「オレも口が強請だ。コレのごと怒らせちまうんだ」
昔から話がわからない人ではないけれど、いったん“我”を出すとどうにも止まらなくなるクセがあるの。それがもろに出たのは17年前に交通事故で内臓破裂をしたときよ。
栃木県の大きな病院の集中治療室に12日間。当初、「助かるかどうか五分五分」と言われていたのに一般病棟に移って2か月。この時も驚異の回復をしてお正月は自宅で迎えられた。その時、家事をするために帰省した私は4日で3kg体重を落としたの。
食卓の用意をして、さあ、食べようとすると、「酢をかけろ」「塩が足んねぇな」「きゅうりの古漬けがあったっぺ」。自分だったらこうするということを、全部私にやらせようとするの。
なので私は食事をあきらめて、母親の横に立ちひざになって座った。「さあ、なんでも言ってくれ」と言って。そうしたら「いいからご飯食えよ」というくせに、次の瞬間、「マヨネーズもってこ」。
そりゃあ、どうしても必要なものを私のうっかりで用意し忘れたというなら文句はない。でもそれにしてはあまりに指示が細かい。不自由な体がもどかしくて八つ当たりをしているとしか思えないのよ。
ものすごいニラミをすることも
それで私には「ありがとう」と言わない。たとえ言っても口先だけでちっとも感謝の気持ちがこもらないのは今回もそう。
その言い訳を見舞いにきた私の友達に言うの。「オレも口が強請(ごうせい)だ。コレ(私)のごと怒らせちまうんだ」とか、たまたま食事どきに来た人が、私が何品か並べた料理をほめると「コレが作ったんだっべな」と嬉しそう。それが精いっぱいなんだよね。
だけどばあさまのクセはそれだけじゃないの。ものすごいニラミをするのよ。友達に誘われてお茶のみに行ったときのこと。私が化粧を始めると部屋のすみのベッドからずっとニラんでいるんだわ。「化粧なんかしてどこに行くんだ」と言われたら、「お茶飲み」と答えられるけれど、無言でにらむんだからタチが悪い。ニラミにはニラミで対抗したけれど、負けたのは私。婆さん、絶対に目をはずさなかったからね。