
早期発見、早期治療のためにがん検診を受けることが推奨されているが、果たして本当に必要なのか──。現役医師たちががん検診のリスクについて本音で語る。【前後編の後編】
【座談会に参加したがん検診のエキスパート】
Aさん(75才)/医師、医学博士。予防医学の第一人者で、過剰医療の問題にも精通する。
Bさん(48才)/地方都市のクリニック院長。内視鏡検査によるがん発見に取り組む。
Cさん(50才)/内科医。現代の医学が抱える問題について、書籍やネットで情報発信を行う。
Dさん(69才)/医師。大学附属病院勤務などを経て、在宅医療にも従事。
会社や自治体の検診では不充分
B:よく患者さんから「先生はがん検診を受けますか」と質問されますが、「会社や自治体などで行われているがん検診はあまり意味がありません」と答えています。がん検診の目的のひとつである早期がんを見つけることは通常の検診では困難で、がんの特徴に合わせた詳しい検査が必要だからです。
D:がん検診を受ける理由に、安心感が得られることをあげる人は多い。たしかに“異常なし”と診断されれば、ポジティブな気持ちになりますからね。ただ、発見できないがんも多いため、過度な安心は禁物と思います。検診で安心してしまったせいで、がんの症状が出ても病院に行かなくなる人が実際にいて、結果、手遅れになってしまった事例もあります。
B:会社で行われるがん検診を、毎年きちんと受けているかたは多いと思います。採血からはじまり、胸部X線検査、腹部エコー検査、胃のX線検査、便潜血検査まで、たくさんの項目が検査されます。
これだけ検査をして異常がなければ、がんの心配がない健康な体だと確信してしまいがちです。しかし、残念ながらこうした簡易な検診や人間ドックだけでは、がんの心配がないとは決して言い切れません。
A:具体的な目的を持って受ける検査にも体を蝕む危険は潜んでいます。先ほど、放射線被ばくのリスクが指摘されていましたが、胸部X線検査は放射線の害を直接受けてしまいます。
被ばくによって肺がんや胃がんの罹患リスクも指摘されており、検査を受けた人は、受けていない人よりも死亡率が高いというデータすらあるほどです。約6000人を2つのグループに分け、片方には1年に2回の肺がん検診を受けてもらい、もう片方はまったく受けない。これで6年間追跡した研究があります。

常識的には、検診を受けない方が多く死ぬと考えるでしょう。ところが、結果は真逆でした。検診を受けた方が肺がんで多く亡くなっていたというのです。胸部X線検査を受けるなら低線量CT検査を受けるべきでしょう。
B:腫瘍マーカー検査や、PET検査も要注意です。“全身のがんを一度で調べられる”、“早期発見につながる”とうたったり、手軽さを強調するクリニックもあるようですが、どちらも基本的には治療の効果測定や、再発を見つけるためのもの。はっきり言って、早期発見には無意味です。
A:前述の肺がん検診についての研究の後も、大腸がんなどさまざまながんを対象に調査が行われていますが、がん検診を受けた方が長生きした、死亡数を減らせたという調査結果は今日に至るまでありません。
D:検査をすることで、病気が“発見されてしまって”治療を受けることで免疫力や体力が低下してしまうことも充分考えられます。
A:がんの種類によっては自然に消えていくものがあると前述しましたが、その筆頭が前立腺がんでしょう。現在は血液一滴で前立腺がんが診断できるため、陽性とわかると手術をすすめられることが多い。ところが、交通事故などで亡くなった人の病理解剖をしたところ、約7割の人に前立腺がんが見つかったというのです。
前立腺がんは、がんの芽が出てから死に至るまでの間が非常に長い。生きている間に症状が出ないことも珍しくないため、検査を受けなければ判明せず、手術を受けずに天寿を全うすることもできる。大腸がんや胃がんの性質も、これに近いと考えられています。
B:加齢によって、その傾向は顕著になります。体力が落ちてから手術などの治療を受けたり、胃の切除を行うなどして、QOL(生活の質)が下がり、みるみる元気がなくなってしまうシニアのかたは少なくありません。