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「介護のお金」できょうだいトラブル 母親のお金を管理する弟は「病院代、美容院代…どれだけ世話をしてるか…」、週末に通う姉は「交通費の実費は出して」【実例レポート】 

車いすを押す女性
「介護のお金」を巡るきょうだいトラブルをレポート(Ph/イメージマート)
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ライター歴45年を迎えたベテラン、オバ記者こと野原広子(66歳)。一昨年、茨城の実家で母親を介護し、最終的には病院で看取った。そんなオバ記者が「介護のお金」について綴る。母親の介護で、お金を巡ってトラブルになったというきょうだいの実例をレポートする。

* * *

「夏の暑さで弱ってしまった」知人の母親

「介護って実際の大変さだけじゃない。きょうだい間のお金のトラブルのほうで参っちゃった」と言う人がいる。先日、顔見知りのご近所、Eさん(60歳)と久しぶりにカフェでお茶したら、いきなりこんなことを言い出したのよ。

しばらく前から彼女は母親の介護をするために週末湘南のたびに実家に帰っていて、この間は「もしかしたらひとり暮らしをやめて実家に引っ越すかも」と立ち話で聞いたばかりだ。とはいえ、彼女は長く続けている仕事もあるし、20年続いているパートナーもいる。着物を着て通うお稽古事もしている。前期高齢者に足を突っ込んでいる私にとって、花も実もあるご近所の彼女はすごく心強い存在だったのよね。近くに居てくれなくちゃ困るわよ。

カフェイメージ
久々会ったEさんから「母親の介護で実家に引っ越すかもしれない」と聞く(Ph/イメージマート)
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そう言うと、「実家でひとり暮らしをしていた母親がこの夏の暑さでみるみる弱ってしまったのよ。今は自転車で10分くらいのところに住んでいる弟(55歳)が毎日、お弁当を届けているけれど、お風呂に入ったり、日常的な用事は私が週末帰って、まとめてやっていたわけ。でも、それも私の体力的にも限界かなと」。

母親の近所に住む弟が貯金通帳を管理

「で、Eさんの交通費は誰が出していたの? お母さんは自分でお金の管理をしているの?」と聞いたことから話が長くなった。簡単に事情を話すと、E子さんは3年前に父親が亡くなった。そのときすっかり気落ちした母親は近所に住む弟に貯金通帳を全部預けたのだそう。「私はあとからそれを知ったけれど、それで母が安心できるならいいかもと思ったの。まさかそのことがトラブルのタネになるとは思わなかったもの」。

貯金通帳
知らない間に母親の貯金通帳が弟の手に渡っていた(Ph/イメージマート)
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Eさんによると、週末のたびにEさんが実家へ帰るようになって約1年。そのときの交通費はもちろん、実家に滞在している間にかかる生活費も、弟は出す素振りがない。何度目か、まとめて紙パンツを買ったときにレシートを渡したら「これ、何?」と言われた。「ママの貯金から出してよ」と言うと、ものすごくイヤな顔をしながら、きっちりレシート通りのお金をくれたんだって。

生まれて初めての大金を手にした弟

「弟は絵にかいたような遊び人の湘南ボーイ。バツ2で、今はずいぶん年下の人と同棲している。とはいえ、年が離れているから子供のころに一緒に遊んだ覚えもないし、大人になってからは私も長く海外で暮らしていたから、めったに会わなかったのよね」

だから今回、母親の介護で顔を合わせる機会が増えて、知ってビックリということも多かったんだって。たとえばものすごいケチだったとか、奥さんが変わっていたとか。それに大手証券会社に勤務していたはずなのに出勤しているそぶりがない。E子さんが「リモートなの?」と聞いたら、「まあ、そんなところだ」とはぐらかした。

男性がソファに座ってテレビを見ているイメージ
会う機会が増えてから弟の知らない部分がどんどん浮き彫りに(Ph/イメージマート)
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父親が亡くなった直後、会社が退職金を上乗せしてくれるって言うから早期退職したとあとでわかった。そのときの退職金に加えて、母親の貯金も手にした。「生まれて初めて大金を持っておかしくなったのよね。しかも退職してヒマ。投資して稼いでいると言っていたけど、私には交通費も実家での食費も払わない」。

そんなこんなが重なって、先日、とうとう大喧嘩になった。

「弟に東京を引き払って帰ってこようと思うと言うと、『家賃からいらなくなるもんね。生活、楽になるんじゃない?』といきなりお金の話。カチンときたから『これまでの交通費をよこせとは言わないけれど、これからは母親にかかる実費は全額、ちょうだいね』と言ったら『姉貴、それはないよ』って。『母親から預かったお金があるだろうっていうけど、毎日、お弁当を運んでいるオレの身にもなってくれよ』って。『私が実家に住んだらお弁当代はいらなくなるんだし』と言うと、『そうだけど、病院に行くとき誰が車を出すんだよ。2か月に一度の美容院だってオレが送り迎えするしかないんだぜ』って」。

「ママからお金を取ろうっていうのかよ」

ああいえばこういう。弟は自分がどれだけ母親の世話をしてきたかを強調して、だから母親のお金は俺が自由にして当然だと言う。そんなやり取りのあと、E子さんはついにキレた。

男女の喧嘩イメージ
E子さんが正当な請求をしてもびた一文も支払わない弟(Ph/photoAC)
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「『うちのヤツだってこれまで何日も仕事を休んで母親の買い物したりしたんだぜ。その時は日当くらい出さないわけにはいかないだろう』と言うから、『私の日当はどうなの!!』と怒鳴ったら、『何言ってんだよ、姉貴は実子だろう。ママからお金を取ろうっていうのかよ』と言ったそうな。『じゃあ、アンタはどうなのよ』と言うと『オレは弁当代とかほとんどが実費だよ』と。『私の交通費は実費じゃないの?』って、まあ、こんなみっともない話よ」とE子さんは、ふぅ~と大きなため息をついたかと思えば、キッと私を見据えたの。

「頭にきたのはそれだけじゃない。ふと、庭を見たら白いアルフォードが目に入ったという。「買ったの?と聞いたら『ああ、あれはママの乗り降りが楽なんだよ』ってしどろもどろ。新車で600万円。車道楽の弟はずっとアルファロメオに乗ってきたはずだ。『自分の車は?』と聞いたら、『あるよ』だって。

女性が電話している後ろ姿
とうぶん実家には帰らず、母親とは電話で話すだけにしたとE子さん(Ph/photoAC)
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母親が弟にいくら渡したか、正確にはわからないけれど、父親が残したお金と合わせて4000万円はあったと思う。今は父親の遺族年金で生活ができるけれど施設に入れるお金があるのかどうか」

そんなわけでE子さんは実家に帰らず東京に残ることにした。先週の週末も実家に帰っていない。「母親のことは気になるからしょっちゅう電話で話しているけど、とうぶんは弟と彼女で好きにやればって感じ。放っておくわ」だって。

◆ライター・オバ記者(野原広子)

オバ記者イラスト
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1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。昨年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑 で、やせたの?』を出版。

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