
顔は汗だくなのに、足元は冷えている症状を「冷えのぼせ」といいます。夏に起こりやすい冷えのぼせの改善には、足を温めるよりも食事から栄養素を補給し、血流をよくするのが効果的だと、漢方にも詳しい管理栄養士の小原水月さんは言います。そこで、冷えのぼせのメカニズムとおすすめの食材、効果的な漢方薬について教えてもらいました。
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夏特有の冷えのぼせとは?
冷えのぼせは冷えの一種で、とくに体に熱がこもりやすい夏にみられることが多いです。特定の病気が原因になる場合もありますが、長年の生活習慣も大きく影響します。
血流の悪化が冷えのぼせの原因
冷えのぼせの原因は、腰やお尻の筋肉が緊張し、神経を圧迫することで、下半身の血管が収縮して足の血流が悪くなっていることです。
血の巡りが悪いために体のすみずみまで熱が行き渡らず、上半身に集まってしまっているのです。例えるなら、お風呂のお湯がかき混ぜられていないようなもの。むやみに温めると、さらに熱が上半身に集まり、のぼせて気分が悪くなる場合もあります。

冷えのぼせになりやすい生活習慣
冷えのぼせは坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)や脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)などの腰回りの病気が原因になる場合もあります。その場合は、原因となる病気の治療が優先です。
特別な病気がない場合は、腰やお尻の筋肉が凝る姿勢や座り方などのクセ、ストレスによる自律神経のバランスの乱れが影響する場合もあります。また、食事量の不足や栄養の偏りによる血液量の不足、血流の悪化も冷えのぼせにつながります。
夏の冷えのぼせ改善におすすめの食材
冷えのぼせの改善には血液の量を確保することが重要です。血液の量自体がたりなければ、血液は流れず、熱が循環しづらくなります。そこで、自宅で簡単に食べられて、血液を作るのに欠かせない栄養素を含む食材を3つ紹介します。
イワシ

イワシは5~9月ごろに収穫量が多くなる、鉄を豊富に含む食材です。鉄は血液の赤色の元である赤血球を作る際に欠かせません。不足すると、冷え以外にも髪のトラブルや食欲不振の症状があらわれます。
十分に胃酸と反応することで吸収率が高まるので、胃酸の分泌を促す酸味と一緒に摂るのがおすすめです。酢締めにしたり梅干しと一緒に煮る梅煮にしたりするといいでしょう。
つるむらさき

つるむらさきは夏を代表する緑黄色野菜で、葉酸を多く含みます。葉酸は造血ビタミンとも呼ばれるビタミンB群の一種。血液中で酸素を全身に運ぶ働きをする赤血球の合成に必須の栄養素です。
つるむらさきの茎は太いですが、柔らかく、葉と一緒に茹でられます。おひたしや胡麻和え、スープや炒め物と、どんな調理法でもおいしく食べられます。
納豆

さまざまな健康効果が注目されている納豆は、血液の主成分であるたんぱく質が豊富です。たんぱく質は消化に時間がかかる栄養素。しかし、納豆は納豆菌がたんぱく質分解酵素を作って消化を助けるため、夏バテで胃腸機能が落ちているときにも無理なく食べられます。
納豆はごはんに乗せるだけでなく、餃子や玉子焼き、トマトやオクラなどと一緒に和え物にするなど、活用範囲が広いのも魅力です。
夏の冷えのぼせには漢方によるケアもおすすめ
漢方薬は、のぼせなど原因が分かりにくいけれども症状がある状態の改善を得意としています。自然由来の生薬の組み合わせでできているため、西洋薬よりも副作用が少ないとされ、長い漢方医学の歴史による、経験にもとづいた安全性があるので、婦人科の治療でも使われています。
冷えのぼせを根本から改善する方法
自律神経を整えたり、血液の循環をよくしたりすることで、体内の熱の偏りを整えれば、冷えのぼせも改善できます。加えて、冷えや疲れやすさなどの症状も改善されるでしょう。そのために、問題の根本にアプローチして改善を目指す漢方薬を取り入れるのも方法のひとつです。

冷えのぼせにおすすめの漢方薬2つ
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
血液の巡りをよくして不調の解消を目指す漢方薬です。冷えのぼせのほかに、生理不順やにきびなど肌荒れなどの症状にも用いられます。
・加味逍遥散(かみしょうようさん)
女性のための漢方薬として有名で、更年期のさまざまな症状によく使われます。血行を整え、熱を冷ますことで、冷えのぼせの改善のほか、自律神経のバランスも整えます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は繰り返す不調に対して、根本からの改善が期待できる薬です。そのため、食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
食事で巡りのいい体を作る
冷えのぼせは血流の滞りによって起きます。冷えた部分に外から熱を加えるのではなく、運動不足やストレスを解消しつつ、血液の巡りを促す食材を食事に取り入れ、偏った熱を体に循環させるのが有効です。
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん

おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。あんしん漢方(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで執筆中。