしく伝えてくれ」とメッセージを託した。それをM子は伝え聞いた。ただそれだけなのに、なんとM子は神戸の彼の会社まで新幹線に乗って会いに行った。ひとり旅なんかしたこともないし、神戸に行くのは修学旅行以来だ。あまりにも無鉄砲に思えた私は「何しに行くのよ?」と何度も問うたが、そのたびにM子は「Uくんが会いたいって言うから」を繰り返した。

 結果、どうなったか。

 驚いたUくんは、M子に会うなり、すぐに社員食堂に連れて行った。早い話、丁寧だけどつれない対応をしたのよね。

 それから25年経ったいま、M子は語る。「あのとき、願わくばUくんに(私の)結婚生活を壊してほしかったんだよね。そこまでいかずとも、風穴を開けてほしかった」と。

 幸い、M子の恋の暴走旅は夫に知られず、いまは毎朝、2匹の柴犬を並んで散歩させている。良妻賢母の仮面をかぶり続けている。

 さて、安福容疑者はまだ犯行の動機を語っていない。一体なんだったのか、気になって仕方がない。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

女性セブン2025124日号 

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