恋に敏感な乙女、キムタクに「いい男だなや」
で、ややこしいのはここからで、ヤンキー母ちゃんは武闘派と同時に恋には敏感な乙女でもあるの。
たとえば中2の私が凍てつく冬の日、失恋をして泣いて家に帰ってこたつに頭を突っ込んで泣いていたの。そうしたら仕事から帰った母ちゃんが、「なんだ、振られたのが」と言うから黙っていたら、「しゃあ~ね~な~。逢うが別れのはじめとは~♪ って歌の文句にもあっからな~」と一節、鼻歌を歌ったんだよね。それがハワイアンを日本の恋の歌に変えてヒットした『別れの磯千鳥』と知ったのはずっと後のこと。
とにかく私の知る母ちゃんは弟を怒鳴りつけているか、忙しげに動いているか、黙って針仕事をしているかなのに、夢見るような顔で歌まで歌っている! でも14歳の私はときどきその片鱗を見ていたんだね。その変わり身にさほど驚かなかった気がするんだわ。
だけどキムタクの恋ドラマが全盛だったころだから今から20年以上前の話。実家に帰るとドラマを見ていた母ちゃん(当時70代後半)が、私に「いい男だなや」と言って恥じらい笑いしたのよ。「キムタクがタイプげ?」と聞くとコクンとうなずく顔は見ている私が恥ずかしくなった。この婆さん、いつまで女なんだよ、と。