年収300万円で幸せな生活を送る達人たちが伝授する“幸せの買い方”「子供といっしょに無料動物園でピクニック」「100円ショップをフル活用」…節約生活を楽しむ極意

もっとお金があれば幸せになるのに──そう思っている人は多いだろう。しかし、ひとつ言えるのはお金持ちだからといって決して幸せだとは限らないということ。むしろ、少ない収入の方がお金のありがたみを感じ、大事に使うのでより幸せを感じられるという。いますぐ真似したい「幸せの買い方」を紹介しよう。【全3回の第1回】
この春から働き始めた新社会人の初任給引き上げが報じられているが、多くの現役世代は賃金が上がったという実感がなかなか得られない。
国税庁の「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、2023年の日本の給与所得者1人あたりの平均年収は460万円。一方、1995年の平均年収は457万円と、この30年でほとんど変わっていないことがわかる。
それにもかかわらず、近年は物価高により値上げラッシュや消費増税などの負担が増加している。高齢社会においては医療費の自己負担も重くのしかかり、生活苦にあえぎ、将来の不安が頭をよぎって「もっとお金があれば……」と思い詰める人は少なくないはずだ。
しかし、果たして本当に「お金があれば幸せ」なのだろうか。
幸せになるには“お金の使い方”が重要
「お金をたくさん稼げば幸せになるという考え方は間違っています」
そう語るのは、『精神科医が見つけた3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』の著者で、精神科医の樺沢紫苑さんだ。
「多くの幸福心理学の研究が“お金持ちになっても幸せにはならない”ことを示しています。例えば、年収が1000万円あれば幸せになると思う人が多いですが、そうではない。確かに収入が多いと満足度は上がりますが、人はすぐに“慣れて”しまいます」(樺沢さん・以下同)
年収や資産額から得られる幸せはどこかでピークを迎えて、そこから上がらなくなる—そうした考え方を経済学で「限界効用の逓減」と呼ぶ。実際、大阪大学社会学研究所の調査では、年収500万円までは収入が増えるほど幸福度が上がるが、そこから900万円までは横ばい、そして年収1500万円以上は、金額が上がるにつれて幸福度が少しずつ下がった。
「人間の脳は、いくらお金が増えても満足できない仕組みを持ち、“もっともっと”とさらなるお金を求めます。しかし、お金が増えることで得られる“高揚する幸福”はすぐに劣化して長く続きません」

お金持ちでも幸せになれないなら、年収が少ない人は絶望するしかないのか……いや、実際はそうではなく、お金は「使い方」次第で幸福度を自在に高められると樺沢さんは言う。
「そもそもお金自体には何の価値もなく、貯金が1億円あっても使わず亡くなったら意味がありません。しかし目的を持ち、自分にとって有意義で楽しいものや経験にお金を使えば誰でも幸福を手に入れられます」
給料や貯金が少ないとしても、「貧乏だから不幸」ではないのだ。
「お金を多く持っている人が幸福なのではなく、上手にお金を使う人が幸せになれるのです。たとえ少額でも自分にとって価値があるものにお金を使う人は、金額以上の幸せを手に入れられます。幸せになるには資産の大小ではなく“お金の使い方”が重要なのです」
どうせ私にはお金がないからと、あきらめてはいけない。平均年収よりも低い、年収300万円で幸せな生活を送る達人たちが「幸せの買い方」を伝授する。
好きなことにはお金を使って気持ちをアゲる
「結婚後の世帯年収は300万円に満たず、独身時代に比べると使えるお金はほとんどありません。それでも、幸せを感じることは増えています」
笑顔でそう語るのは、コミックエッセイ『低収入4年目夫婦の月13万円生活』の著者で、漫画家のいしいまきさん(42才)。
独身時代、控えめな暮らしをめざしながらも誘惑に負けて浪費をしていたが、2020年7月に結婚して「倹約」に本格的に目覚めた。
「夫と同棲を始めるとき、彼が“ぼくにはお金がない。それでもいいかな”と断言したのが衝撃でした。私はそれまで高級スイーツなどにダラダラとお金を使っていたので地に足がついた生活をする彼に憧れて、節約主婦やミニマリストなどのユーチューブを見まくりました。結婚後は家計簿をつけてお金を管理するようになり、節約をして夫婦で月13万円の生活です」(いしいさん・以下同)
結婚で意識を変えたいしいさんが「低収入でも得られる幸せ」に気づいたのは、妊娠糖尿病やぜんそくなどの困難を経て、40才で長男を授かってからだった。
「子供がいる生活がこんなにほのぼのしているとは、独身時代にはまったく想像できませんでした。いまは日曜日に手づくりのお弁当と水筒を持って近所の公園や無料動物園などでピクニックを楽しんでいます。お金をかけずとも何気ない日常に充分に幸せを感じることができ、自分と人を比べることがなくなりました」

