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デビュー50周年!郷ひろみはアッパーソングの第一人者であると同時に、類まれなる「哀愁の表現者」である

今年、デビュー50周年を迎えた(写真は2022年、Ph/SHOGAKUKAN)
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ユーミン、アリス、チューリップ……2022年、大物アーティストが続々とデビュー50周年を迎えました。1970年代から新御三家の一人として華々しく活躍した郷ひろみもめでたくデビュー50周年。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライター田中稲さんが、来たる年末のNHK紅白出場に思いを馳せつつ、その名曲の数々を綴ります。

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郷ひろみさんがデビュー50周年である。郷ひろみさんといえば、ジャケットプレイ&限りなくアグレッシブなパフォーマンス。日本人離れしたカーニバル・オーラは唯一無二だ。エキゾチックジャペアオオン(『2億4千万の瞳』)、アチチ(『GOLDFINGER’99』)、1・2・サンバ(『お嫁サンバ』)──。文字にするだけで彼のシャウトが聞こえてくるというすさまじいパワー! しかし、郷ひろみさんは浮かれソングの第一人者であると同時に、類稀なる哀愁の表現者でもある。このバランスの絶妙さこそ、揺るぎない人気の要因だ。

デビュー50周年、揺るぎない人気を誇る(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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その憂いはどこから来るのだろう。彼の声に残る少年の香りが、「手に届くまでの、あとわずかの距離」を感じさせるのかも。ストレートな失恋とは違うもどかしさ。その場は笑って済ませつつ、陰で「もっと真剣に僕を見て……」とため息をつくようなイメージである。

恋愛哲学が詰まった『よろしく哀愁』

10thシングル『よろしく哀愁』は、1曲丸ごと恋愛哲学みたいな超名曲である。特に「会えない時間が愛を育てる」という定義は、今や遠距離恋愛者の標語として一般認知されているほど。これを甘い声でゆらりと揺れながら歌う彼の姿は、まさに動くメランコリック!

『よろしく哀愁』はデビュー3年目、1974年の発売(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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私が猛プッシュしたいのは『タブー(禁じられた愛)』『純情』『若さのカタルシス』の一気聴き。「恋、それは罪深き幻……」とその尊く切ない世界にどっぷりハマることができる。『タブー(禁じられた愛)』は、ジャケ写の手首まで入りそうなアフロヘアも素晴らしい。私は郷ひろみのアフロが本当に好きだ。アフロに哀愁が詰まっていると言っていい!

髪型や衣装も注目の的だった(写真は1978年、Ph/SHOGAKUKAN)
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1982年の『哀愁のカサブランカ』『哀しみの黒い瞳』という洋楽のカバー2連発は、郷ひろみの洗練されたイメージに仰天した覚えがある。

1993年から1995年にリリースしたバラード三部作『僕がどんなに君を好きか、君は知らない』『言えないよ』『逢いたくてしかたない』は、多くの不器用な大人たちの恋愛の背中を押したのではないだろうか。

歌声と哀しい歌詞が相乗効果を生む(写真は1997年、Ph/SHOGAKUKAN)
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鼻にかかった声が、泣くのを我慢しているように感じるときもあり、まさに哀愁の洪水! 「好かれてはいるんだろうけど、求めているのは、そういう種類の『好き』じゃない……」。そんな片思いに苦しんでいる人は、これらの郷ひろみ哀愁曲をぜひ聴いてほしい。一瞬余計に苦しくなりはするが、限界を超え妙なアドレナリンが出て、心地良くなる。哀愁のランナーズハイ!!

土屋太鳳との紅白名ステージ『言えないよ』

さて、郷ひろみさんといえば紅白歌合戦の常連である。毎回楽しみだが、特に思い出深いのが、郷さんが55歳、節目のGOGO イヤーだった2010年(第61回)。壮大なバラード『愛してる』からの、「みんなのうた」で人気だった『僕らのヒーロー』、そして息継ぎする暇もない爆走アッパーチューン『男願Groove!』という圧巻のメドレー! これは目が離せなかった。それまで紅白にあまり興味を示していなかった甥っ子が、「良かった〜」と呟いたことを覚えている。

近年の紅白でのパフォーマンスは圧巻(写真は2019年、Ph/SHOGAKUKAN)
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2016年(第67回)の、土屋太鳳さんのダンスに乗せしっとりと歌い上げた『言えないよ』も素晴らしかった。男性と精霊との恋愛をこっそり見た感覚になったものだ。ああいうエモーショナルな演出を、また1曲ガッツリ見たい! トップバッターも素敵だが、トリに聴きたいアーティストの一人でもある。

名曲も数多い(写真は2007年、Ph/SHOGAKUKAN)
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何せキャリアは半世紀。ディスコグラフィーは名曲タイフーン状態だ。あの曲も聴きたいし、この曲も聴きたいし。くっ、いろいろ悩まし過ぎる。

大人の恋愛を歌い続ける(写真は2022年、Ph/SHOGAKUKAN)
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その愛らしいルックスと個性的な声ゆえに、実力を正当に評価されなかった時期もあっただろう郷ひろみさん。そこを見事乗り超えた今の輝きが、ダイヤモンドで出来たミラーボール級なのは言わずもがな。

今から年末の紅白に思いを馳せずとも、秋の空は、郷ひろみの哀愁ソングととても仲良しである。さあ、今日も夕方赤く染まる街を眺めつつ『若さのカタルシス』を聴くか……。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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