ライフ

66歳オバ記者、長年悩まされた「胃潰瘍」の激痛 今振り返って思う「痛みは悪いことばかりじゃない」

オバ記者
42歳まで「胃潰瘍」に悩まされていたオバ記者
写真9枚

ライター歴45年を迎えたオバ記者こと野原広子(66歳)。昨年、介護をしていた母の死、自身の大病などを経験。そして最近は心臓にも不安を抱えるようになった。そんなオバ記者が長年悩まされていたのが「胃潰瘍」だという。

* * *

30歳になる直前に患った胃潰瘍

ほんとにもう、人の一生なんてあっという間なのね。というのも、昨年の秋に大手術をしてから何かの拍子で「私はあとどのくらい生きるのかな」と思うようになったのよ。と同時に、これまでのことをあれこれ振り返ったりしてね。

オバ記者
「卵巣がん」の疑いで手術を受け、結果「境界悪性腫瘍」だった
写真9枚

実際のところ過去をほじくり返したところでロクなことはない。反省なんて1000回したところで“性分”の二文字で帳消し。なんのタシにもならないのは私が66年生きて実証済みだ。ギャンブルや借金、その場しのぎの小ウソなどなど、私がしなくなったのは深く反省したからではなくて、間尺に合わないと気づいたからよ。飽きた、ともいうね。

てか、過去を振り返ろうとしても加齢による物忘れで思い出せなくなったことも多々ある。

だけど「おっ!」と思うほど忘れてないことだってあってね。それが「既往症」というやつよ。最近、病院はもちろん、鍼灸院に行ってもオイルマッサージを受けても、これまでどんな病気にかかったのか最初に書かされるんだよね。

オバ記者
入院中は愛猫・三四郎Tシャツをお守り代わりにしてたな
写真9枚

私の場合、大病といえるものは今回の「卵巣がんの疑い」で手術して、結果的には「境界悪性腫瘍」が私史上、最大の“大病”だったけれど、それと比べたら“中病”? 30歳になる直前に胃潰瘍を患ったの。

原稿締め切り日に「息ができないほどの胃の痛み」

胃潰瘍は出来た場所によってずい分、症状が違うみたいだけど、私の場合、胃の天井にクレーターみたいな形のかいようが出来たの。胃潰瘍に気づいたのは激痛があったからよ。それまでもお酒を飲みすぎたりすると胃がひりひり痛んだりしたけれど、常備薬だった胃腸薬を飲むとおさまったのね。それが忘れもしない、新しく始まった連載原稿の締め切り当日のこと。息ができないほどの胃の痛みに原稿どころじゃない。休憩室で胃のあたりを抱えてのたうち回ったんだわ。

原稿用紙
尋常じゃないほどの痛みに襲われて、とても原稿なんて書けない(Ph/photoAC)
写真9枚

担当編集者は「大丈夫? ムリしないでね」と様子を見に来たけれど、その顔が時間がたつにつれて「どうでもいいから早く原稿書けよ」に変わってきた。ま、その変わりようがわかるってことは、それなりに回復してきた証拠よ。結果、夜が白みかけたころに原稿は書き上げて、その足で病院に駆け込んだの。

結果、この激痛が私を救ったんだよね。そうとわかるのはずっと後のことでね。胃の入り口のところは噴門部っていうんだけど、ここに出来た潰瘍の痛さといったら、私が体験した痛みの最大級、前歯の虫歯の次にくるね。いや、前歯の虫歯は脳髄が痛くなったんだけど、胃潰瘍の痛みは全身の力を奪うんだわ。頭から脂汗が流れ、足といい、手といい、自分が自分でなくなる感じ。

オバ記者
胃潰瘍の痛みは言葉にならない
写真9枚

そうなると家の近くの総合病院に這うようにして駆け込んで、おきまりの診察のあと、胃カメラの予約をとって痛みを抑える薬を処方されるわけ。この薬を一錠口に入れると、あら、不思議。15分後には、「胃潰瘍? 何ですか、それは」と言いたくなるほどきれいさっぱり消える。

