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発売から39年!EBiDANのカバーで再注目の『前略、道の上より』 色褪せない「一世風靡セピア」の魅力

デビューシングル『前略、道の上より』は1984年6月発売
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今年4月、1984年に発売された一世風靡セピアのデビュー曲『前略、道の上より』が、男性アイドルグループEBiDANにカバーされ話題になっています。一世風靡セピアといえば、俳優・タレントとして長年活躍する柳葉敏郎、哀川翔、小木茂光らを輩出した伝説の路上パフォーマンス集団。彼らがテレビに進出した当時の衝撃について、ライターの田中稲さんが振り返ります。

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約1か月前だろうか。YouTubeで、徳間ジャパン公式チャンネルによる一世風靡セピアの『前略、道の上より』オフィシャルMVがオススメであがってきた。

うおお懐かしい! 思わずクリックしたら、なんと再生回数1050万回以上。これは懐かしいだけでは済まされない。セピア色の思い出を掘り起こすしか!

興奮して仕事仲間に電話で連絡すると「懐かしいです。中学校の運動会の応援合戦で踊りました」と、目を細め遠くを見ているのがありありとわかるような「思い出し声」が返ってきた。

確かにシンプルだし、あの、空を押し上げるような「ソイヤ! ソイヤ!」のフリは、大勢で踊ると映えるだろう。なにより、気持ちいいだろうなあ——。かなり羨ましくなり、電話を切ってその場で一人踊ってしまった。

ソイヤッソイヤッ(手を突き上げる)!

一世風靡セピアは「粋の極み」

改めて『前略、道の上より』を見返すと、その企画力にほとほと感心させられる。まず、グループ名に「風靡」という難しい漢字が入っているのがキャッチ—だし、「セピア」というチームカラーの選択も見事だ。

路上パフォーマンスには大勢のファンが詰めかけた(1984年、Ph/SHOGAKUKAN)
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曲もいい。よさこいと似た、心の奥のエネルギーを叩き起こすような、ジャパニーズ・パッション溢れるメロディー。そこに乗るのは、日本の移ろいゆく四季と自然、命の儚さをふんだんに盛り込んだ歌詞。粋の極みだ!

また、企画力とは関係ないが、メンバー全員の名前もいい。小木茂光さん=光り茂る木、哀川翔さん=哀しみ翔ぶ、柳葉敏郎さん=柳の揺れる葉、西村香景さん=香る景色、春海四方さん=春の海、松村冬風さん=冬の風、武野功雄さん=武士のいる野原……。どの方の名も風流なイメージが思い浮かぶではないか。

ところが柳葉さんは当時、「ジョニー」(しかもJonnyではなくJony表記)と名乗っていたそうだ。こんな美しいジャポニズムな世界観の一員にいながら、あえて「ジョニー」にこだわるとは、なんと可愛い若気の至りなのだろう。

アイドル全盛期のテレビに突如登場

『前略、道の上より』は、1984年6月25日の発売から約2か月半後、9月6日に『ザ・ベストテン』にランクインを果たしている。

そのときの1位は『十戒』中森明菜、2位『ピンクのモーツアルト』松田聖子、3位『顔に書いた恋愛小説』田原俊彦、4位『星屑のステージ』チェッカーズ。いわば、バリバリのアイドル全盛期である。彼らは渋谷の路上パフォーマンスで、デビュー前からすでに有名人だったそうだが、私のような田舎に住むテレビ族にとっては、寝耳に水というか、キラキラの世界にズート・スーツと赤い靴下で決めた強面の男が7人、急に入ってきた感じである。

アイドル全盛のテレビ界に突如として登場(1984年、Ph/SHOGAKUKAN)
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一世風靡セピアのメンバーは当時まだ20代前半(一番年上の春海四方さんが25歳)だったそうだが、アイドル的キャピキャピ感は皆無。かといってバンドでもない、見たことがないジャンル。私が彼らを初めて見たのは『夜のヒットスタジオ』だったと思うが、「こっ、このヤカラ顔の集団はなに!?」と戸惑ったのも致し方あるまい。

