「聞かせるのがいちばんだと思って…」と、夫にICレコーダーを渡された都心在住の主婦A子さん(57才)。再生してみると「ごーおおおお! ごーおおお!」と地鳴りのような音が流れ出た。

「お前のいびきだよ」
恥ずかしいやら申し訳ないやらで思わず赤面するA子さんの目を見つめ、夫は続けた。
「疲れた日とか、酒を飲んだ日ならわかるけど、そうじゃない日でも、最近特にひどくなったよ…。どこか体の調子が悪いんじゃないの?」
意地悪で言っているわけではなく、本気でA子さんの体を心配してるようだ。
「体調の変化って、案外こんなところに出るのかもしれない…」
急に不安になったA子さん。女性のいびきには、実は重大病の“シグナル”が隠されている。
いびきに悩む女性は3人に1人
近年、「いびき」に悩む女性が増えている。2017年11月、寝具メーカーのフランスベッドが20~60代の男女1000名を対象にした「いびきに関する実態調査」を発表した。
これによると「いびきに悩んだことがある」と答えたのは男性で42.5%、女性は33.8%。いびきは男性のものと思われがちだが、女性の3人に1人が悩んでいることが判明した。同調査によれば、そのうち86.1%が「誰にも相談できずにいる」と回答している。
そもそも人はなぜいびきをかくのか。銀座コレージュ耳鼻咽喉科院長の都筑俊寛先生が語る。
「いびきは喉の奥にある口蓋垂(のどちんこ)周辺の粘膜組織や、飲食物が鼻孔に入るのを防ぐ軟口蓋などが、気道を通る空気によって振動することで起こります。健康な状態だと振動することはありませんが、さまざまな原因で気道が狭まると、空気の通過速度が速まり、振動していびきが出る。症状が進み、軟口蓋や舌が垂れ下がることで、さらに大きないびきになります」
都筑先生によると、主ないびきの原因は以下の6つだという。
【1】肥満
【2】口呼吸
【3】鼻詰まり
【4】疲労
【5】飲酒
【6】小顔
「肥満のかたは喉周辺の脂肪も多く、気道を狭める形になります。また口を開けると顎が下がり気道が圧迫されるので、鼻詰まりなどで口呼吸になると、いびきを招く。
疲労や飲酒により気道を広げる喉の筋肉が緩むので、これもやはりいびきの原因となります。小顔の人は必然的に顎が小さいので、もともと舌が喉奥に行きやすく、いびきをかきがちです」(都筑先生)
糖尿病や脳卒中など、いびきがもたらすリスク
一方で、女性特有のいびきの原因もあるという。その1つが、女性ホルモン「プロゲステロン」だ。
子宮筋の働きなどを調節するホルモンであるプロゲステロンには、呼吸中枢を刺激して、気道まわりの筋肉の活動を高める働きがある。このホルモンが豊富に分泌されている間は呼吸がスムーズでいびきもかきにくい。
「しかし、更年期以降の女性はプロゲステロンの分泌が減っていきます。これにより気道が塞がり、いびきをかきやすくなるのです。実際に当院でも、50代以降にいびきをかくようになったという女性は多く、“お友達と旅行したいけど恥ずかしくて行けない”という悩みもよく聞きます」(都筑先生)
高齢化が進む現在、冒頭のA子さんのように、いびきに悩む女性は確実に増え続ける。本当に怖いのは、いびきが招く人体への影響だ。都筑先生が解説する。
「いびきの大きなかたは、睡眠中に気道が完全に塞がり、呼吸が中断される『睡眠時無呼吸症候群』を患っているケースが多いです。睡眠時に10秒以上呼吸が止まる状態が1時間に5回以上繰り返されると、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
無呼吸が続くと心身に過度な負担がかかり、これを和らげるために副腎皮質ホルモンが分泌されるのですが、このホルモンが増えると糖尿病リスクが高まることがわかっています。また無呼吸は心臓に負担をかけるので血圧が上昇し、心筋梗塞や脳卒中のリスクも増加します」
がん、心臓病に次ぐ死亡原因である脳卒中は、現代日本の国民病ともいえる。睡眠時無呼吸症候群の患者は、健康な人にくらべ脳卒中のリスクが3倍になるというデータもある。
妊娠中の女性の場合、睡眠時無呼吸症候群はさらに深刻だ。
「母体への悪影響はもちろん、酸素が胎児に届きにくくなり、発育遅延や早産のリスクに加え、最悪の場合は流産につながることも考えられます」(都筑先生)
※女性セブン2018年6月14日号
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