今の時期、朝起きると花粉症で、くしゃみや鼻水が止まらない…という人が多いのではないだろか。「モーニングアタック」という言葉がある。アレルギー性鼻炎の症状が、朝にいちばんひどくなることを指す。その理由は、私たちの体の中にある「体内時計」によるものだ。「体内時計」は私たちの健康にどうかかわっているのか? その性質を利用し、病気知らずの体をつくるちょっとしたコツを最新医学とともに紹介する。
自分は朝型か夜型か?正しい体内時計のつくり方
そもそも体内時計には個人差があることを忘れてはならない。早稲田大学先進理工学研究科教授・柴田重信さんが話す。
「昨年1月、英エクセター大学が約70万人のデータを解析、朝型に関連する遺伝子を特定することに成功し、論文を発表しました。それによると、それまでは20個程度といわれていた体内の時計遺伝子が200~300個くらいあると判明したのです。人間は遺伝的に朝型、夜型が決まっていて、努力ではどうにもならない部分もかなりありそうだとわかりました」
つまり、一概に「何時に何をすればいい」とは言い切れない。主に夜に活動する人は、それに固定すれば、体内時計のリズムも保たれるという。
明治大学農学部准教授の中村孝博さんが話す。
「マウスはもともと夜行性の動物ですが、昼間にだけ餌を与えるようにすると、昼行性に変わる。つまり、夜勤がある人は、夜働いて、昼間寝るリズムをつくればいいのです。いちばんよくないのは、昼に活動する日と夜に活動する日が混在することです」
その前に、そもそも自分は朝型なのか、夜型なのかがわからないという人も多い。1つの見極め方を柴田さんが伝授する。
「休日などで何も用事がない時に、自分が何時に寝て、何時に起きるのかを確認してみましょう。朝8時までに起きるのであれば朝型。それ以降であれば中間型か夜型と考えられます」
ちなみに、「睡眠のゴールデンタイムは夜10時から2時まで」などとまことしやかにいわれてきたが、それは間違い。体を修復してくれる成長ホルモンが、深い睡眠の時に多量に分泌されることにより広まった言説だが、現在では何時に寝ても深く眠れば同じように成長ホルモンが分泌されることがわかっている。
ゴールデンタイムは個々の体内時計によって違う。そして生活リズムを整えることによって、あなたに合った体内時計をつくり上げることも、また可能といえる。
【睡眠】リズムを整える
どうしたら体内時計の刻むリズムを崩さずに過ごせるのだろうか。
・毎日同じ時間に眠る
まずは睡眠から見ていこう。中村さんが話す。
「週末に夜更かしをすることで“社会的時差ボケ”状態になっている人は多い。それを防ぐには、週末も普段と同じ時間に就寝することが決め手です。学生を対象とした調査では、週末の夜更かしはリズムを崩し、成績不振と相関するという結果が出ています」
・夫婦別のベッドにする
睡眠で体内時計を整えるコツはまだある。夫婦であっても、別々のベッドで寝るべきだというのだ。
「生まれつきの朝型・夜型もあるので、一緒のベッドだと睡眠を邪魔するかもしれません。また老化現象で人は朝型になりやすく、女性に比較して男性は50代あたりから朝型になりやすいため、早朝覚醒で女性の睡眠を邪魔する可能性があります」(柴田さん)
どんなに仲がよくても、眠る時は別がいいようだ。
・30分以内の昼寝をする
昼休みに昼寝をする人もいるが、これも注意が必要。
「20分程度の昼寝をすることは脳が一時的にさまざまな刺激から遮断され、リフレッシュできます。睡眠不足の人が習慣的に昼寝をすると、睡眠負債が解消され、体内時計が整います。ただし長すぎると体内時計に影響を与えるので長くても30分以内にしましょう」(中村さん)
・朝は必ず太陽の光を浴びる
何より、目覚めた時は、必ず太陽などの光を浴びて体内時計をリセットすること。
「目覚めた時に太陽の光を浴びると、脳の奥深くにある『松果体』という器官から分泌されるホルモンの一種で、睡眠促進ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌が止まります。毎朝決まった時間にカーテンを開け、太陽の光を浴びることは、体内時計をリセットする最良の術なのです」(中村さん)
逆に、夜にコンビニに行ったり、スマホやパソコンのモニターから照射されるブルーライトを浴びることは、体内時計を乱すもとになるので避けたい。
【食事】ちょっとしたコツで変わる
・朝食にはカレー
