
天候が関連して起こる不調を総称した「気象病」は、気温の変化が原因になることもあるそうです。そう教えてくれたのは、天気と痛み、自律神経の関係について長年研究してきた『1万人を治療した天気痛ドクターが教える「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本』(アスコム)の著者・佐藤純さん。そこで、気温が原因の気象病ついて、そのメカニズムや不調の改善方法を教えてもらいました。
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気温の変化で不調が起こる理由
気温と体調との関係性については昔から研究が重ねられてきて、その成果が「熱中症情報」などに利用されています。重度の熱中症になると、頭痛、めまい、吐き気といった症状を引き起こすことからも、相関関係がイメージしやすいと思います。
逆に、温度の変化によって慢性痛が悪化する「温度不耐性」という病態にある人は、気温が下がると痛みが増す傾向にあるので、気温の下降に敏感です。
気温と自律神経の関係
急に寒くなったり、暑くなったり、という季節の変わり目に体調を崩しやすい人や、慢性痛が悪化する傾向にある人は、気温や湿度の変化に敏感な体質であるといえます。

それは、主に皮膚や粘膜、中枢神経や内臓などにも存在する、気温や湿度を感じるセンサー(受容体)が、外界の気温や湿度、さらには自らの体温や水分量の変化を感じ取り、自律神経がその影響を受けるからです。
皮膚などにある受容体が、気温の変化をとらえると、その情報は電気信号に変換されて末梢神経を伝わり、脳や脊髄の中枢神経に到達します。伝えられる情報の内容によっては自律神経が乱れ、体の調子が悪くなることがあります。
自律神経と体調の関係
寒暖差が激しいと、気温の変化に体を対応させるために、交感神経と副交感神経からなる自律神経のバランスが崩れるのです。
交感神経が優位な状態になると、エネルギー消費が増えます。エネルギーの消費が過多になると、疲労感や倦怠感が生じることにつながります。
この働きで体が疲れてしまうことを「寒暖差疲労」といいますが、ただ単に疲れるだけでなく、頭痛、めまい、眠気、気分の落ち込み、肩こり、冷えなどの症状が出やすくなるのも特徴です。気象病のある人は、そのせいで痛みがさらに悪化してしまうのです。
寒暖差疲労による症状の傾向
寒暖差疲労により生じる症状の傾向や特徴は、気温が上がるときと下がるときで異なります。
気温が上がるタイミングで悪化しやすい症状の代表格が片頭痛です。こめかみあたりがズキズキと痛む片頭痛は、気温の上昇とともに血管が拡張するために痛みがひどくなります。

一方、気温が下がるタイミングでは、体が冷えることで筋肉が硬くなるため、筋肉が緊張し血行が悪くなることで起こる緊張型頭痛や肩こりなどの症状、腕や足腰の痛みが悪化します。また、寒くなるときの方が自律神経の乱れが大きくなる傾向があり、うつ病などの心理的な不調に影響しやすいこともわかっています。
猛暑やコロナ禍の影響により、クーラーのきいた部屋で過ごす時間が長くなった近年、本来なら汗をかく時期に汗をかかなくなったことで、自律神経がサボりがちになっている人が増えています。そのまま秋を迎え、一気に気温が下がったときに自律神経がうまく働かないと、体調悪化に拍車をかけてしまうので、注意しましょう。

気象病改善のカギとなる自律神経を整える方法
自律神経のパワーは40代になると10代の約半分になります。加齢よる自律神経のレベル低下を止めることはできませんが、生活習慣の心がけなどでカバーすることは可能です。
もともと自律神経が乱れてしまっている人に天候の影響が重なると、慢性痛の増幅にもつながります。そうならないためにも、自律神経が乱れないように心がけることが大切です。
腸内環境を整える
食べ物を消化する腸と自律神経をつかさどる脳は強固な関係で結ばれており、腸内環境を整えると自律神経も整うため、食事は重要です。
幸せホルモンと呼ばれ、自律神経を活性化する作用のある「セロトニン」は約90%が腸で作られます。さらに、人間の体を病気から守る免疫細胞の約60〜70%が腸に存在しています。そんな腸内の環境を整えるには、2つのポイントがあります。
まずは「1日3食」を守ること。特に、朝食は寝ている間に下がった体温を上げ、腸の働きを活性化させる効果があるので、絶対に食べるようにしましょう。しっかりした食事が難しければ、スープや野菜ジュースなどを飲むだけでも構いませんが、おすすめはヨーグルトやチーズなどの発酵食品です。同じく発酵食品のみそを使ったみそ汁でもいいでしょう。