激痛→病院→胃カメラ→薬…しばらくして激痛

「胃潰瘍になる原因は、まあ、ストレスですね。ストレスのない生活がムリなら、手術して患部を取る方法もありますが、そこまで重症ではないので様子を見ましょう」という医者のこの言葉、当時10年間で何回聞いたことか。

激痛。病院に行く。胃カメラ検査。結果を聞きに行く。「様子をみましょう」と言われ処方された薬を飲む。ケロリ。胃潰瘍患者であることを忘れる。薬が切れても病院に行かずお酒にギャンブル、ときどき仕事で徹夜。激痛。これを何回転したんだ、私。

激痛のきっかけは決まっているの。ビールとコーヒーよ。このふたつの飲み物がヤバかったの。悪くすると1、2時間後には痛みでのたうち回る。なら、飲まなきゃいいけど、2回に1回はスルーなのよ。世の中はバブル全盛期。私個人はギャンブル依存症が始まったばかり。おまけに見栄っ張りの私は、人に胃潰瘍のことは知られたくない。

ビール
激痛のきっかけはビールかコーヒー。わかってるのにやめられなかった(Ph/photoAC)
写真9枚

で、くいッと飲む。うまいっ! さぁ、どっちだ。痛くなるか、ならないか。もう、もし今の私があの頃の私に会ったら、単細胞の頭を張り倒していたわよ。

「胃潰瘍の原因はストレスだって聞いているでしょ? 全然、違うんだよ。なんとかという菌が原因だという学説が外国で発表されて、今、世界の医学界で話題になっているんだって」

意外なことを私の耳に入れたのは、かかりつけの歯科医でね。結果的にそれは大正解。その菌はヘリコバクター・ピロリ菌で、5歳までに飲んだ井戸水の中にその菌がいると胃潰瘍になるリスクが爆上がりする。ピロリ菌検査をして陽性なら、1週間、抗生物質などの薬を飲むと大半の場合は除菌に成功する、というのが今の常識なんだよね。私も42歳のときに除菌してから胃潰瘍の痛みからは解放された。

医者とはいえ、人の体のことを全部わかっているわけではない

この常識が、5年前に59歳で亡くなった年子の弟と、その8か月後に亡くなった義父に届かなかったんだよね。ふたりともピッタリ同じ場所にできた胃がんが原因で亡くなったんだけど、2人とも胃潰瘍になったのが、まったく痛みを感じないところだったの。あの痛みがあれば、ふたりとも病院に行ったはずでそうしたら除菌もしたって。

オバ記者
後ろに写っているのが義父
写真9枚

そんなことがあって思うのは、「痛みは悪いことばかりじゃない」ということと、「医者とはいえ、人の体のことを全部わかっているわけではない」ということ。

除菌がまだ保険診療ができなかったときに、ある病院の若い医師に、「胃潰瘍はピロリ菌が原因という学説をどう思いますか?」と聞いたらね。「そんなこと、ぼくに聞かれたってわかるわけないでしょッ」とキレられた。

その時はなんて医師だと怒ったけれど、今にして思えば、お上が決めたことをキチンとするのが仕事の医師にそんなことを聞いた私が悪かったと思う。

オバ記者
医者頼みではなく自分で調べることも大切
写真9枚

とはいえ、自分の体は替えがきかないから、医師に全部おまかせしたらダメ。自分で調べられることは調べる。幸いネットには患者と医師、両方の解説や体験談がいっぱいあるから、ほんとうにいい時代になったと思うわ。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
写真9枚

1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

【347】老後は「働いて生活費を稼ぐ」一択 それでも仕事よりも優先する2つのこととは?

【346】医師がやっていた「もの忘れ防止ワザ」で忘れものが減った&思わぬ効果

→オバ記者の過去の連載はコチラ

関連キーワード