体内時計のリズムは食事でも整えられる。時間栄養学に詳しい管理栄養士の望月理恵子さんが言う。
「朝に太陽の光を浴びるのと同じくらい、朝食も大事。朝にたんぱく質や炭水化物を摂ると、体内時計がリセットされやすくなることがわかってきています」
食事のたんぱく質やアミノ酸が体内時計を整えてくれることは、昨年、早稲田大学理工学術院が発表している。同院は朝食には特に高たんぱく食をすすめている。
手っ取り早い朝食メニューを望月さんが挙げる。
「朝カレーはとても理想的です。卵や納豆を足せば、たんぱく質も炭水化物も摂れるうえ、スパイスが体温を上げてくれます。人の体は体温が上がると目が覚めるという仕組みがあるので、積極的に食べてみて」
・とんかつやステーキは昼食に食べる
朝しっかり食べた分、ランチは控えめにすべきなのだろうか。
「ランチを控えすぎると夜にお腹がすいて食べすぎてしまう。とんかつやステーキなどある程度ガッツリしたものでもかまわないので、しっかり食べましょう。できればサラダやきんぴらごぼうなど食後の血糖値を上げにくい食物繊維が多く含まれたものも一緒に食べてほしいですね」(望月さん・以下同)
多少食べすぎても、午後2時くらいまでであれば、食べたものを脂肪に変え、夜に活性化するBMAL-1という遺伝子がまだ目覚めていないのでかまわないという。
「『BMAL-1』は、体内時計を調節する時計遺伝子の1つ。量が増えると、食べたものが脂肪に変わりやすくなる。『BMAL-1』が最も少ないのは昼から午後3時くらいまでです」
意外なことに、おやつもOKだ。
「むしろ間食をしておいた方が、夜の食べすぎを防げる。空腹時間が長くなって下がりすぎた血糖値が夕食を食べた時にガツンと上がることもなくなります。間食の目安は200kcal(どら焼き1個)程度と覚えておくといいでしょう」
・夕食は寝る3時間前まで
夕食は寝る3時間前までには済ませたい。先に説明した通り、朝食をきちんと食べることが体内時計を制すことになる。夕食と翌日の朝食は10時間以上あけることを意識するとよい。
「どうしても帰宅が遅くなる人は、夕方に職場でサンドイッチやおにぎりなどを食べ、帰宅後はおかずだけにするなど、工夫してください」
・毎日決まった時間に食事をする
何より大事なのは、毎日決まった時間に食事をとること。
「規則正しい時間に食事をとるようにすると、体がその時間にきちんと消化酵素を準備するようになるんです。体内時計を整えるのにも一役買います」
サプリメントはどうか。
「カロリーが高いものが多いコラーゲンは胃を動かしてしまうので、寝る直前の服用は控えましょう」
【運動】夕方にするのがポイント
・30分の運動を夕方に
加えて積極的に取り入れたい「運動」だが、体内時計を整えるには、いつ行うのが効果的なのだろう。
「体内時計を整えるためには、寝る前には深部体温を下げ、朝は上げるというようにメリハリをつけていきたい。運動は、日中から夕方の体温が高い時間に行うのがいい」(中村さん)
ウオーキングなどの軽い有酸素運動を30分程度するくらいでいいという。
【入浴】就寝前は湯船NG
・寝る直前は湯船に浸からない
運動の汗を流す入浴にもポイントがある。
「湯船につかるなら、寝る時間から1時間以上あけましょう。それより就寝時に近いなら、シャワーだけに。睡眠直前に深部体温を上げることは体内時計を乱すもとになる」(中村さん)
【薬ののみ方】効きやすい時間帯に
・降圧剤は夕方に
さらに、最近は薬の服用についても効果的な時間がわかってきている。自治医科大学名誉教授・巨樹の会学術顧問の藤村昭夫さんが話す。
「夜間の血圧が高いままだと動脈硬化が促進し、脳梗塞や心筋梗塞などの血管疾患が発症するリスクが高まる。そういった人の場合、降圧剤は朝より夕方に服用した方がリスクが低下します」
・胃腸薬は夕食後に
胃潰瘍など、消化性潰瘍の持病を持つ人も、朝より夕方の服用がいいと藤村さんが続ける。
「胃酸は夜間に活発に分泌されますので、症状が悪化しやすい。だから夕食後の服用の方が胃酸の分泌を長く抑えてくれるのです」
体内時計が体の隅々まで影響をあたえていることがよく分かった。は、なかなか難しいことですが、食事・睡眠・運動などで少しずつリズムを整えましょう」(藤村さん)
できるところから始めてみるべし。
※女性セブン2019年3月21日号
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