次に、ビタミンB群を豊富に含んだものを食べるのがおすすめです。中でも大事なのが、お米やパンなどの穀物に多く含まれるビタミンB1。糖質は自律神経の働きに深く関係しています。その糖質の代謝に関わるのがビタミンB1なのです。ビタミンB1は貧血やめまい対策にも有効ですし、不足すると疲れを感じやすくなります。また、日常生活のストレスからめまいを引き起こしている人は、合わせてビタミンCを摂ることが好ましいです。
睡眠のリズムを整え、日光を浴びる
暗くなったら寝て、明るくなったら起きるという、本来人間に備わっている生活リズムが著しく崩れることは、自律神経の混乱につながります。早寝早起きが難しくても、毎日同じ時刻に寝て、同じ時刻に起き、睡眠のリズムを安定させることが理想的です。そして、朝起きたときに陽の光を浴びて、自律神経を活性化させましょう。
また、睡眠を促すホルモンの「メラトニン」になる「セロトニン」は、朝日を浴びることで作られます。起床後14~16時間後にメラトニンの量が最大になるので、起きたときに陽の光を浴びると、その日の夜に眠りやすくなるという好循環が生まれます。起きたらすぐにカーテンを開けて、5分間の日光浴を日課にするようにしてください。

また、スマートフォンやパソコンの画面から出る光は刺激がとても強く、脳が興奮した状態になり、交感神経がストレス反応を起こしてしまいます。布団に入ったらスマホを見ないなどと心がけることも、自律神経を整えるためにいい習慣といえます。
自律神経のスイッチを切り替えるには軽い運動
常にだらっとした生活を繰り返していると、ストレスに対して交感神経が働かなくなります。すると、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなり、自律神経の乱れが生じてしまいます。そんなとき、体を動かすことが、交感神経を働かせる習慣を取り戻すきっかけになるのです。
「血流アップのつま先立ち」のやり方
激しすぎる運動は交感神経が興奮状態になりすぎて、副交感神経へのスイッチが入りづらくなるので、自律神経を整えるための運動なら軽めで十分です。まずは簡単なストレッチから始めてみましょう。血流アップに効果的なつま先立ちのやり方について紹介します。
■「血流アップのつま先立ち」のやり方
1日3セットを目標に、通勤中や家事をしながらなど、こまめにやると効果的です。

【1】直立した状態で立ち、かかとを床にしっかりつける
【2】かかとをあげてつま先立ちで立つ。【1】【2】を30回繰り返して、1セット。
自律神経を整えるためには筋肉が重要
日頃から体を動かす習慣のある人は体温が高く、代謝がいいとされています。冷えに強い体ということは、血行不良の悩みがないということでもあります。血行がよくなることは、気象病の改善につながります。
自律神経を整えるための簡単なストレッチに慣れてきたら、ウォーキングや水中ウォーキングなど、体に大きな負担のかからない運動から始めてみてください。
◆教えてくれたのは:天気痛ドクター・医学博士・佐藤純さん

日本慢性疼学会認定専門医。中部大学生命健康科学研究科教授。愛知医科大学客員教授。1983年に東海大学医学部を卒業後、名古屋大学大学院での研究、米ノースカロライナ大学での留学や名古屋大学教授を経て、2005年より愛知医科大学病院・いたみセンターで日本初の「気象病外来・天気痛外来」を開設。30年以上にわたり、気象と痛み、自律神経との関係を研究。2020年にウェザーニューズと共同開発したアプリ「天気痛予報」をリリース。メディア出演も多数。著書に『1万人を治療した天気痛ドクターが教える「天気が悪いと調子が悪い」を自分で治す本』(アスコム)など。https://www.tenkitsu-dr.com/doctor/