最初こそ驚いたが、そのバンカラでアウトローな魅力にハマるのに時間はかからなかった。『前略、道の上より』のC/W曲『セピアカラー』は、語りがメインで、もはやロック朗読劇。ヘミングウェイの没年を歌に入れるというアイデアは発明! 語りの前後に「Don’t forget(忘れるなよ!)」と煽るように繰り返されるのだが、いやいや、逆に忘れてくれと頼まれても無理なほどの昂りと臨場感。メンバーそれぞれの声色が活きていてすばらしい。特に武野功雄さんの低く太い声は、最高のアクセントとなっている。

9th『汚れつちまった悲しみに…』は、私に少年マンガの面白さを教えてくれた一曲である。アニメ『魁!!男塾』のオープニング曲で、「ナンボのもーんじゃい!」「笑おーうやー!」という彼らの雄叫びに誘われ、そのまま観てハマってしまった。それ以降、「汚れつちまった悲しみに」というタイトルを聞くと、詩人の中原中也より先に、大好きだったキャラクター、富樫源次の顔が浮かぶようになってしまったが。

制作陣も「一世風靡」した豪華メンバー

この『汚れつちまった悲しみに』の作曲は、芳野藤丸さん。1970年代後半『男たちのメロディー』(ドラマ『俺たちは天使だ!』主題歌)、『Bad City』(ドラマ『探偵物語』テーマ曲)などで一世を風靡した伝説のロックバンド、SHOGUNのメインメンバーであった。くっ、かっこいいわけだ!

一方、『前略、道の上より』『セピアカラー』を作曲したのは「GO TO」。誰かと思ったら、正体は、日本を代表する作曲・編曲家、後藤次利さんであった。

振り付けほか、スタッフ陣も豪華メンバーだった(1984年、Ph/SHOGAKUKAN)
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また、一世風靡セピアの最たる魅力ともいえる振り付けは、全曲が川崎悦子さん。劇団☆新感線や宝塚歌劇団など多くの舞台に携わり、4月30日、有終の美を飾ったSnow Manが主演の『滝沢歌舞伎ZERO』にも長年振り付けに参加してきたカリスマである。そんな彼女のデビュー作が、ソイヤソイヤの『前略、道の上より』だったのだ。

なるほど、一世風靡セピアは、関わっている制作陣も一世風靡な人たちだった。

時代は変われど受け継がれる「素意」

一世風靡セピアは1989年に惜しまれつつ解散。その後も、メンバーの多くは今もドラマや映画など幅広く活躍している。

そして、『前略、道の上より』は、リリースから約39年の月日が流れ、スターダスト・プロモーションに所属するEBiDAN(恵比寿学園男子部)がカバー。アレンジは、ゲスの極み乙女。の川谷絵音さんによるものだ。漢(おとこ)感溢れるご本家よりもソフトな印象で、総勢48人による青空の下のダンスは圧巻だ。

総勢48人の現役アイドルが伝説の振り付けを踊る(EBidan特設ホームページより)
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SP企画として一世風靡セピアメンバーとのスペシャル対談が公開されており、柳葉敏郎さんは、彼らのパフォーマンスを見ながら目を細め、こう話している。

「潔く生きていくぞ、という思いでパフォーマンスしていたんでね、俺は。誰かが引き継いで、そんな思いでやってくれると嬉しいな」

「ソイヤ!」は歌詞を見ると「素意や」と表記されている。「素意」にはかねてからの願い、本心、という意味があるのだそうだ。

39年前から時代は変わり、流行も変わったけれど、道の上から始まった熱きエネルギーと願いは、今もいろんな人によって歌い継がれ、拡散されている。この言葉を叫びながら、空に向けて手を上げて!

まさに歌詞の如く広がる『前略、道の上より』。なんとも幸せな曲だなあと思うのだ。

◆ライター・田中稲

田中稲
ライター・田中稲さん
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1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka

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