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鉄道開業150年!アリス、チューリップ、野口五郎からタッキー&翼まで 今こそ聴きたい「鉄道」の名曲

アリス『遠くで汽笛を聴きながら』(左)は1976年、チューリップ『心の旅』(右)は1973年の発売
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1872年(明治5年)10月、日本で初めて鉄道が開業しました。出会い、旅立ち、別れ、帰郷……。幾星霜の時が流れても、鉄道は人々の人生ドラマに寄り添い続けます。鉄道をテーマにしたヒット曲が多いのも自然なことかもしれません。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライター田中稲さんが、鉄道開業150年を迎えた今こそ聴きたい、名曲の数々について綴ります。

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ついに来た、鉄道開業記念日! 今日(10月14日)からきっかり150年前、日本初の鉄道が新橋・横浜間に開業した。

ちなみに当時の蒸気機関車の速さは時速約30キロ、馬と同じくらいの速度だったそうだ。皆モクモクと煙を上げながら走るデッカイ乗り物を見て、絶対ワクワクしたはず! 「これからラクに早く遠くに行けるぞ!」とまだ見ぬ地に思いを馳せただろう。

私もこの鉄道150周年はかなり前からワクワクしており、今年5月にも「鉄道と歌謡曲」の記事を書いた(「郷ひろみ、山口百恵、近藤真彦、TOKIOほか…鉄道開業150年に聴きたい、懐かしの名曲たち」)。中途半端な時期だったかもしれないが、しかしいいのだ。妄想列車のダイヤは無限。何度でも来る。

ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガーッ……(扉が開く音)。

さあ、耳をすませば発車メロディが聴こえる。私と君は、もう心の汽車の中!

今も歌い継がれる名曲の「汽車」という言葉の重み

ということで、まずはやはり「汽車」である。私は蒸気機関車に憧れはあるものの、乗ったことは一度もない。

調べてみると、日本の鉄道路線で保存目的ではない、蒸気機関車の日常的な使用は1976年(昭和51年)の3月2日で終わっていた。私が小学校の頃ではないか! 想像以上に昔だった。

それでも「汽車」に親近感があるのは、今も歌い継がれる名曲にたくさん出てくるからだろう。チューリップの『心の旅』、イルカの『なごり雪』、堺正章の『さらば恋人』。歌詞で出てくる「汽車」は、けっして蒸気機関車だけを指すものではなく、「列車」よりも強く「そうそう早く帰らない覚悟」そのものなのだろう。故郷を離れ自立する、恋人と別れ違う土地に行く──。そんな「さよなら」という言葉だけでは表しきれない、強い思いを汽笛が代弁してくれるイメージだ。

『遠くで汽笛を聞きながら』の作詞は谷村新司(中)が、作曲は堀内孝雄(左)が担当した(写真は1979年、Ph/SHOGAKUKAN)
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アリスの『遠くで汽笛を聞きながら』は、自分の場所を大切にしようとする主人公が見えてくる。

この曲のシングルジャケットは、アリスのメンバー3人の写真ではなく、なんとも雰囲気のある雪景色の駅の写真が使われている。場所は秋田県横手市平鹿町の奥羽本線醍醐駅。雪が降る無人駅で、ポゥッと明かりが微かにともる景色に、静かな覚悟と、「その先」を思わせる。

『いい日旅立ち』といい、谷村新司さんの描く鉄道ソングは強過ぎる!

谷村新司(右)の鉄道ソングは「強い」(写真は1979年、Ph/SHOGAKUKAN)
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風景がありありと見える『私鉄沿線』

『いい日旅立ち』といえば1978年、まだJRが「国鉄」だった頃、キャンペーンソングになり、大ヒットしたことで有名だ。『いい日旅立ち』に競り負けキャンペーンでは使われなかった(テレビ番組にて武田鉄矢さん談)ものの、後に大ヒットしたのが海援隊の名曲で私のカラオケの十八番『思えば遠くへきたもんだ』である。コスモスが揺れるこの季節、ぜひ聴いて。涙が勝手に溢れ出るから!! 最初の「ヒョ〜ロローローロロロゥ〜ヒョ〜ロロロ〜ロロロローゥ……」という笛の音が涙腺を刺激してくるので、ひと目の多い場所で聴くのは避けたい。危険だ!

1978年発売の『思えば遠くへ来たもんだ』はその後、同名の映画、テレビドラマも作られた(Ph/SHOGAKUKAN)
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危険といえば野口五郎さんの『私鉄沿線』も負けてはいない。改札で恋人と待ち合わせして通学、通勤した経験がある人なら、あまりにも駅の風景が思い当たり、切なさで動悸息切れを伴うはず。列車、ホーム、改札、近くにある花屋や小さな喫茶店。そして伝言板!! 私もチョークで「先行ってるね」とか書いたなあ、懐かしい……。

鉄道から生まれるストーリーは、街と青春のストーリーでもあるのだ。

『私鉄沿線』発売当時の野口五郎。郷ひろみ、西城秀樹との「新御三家」で一世を風靡した(写真は1975年、Ph/SHOGAKUKAN)
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夢も希望も、時には迷いも乗せて

日本に150年前にやってきた鉄道は、「人生の旅の始まり」の象徴となり、現実世界を超え、いろんな世界にもつながっている。

「栄光」に向かって列車が走ると歌ったのはTHE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)だ。初めて『TRAIN-TRAIN』を聴いたのは、斉藤由貴さん主演のドラマ『はいすくーる落書』(TBS系・1989年)の主題歌だったが、本当にびっくりした。荒々しいながらも、歌詞と情緒が丸ごと耳に入ってくるので、「ものすごいロックな唱歌っぽい!」と感動したのを覚えている。

「アンドロメダ星雲」まで走るのは『銀河鉄道999(スリーナイン)』。ゴダイゴが歌い、のちにEXILEがカバーした『銀河鉄道999(The Galaxy Express 999)』もいい! だが汽車に乗りこむ臨場感を味わいたいなら、やはりささきいさおさんが歌う、1978年から放送開始されたテレビアニメ『銀河鉄道999』のオープニングだろう。メーテル—ッ!!

夢と希望と、時には迷いも乗せて走る鉄道ソング。もちろん、シンプルかつライトに恋と鉄道巡りを楽しめる歌もステキだ。小林旭『恋の山手線』、タッキー&翼『山手線内回り〜愛の迷路〜』などは駅名も自然と覚えることができて、最高にハッピーだ。

線路は続くよ、どこまでも。ああ、たまらなく旅に出たくなってきたぞ!

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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