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倉沢淳美、深キョン、モー娘。、SMAPほか…世代超え輝き放つ「アイドルの自己紹介ソング」が教えてくれること

倉沢淳美『プロフィール』(1984年)は2番の歌詞が秀逸
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スマートフォンが普及しSNS全盛の時代を迎えた今、老若男女を問わず「知らない人に自分が何者かを伝える」機会が増えています。短いフレーズで、しかも自分が魅力的に映るように伝える……それが理想とはいえ、「そもそも自己アピールは苦手」という人は多いのではないでしょうか。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんは、「そんな時、アイドルの自己紹介ソングに学べることがある」といいます。田中さんが歴代の「自己紹介ソング」を分析します。

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新しい出会い、新しい始まり。そんなときに必要なのが自己紹介、もしくはプロフィール文づくりである。私は、名刺交換するとき「薄い顔、薄い名字なのだから、印象に残らねば」とプラスワンを考える。そして「シェーのポーズで名刺を差し出してみようか……」、などという危険な思惑が毎回頭をよぎるのだ。したことはないが。

SNSでも自己紹介を書く欄は悩む! 必要な情報をサクッと分かりやすく、かつ親しみを持ってもらえるようアピールしたいという欲も乗っかり、短くまとめられない。結局「もう普通でいいや……」と真面目な内容で終わってしまうのである。きっとお悩みの方は多いはず、「プロフィール欄書くの難しい問題」!

しかし、モジモジしていては誰にも覚えてもらえない。ということで、エブリディ自己アピールを余儀なくされるアイドルたちの自己紹介ソングを集め、参考にしてみようではないか。

あなたのためだけに囁く倉沢淳美『プロフィール』

アイドル花の時代と呼ばれた80年代前半、伝説の自己紹介ソングとして知られているのが、倉沢淳美さんの『プロフィール』(1984年)である。倉沢さんは『欽ちゃんのどこまでやるの!』の三つ子の一人「かなえ」役で人気を博し、ソロデビューを果たした。

女性3人組ユニット「わらべ」としても活動(写真は1982年、Ph/SHOGAKUKAN)
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が、世の中にすっかり定着していた「かなえちゃん」イメージから、今度は素のキャラクターをしっかりアピールしなくてはいけない。この曲は、そのタイトルの通り、彼女のプロフィールを入れ込んでど真ん中勝負に出た感が清々しい。同時に、「16歳の倉沢淳美」が今聴いても鮮度たっぷりに解凍されるという嬉しい効果も!

「自分は普通の女の子」という内容のセリフから始まり、「そんな私は好きですか」と問いかける。畳みかけるように、誕生日を教えてくれる。そしてサビで「A・TSU・MI」と名を叫ぶ。なんと隙のない流れ!

なかでも秀逸なのは2番の歌詞。身長が1メートル56センチであることを明かし、「あなたとなら釣り合いそう」と歌うのである。そしてウッカリ、BWHまで言いそうになりながらも「まだ秘密」と止める。

聴いている人は完全に「ぜったいオレに向かってだけ紹介してくれてる!」という気分になったはず!

深キョンのカワイイ自己アピール曲

自己紹介まではいかないが、歌い手の名前が入っていることで親しみを感じられる曲もある。私が個人的に好きなのは、深田恭子さんの『キミノヒトミニコイシテル』(2001年)である。深キョンが自らを「深田」と呼び、とてもかわいい。本当に可愛い。最高に可愛い。

女優ならではの歌声の魅力とは(写真は1999年、Ph/SHOGAKUKAN)
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興味深いのは、深田恭子さんは、声と歌い方は若い頃から超女優的である。デビュー曲『最後の果実』(1999年)で感心したのだが、素の不思議ちゃん的なキャラクターが、歌になると「ミステリアス」になるのだ。ちゃんと歌詞の世界のヒロインを演じていて、大人びた声が独特の色気を漂わせる。『キミノヒトミニコイシテル』は若さ弾けるポップな曲だが、深キョンの落ち着いた歌い方とのギャップが良き! 少女の包容力と危うさみたいなものを感じて、ものすごく惹かれてしまう。

グループアイドルの自己紹介ソング

『女子かしまし物語』のMVも話題に(写真は2001年、Ph/SHOGAKUKAN)
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さて、「自己紹介ソング」に話を戻そう。このジャンルで最も参考になるのは、短いフレーズでメンバーの特徴を覚える工夫がされている、グループアイドルの曲だろう。

辻希美さん、加護亜依さんのラストシングルとなったモーニング娘。の『女子かしまし物語』(2004年)はそれぞれの性格に合わせたセリフが印象的。コンサートでは現メンバーに合わせた『女子かしまし物語』が作られ、歌い継がれているのも素晴らしい。

もう一組、自己紹介を「ストーリー」としてガッチリ作り上げてくるのがももいろクローバーZ!

6人だった「ももいろクローバー」時代のデビュー曲『行くぜっ! 怪盗少女』(2010年)は、学校が終わったあと制服を脱ぎ捨てて「あなたの心を盗む」怪盗少女になるというイカシた設定。

5人になってからは、ゴレンジャーの如くメンバーカラーを前に出した『Z伝説 〜終わりなき革命〜』(2011年)を発表。アニメソングのカリスマ水木一郎さんによる「Z!」の叫び、そして間奏の、総合格闘技イベントPRIDEのナレーターとして有名な立木文彦さんによる、「説明しよう!」から始まる彼女たちの紹介は圧巻である。

『Z伝説』は4人体制後にリニューアル(写真は2012年、Ph/SHOGAKUKAN)
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「コール」ができた眩しい時代

グループアイドルの自己紹介ソングは、アルバム収録曲を含めると、けっこう昔からあるようだ。辿っていくと、1970年代のアイドル、キャンディーズにも『キャンディーズ』(1973年発売の初アルバム『あなたに夢中〜内気なキャンディーズ〜』収録曲)という自己紹介ソングがある。「キャンディーズ♪」という見事なハーモニーが、「さあ、始まるわよ、私たちのショーが!」という感じで胸の高鳴りがハンパない。

絶頂期での解散後、伝説となったキャンディーズ(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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1980年代はおニャン子クラブの『会員番号の唄』も楽しかったし、男性アイドルではSMAPの『CRAZY FIVE』(2012年)。「木村君〜」「なーあーに!」とメンバーが他のメンバーの紹介をしていく、数珠繋ぎ形式は凄まじくエモーショナルだった。

これらの歌は、コンサートで、コールを入れてすごく盛り上がったんだろうなあ。クーッ、経験された方、羨ましい! まさかコールができない時代が来るとは思わなかった。また絶対来てほしい、高らかにコールできる時代が。

ぜひとも真似したい、アイドルの自己紹介テク。もちろん、職場の自己紹介では真似しにくいが、自分で心の中で歌い、士気を高めるのには有効だ。

誇らしげに自分の名前とアピールポイントを歌い、聴き手のテンションを上げるアイドルソングは、こう教えてくれる。

自分のことをチャーミングに伝えれば、自分の心もその通りになっていくのだ、と!

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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