
「春眠暁を覚えず」というように暖かくなってくる春はぐっすり眠れる季節――のはずですが、必ずしもそうではないようです。朝までぐっすり眠るにはどうしたらいいのでしょうか。漢方にも詳しい管理栄養士・小原水月さんによると、ポイントをおさえて食事をすることで、睡眠の質の改善が目指せるそうです。そこで、睡眠をサポートする食べ物とおすすめの漢方薬を小原さんに教えてもらいました。
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夜中に何度も目が覚める原因は自律神経の乱れ
人の体は、自律神経である交感神経と副交感神経が連携して調節をしています。本来、睡眠中は副交感神経が優位に働くのですが、何らかの影響で交感神経が強く働き続けるとバランスが崩れ、中途覚醒などの不眠の症状が出やすくなるのです。
交感神経と副交感神経のバランスが崩れる主な原因は3つあります。
春特有の気候
春は低気圧と高気圧が交互に訪れるため、数日で天気が入れ替わります。さらに、1日のなかでも寒暖差が大きく、外部環境が短時間で変化するのが特徴です。外部環境の変化に自律神経が順応できず、バランスを崩すことがあります。

精神的なストレス
年度替わりの春は、公私で立場や環境が変わる人も多くいます。たとえ、喜ばしいできごとであっても環境の変化はストレスですし、場合によってはプレッシャーに感じることもあるでしょう。大きすぎるストレスを受けると自律神経のバランスが乱れることがあります。
更年期の影響
更年期に起こる急激な女性ホルモンの減少は、体の内部環境を大きく変化させます。この変化に自律神経が速やかに適応できずにバランスが崩れ、睡眠に支障をきたす場合があるのです。
途中で起きてしまう…改善におすすめの食材
睡眠の質の改善を目指すなら、自律神経を司る脳の機能を高めることが重要です。脳を機能的に働かせるために役立つ栄養素を含む食材を3つ紹介します。
大麦

脳の主なエネルギー源はブドウ糖です。大麦はブドウ糖の材料となる炭水化物を多く含むだけでなく、ブドウ糖をエネルギーとして利用する際に欠かせないビタミンB1と、神経伝達において重要な働きをするカルシウムが米と比べて多いのも特徴です。
ただし、大麦だけを継続的に食べるのは難しいので、白米に混ぜて普段の主食の栄養価を底上げするイメージで取り入れることをおすすめします。
卵

卵には脳細胞の構成成分であるたんぱく質と脂質が含まれていて、脳の活性化に役立ちます。また、たんぱく質の一部はトリプトファンというアミノ酸になり、睡眠ホルモンと呼ばれるセロトニンの材料になります。十分な量のセロトニンが分泌されると副交感神経が優位になるので、睡眠の質が高まります。
あさり

あさりに多く含まれる鉄は、脳の指令を各器官に伝える「神経伝達」で欠かせない栄養素です。また、あさりにはビタミンB12も多く含まれ、神経系の機能を維持したり、脂質を脳細胞の材料として使ったりする際に重要な働きをします。
味噌汁や酒蒸しにするのが定番ですが、しぐれ煮をごはんのお供にしたり、卵とじにしておかずの一品にしたりすると手軽に食べられるのでおすすめです。
漢方薬で睡眠を整える方法
食事に気をつけていても目覚めがスッキリしないときは、不眠症に効果が認められている漢方薬をのむという方法があります。
ストレスなどをはじめとした気分の乱れを整えることで自律神経のバランスを整え、穏やかによく眠れる体質を、体の内側から目指すのが漢方医学の考え方。寝つきが悪い、途中で起きてしまう、熟睡感がないなどの症状を根本から改善します。

中途覚醒に悩む人におすすめの漢方薬2つ
・酸棗仁湯(さんそうにんとう)
酸棗仁湯は神経の高ぶりを鎮めて、熟睡できるよう働きかける漢方薬です。体力が低下していて、心身が疲労している人の不眠改善に用いられます。
・加味帰脾湯(かみきひとう)
加味帰脾湯は気持ちを落ち着かせることで、精神を安定させる作用があります。更年期障害にともなう睡眠の悩みに用いられます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は、繰り返す不調に対して根本からの改善が期待できる薬です。そのため、食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん

おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。あんしん漢方(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで執筆中。