ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、“アラ還”で感じたニュースな日々を綴る。
連載264回の今回は、茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護について。要介護認定5の「母ちゃん」。1か月前に退院した当初は元気をなくしていたが、劇的な回復ぶりを見せたそうです。
* * *
「ロクシタン」での全身ケアに上機嫌
まさか私がガッツリ自宅介護をするハメになるなんて、コロナのバカやろう!と叫びたい日もあり。あれ? 介護ってそう悪くないかもと思う日もあり。日によって状況がまるで違うから、気持ちがいつもふわふわしている感じ。
それにしてもここのところの母ちゃんの調子の良さといったらないの。きっかけは東京のMマダムが送ってくれたロクシタンのシャンプーとシャワージェル、ボディー乳液を使って、訪問看護士さんに全身ケアをしていただいたこと。
「フランス製だってよ。いいにおいだね〜」と言われ、「まさがな~(さすがだよね~)」と、ますますの笑顔だ。ったく、前夜のあの騒ぎは何だったのよ。
母ちゃんと私は真夜中の格闘をした。原因はトイレ。紙オムツで用をたすのがイヤで、なんとしてもポータブルトイレに座らせろと私の名前を呼ぶんだけど、寝入りばなで起きられない。起きたら重労働だもの。なんとか自分を鼓舞してひと仕事を終えて寝たら、その小一時間後に「オシッコ~」だって!
ムカついた勢いで起きあがったら、今度は母ちゃんの手足が思うように動いてくれない。「何してんだよ!」と突っ張らかった脚を軽く叩くと、「腹が痛て~んだよぉ」と母ちゃんが吠えた。その声がなんだかかわいそうでね。「ごめん」とは言わなかったけど、淡々とミッションを遂行した私。
かつおの刺し身に目がギロリ
それはそれとして母ちゃんの意識は着々と上昇気流に乗っていて、先日はなんとビールを飲んだのよ。夕飯に冷やし中華を作ったら、フォークを使って次々と自分の口に放り込み出した母ちゃん。数日前からほぼ介助なしでご飯を食べられるようになっていたのよ。
で、これなら私も差し向かいで食べられるかしらと、缶ビールを開けて皮付きのかつおの刺身をテーブル置いたら、母ちゃんの目がギロリ。「食うか?」と聞くと黙ってうなずくので、ひと切れ口の中に押し込んだ。その数分後、今度は私の飲むビールにもギロリ。「飲むか?」「うん」でひと口、コップから飲ませると、「うまい!」だって。
それだけじゃない。婆さん、私が飲んでテーブルに置いたグラスに指先の曲がった手を伸ばしてグビリグビリ。片手で冷やし中華のお皿を抱えてながら、かつおの刺身にフォークを突き刺し、醤油につけたのよ!
東京暮らしをいったん閉じて覚悟の介護をしている64才の娘(私)とサシ飲みってか? いい加減、決まりつけてくれよな〜といいつつ、うれしくてたまらないのはどうしたことか。
刻々と変わる故郷の光景が楽しい
こんなことをしているうちに、季節は目に見えて変わっていたのね。故郷はどこもここも黄金色だ。「あと10日もすれば稲刈りだよ」と、幼友だちのKちゃんは言う。「ここで育っても、住んでなければ稲刈りのタイミングとかわからなくなるんだね」と呆れ顔だ。
ま、確かに「黄金色」と聞けば「金めのもの?」と聞き返しかねないほど、都会に毒されていた私。刻々と変わる故郷の光景が面白くてたまらない。
「写真はいいやな~」と目を輝かせる
早朝、母ちゃんに「写真撮りに行ってくっかんな」と言って出かけようとしたら、「はぁ、そうたに出歩いてるどごじゃあんめ」と茨城弁で眉間にシワを寄せる。出かけている場合じゃないだろうと、介護されているほうが言うかね(笑い)。
「何か用があんのけ?」と聞くと、「用ちゃ用はねえけどよ」って、当たり前だ! つい今しがたまでトイレ問題に取り組んで、ようやく解決させたばかりじゃないの!と言うとカドが立つからゴクンと飲み込んで、「じゃあ、行ってくっから」と原チャリにまたがった私。
ところが帰ってこの写真を見せると、「どごだ、こごは! こうたどごがあんのがぁ。いいどごだなやぁ」と目を輝かせるの。「写真はいいなや~」とも。
さぁて、母ちゃん、朝ごはん作ってやっからな。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。
●【263】介護生活で感じた息抜きの大切さ。たまにはケーキ、かき氷も