現在、パン屋開業をめざす夫と1才半の長男と兵庫県で暮らす。月の生活費は家族3人で月16万円ほどに増えたが、いまも節約生活をエンジョイする。
「最近のマイブームは食事メニューの固定化です。日曜のピクニックのおにぎりから始まって魚、鶏むね肉など曜日ごとにメニューを決めて食材を買い、無駄な時間と出費を減らします。味付けを変えたり、のりを加えてブラッシュアップしたりとさまざまなアレンジも楽しんでいます」
そんな夫婦の決め事は「お互いに好きなことをする」。倹約するだけではなく、好きなことにはお金を使って気持ちをアゲている。
「文房具が大好きで、最近、憧れのメーカーが一堂に会するイベント『文具女子博』に出かけました。こういうイベントは出産後初だったのでワクワクして、予算を決めてかわいらしいメモ帳や一筆箋をせっせと買い込みました。

満足いく買い物ができたので帰宅後もニコニコしっぱなしで、夫からは“行ってよかったね”と言われました。好きなものに囲まれる生活は幸せですね」
いしいさんは次の日曜日も、家族そろってピクニックに出かける予定だ。
「少し離れた非日常」がカギになる
子供の頃からの夢をかなえるため、大手証券会社を退職してタレント養成所に入所したのはピン芸人のフルマユコ(41才)。
OL時代は金に糸目を付けなかったと振り返る。
「大手とはいえ初任給は20万円弱。お金に余裕がなくても美容にかけるお金はためらわず、まつげパーマやネイルに散財していました。“毎月決まった給料があるなら、使い切っても困らないはずだ”という感覚で、当時は貯金なんてまったく考えていませんでした」(フル・以下同)
その日暮らしを続けるなか、お金をかけずとも幸せになる方法を学んだ。
そのひとつが、100円ショップのフル活用だ。彼女は店舗を訪れるたび、掃除や整理整頓の道具を迷わず好きなだけ買い物カゴに放り込んだ。
「好きなだけ買っても20個で2000円弱だから大した金額ではないのに、買い物欲が満たされました。しかも、道具を使って掃除をすると部屋がきれいになって心が落ち着きます。
100円の掃除道具の大量購入は、低予算なのに身も心もスッキリするおすすめの方法です」
普段はなかなか行けない場所を訪れることも試した。OL時代、フルは職場の近くにある高級スパをよく利用していたが当然、移動中に職場の近くを通るので日常に引き戻されるような気分になって、なかなかリラックスできなかった。

そこで思いついたのが「日帰り箱根旅行」だ。
「ちょっと遠めの観光地に行ってみようという思いつきです。休日の朝一番に電車で箱根まで行き、日帰り温泉に入って昼食を食べてぶらぶらして夕方になったら家に帰る。
これなら交通費を入れても5000円程度だったので、会社の同僚と月末の恒例行事にしました。当時、箱根は電車で1時間程度で無理なく行くことができ、由緒ある観光地の風情を味わえました。“次はあの旅館のお風呂に入ろう”“今度はあそこでお昼を食べよう”と同じ箱根でも毎回違う楽しみ方ができます」
温泉地が幸せを招くのではなく、「少し離れた非日常」がカギとなる。
「スパがダメなわけではなく、非日常的な場所を訪れることがポイントです。自分の好きなシチュエーションを堪能でき、普段は行かない少し離れた場所がベストだったんです」
(第2回に続く)
※女性セブン2025年5月22日号