アイドル全盛期のテレビに突如登場
『前略、道の上より』は、1984年6月25日の発売から約2か月半後、9月6日に『ザ・ベストテン』にランクインを果たしている。
そのときの1位は『十戒』中森明菜、2位『ピンクのモーツアルト』松田聖子、3位『顔に書いた恋愛小説』田原俊彦、4位『星屑のステージ』チェッカーズ。いわば、バリバリのアイドル全盛期である。彼らは渋谷の路上パフォーマンスで、デビュー前からすでに有名人だったそうだが、私のような田舎に住むテレビ族にとっては、寝耳に水というか、キラキラの世界にズート・スーツと赤い靴下で決めた強面の男が7人、急に入ってきた感じである。
一世風靡セピアのメンバーは当時まだ20代前半(一番年上の春海四方さんが25歳)だったそうだが、アイドル的キャピキャピ感は皆無。かといってバンドでもない、見たことがないジャンル。私が彼らを初めて見たのは『夜のヒットスタジオ』だったと思うが、「こっ、このヤカラ顔の集団はなに!?」と戸惑ったのも致し方あるまい。
最初こそ驚いたが、そのバンカラでアウトローな魅力にハマるのに時間はかからなかった。『前略、道の上より』のC/W曲『セピアカラー』は、語りがメインで、もはやロック朗読劇。ヘミングウェイの没年を歌に入れるというアイデアは発明! 語りの前後に「Don’t forget(忘れるなよ!)」と煽るように繰り返されるのだが、いやいや、逆に忘れてくれと頼まれても無理なほどの昂りと臨場感。メンバーそれぞれの声色が活きていてすばらしい。特に武野功雄さんの低く太い声は、最高のアクセントとなっている。
9th『汚れつちまった悲しみに…』は、私に少年マンガの面白さを教えてくれた一曲である。アニメ『魁!!男塾』のオープニング曲で、「ナンボのもーんじゃい!」「笑おーうやー!」という彼らの雄叫びに誘われ、そのまま観てハマってしまった。それ以降、「汚れつちまった悲しみに」というタイトルを聞くと、詩人の中原中也より先に、大好きだったキャラクター、富樫源次の顔が浮かぶようになってしまったが。
制作陣も「一世風靡」した豪華メンバー
この『汚れつちまった悲しみに』の作曲は、芳野藤丸さん。1970年代後半『男たちのメロディー』(ドラマ『俺たちは天使だ!』主題歌)、『Bad City』(ドラマ『探偵物語』テーマ曲)などで一世を風靡した伝説のロックバンド、SHOGUNのメインメンバーであった。くっ、かっこいいわけだ!
一方、『前略、道の上より』『セピアカラー』を作曲したのは「GO TO」。誰かと思ったら、正体は、日本を代表する作曲・編曲家、後藤次利さんであった。
また、一世風靡セピアの最たる魅力ともいえる振り付けは、全曲が川崎悦子さん。劇団☆新感線や宝塚歌劇団など多くの舞台に携わり、4月30日、有終の美を飾ったSnow Manが主演の『滝沢歌舞伎ZERO』にも長年振り付けに参加してきたカリスマである。そんな彼女のデビュー作が、ソイヤソイヤの『前略、道の上より』だったのだ。
なるほど、一世風靡セピアは、関わっている制作陣も一世風靡な人たちだった。