
“天気が悪いと頭が痛い、体が重い、やる気も出ない……、なんとかしたいけど、天気が相手だと、防ぎようがない”──いいえ、そんなことはありません。天気予報があるように天気による体調不良も「予報」できます。予報ができれば、それに合わせて準備も対処もできます。そもそもどんな天気にもふりまわされない体を作ることもできます。気象予報士の小越久美さんと自律神経の名医である小林弘幸さんの共著『天気に負けないカラダ大全』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けします。
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悪天候で体調不良になる「気象病」
「夕立やゲリラ豪雨のように、天気が急変して大雨が降るときは、雨が降り出すよりも前のタイミングで、頭が“ズキン”と痛みます」
「空がどんよりとくもっている日は、頭がボーッとしたり、耳に水が入ったようにぼわんとしたりして、会話もままなりません」
「梅雨時の体調はサイアク! 気分まで落ち込んでしまって、梅雨が明けても浮上するのに時間がかかります」

私が気象予報士の資格をとって、かれこれ20年以上。資格を取得した当時は、気象予報士という資格に関して興味を持たれる方が多かったと記憶していますが、最近では、冒頭に挙げたような天気と体調に関する質問をされる方がとても増えました。
悪天候の日にSNSをチェックすると、「ゲリラ豪雨 頭痛」などのキーワードで、ものすごい数の投稿が確認できます。世界的に平均気温は上昇傾向にあり、異常気象が頻発する現代においては、天気が体調にもたらす影響が大きくなり無視できなくなっているという見方も可能だと思います。
ここ数年で、「気象病」という言葉も、世の中にすっかり定着しました。天気が体や心にもたらす不調は数えきれないほどありますが、それら総称して「気象病」と呼んでいます。
気象病の主な症状には、頭痛(片頭痛・緊張型頭痛)、肩こり、首こり、関節痛、古傷の痛み、めまい、倦怠感、気分の落ち込みなどがあります。気象病の中でも、特定の季節に発症する花粉症やインフルエンザなどは「季節病」と呼ばれることもあります。
気象病や季節病について学ぶ学問を「生気象学」といい、私もこれを学びました。そのきっかけとなったのは、ある女性のひと言でした。
気象病で悩む「低気圧女子」たち
「天気という自然が相手だと、体の具合が悪くなるとわかっていても防ぎようがないですよね」
そう話す彼女は、典型的な「低気圧女子」。
低気圧女子というのは、私のつくった造語です。
天気による不調は、そのほとんどが低気圧によるもの。さらに、気象病で悩むのは20~40代の女性に圧倒的に多いことから、低気圧女子と名づけました。

低気圧女子である彼女は、沖縄の南の海上で台風が発生したころからジワリと頭が重だるくなってきて、台風接近とともに片頭痛はひどくなり、気分も落ち込んでしまう。低気圧の影響をもろに受けてしまうことは体感としてわかっているけれど、台風の発生するタイミングなど予想できるわけもなく、また、台風が発生したあともその大きさや進路は予測不可能。よって、なんの対策も立てられないというのが彼女の悩みの種でした。
たしかに、台風の進路などを正確に言い当てることは気象予報士でも困難です。完璧には無理だとしても、何かしら対策は立てられるのではないだろうか。
そんな興味から、私の生気象学の学びはスタートしていきました。
天気予報よりも気象病の情報が必要とされている?
四季があり梅雨もある日本の気象では、天気予報よりもむしろ気象病に関連する情報を必要としている人がいるのでは? そんな思いのもと、当時はお天気キャスターとしてテレビの仕事をしながら、「健康気象アドバイザー」と「データ解析士」の資格を取得。多方面から「生気象学」について学びを深めていきました。
気象病についてさまざまな文献に触れたり、生気象学の研究会に顔を出したりすると、研究者のほとんどが男性であり、発表する内容も熱中症、心筋梗塞、脳梗塞など、高齢者を中心とした症状を扱うものばかりでした。
しかし、気象病で悩むのは20~40代の女性が中心。そして、私も立派な(?)低気圧女子。同志に向けて役立つ情報を発信したいという思いは、私が長年温めてきたもので、本書でようやくその夢を叶えることができました。
女性の生理周期と天気の関係
ここで少し、私の話をさせてください。
生気象学に出会った20代の頃、私の目下の悩みは生理不順でした。
10代の頃はほとんど生理がなく、毎月吐き気を伴うホルモン剤を飲んだりしながら、どうにか生理を起こしているような状況でした。

20代になり、結婚や出産を意識し始めると、生理不順は大きな悩みへと変わっていきました。いくつも通院先を変え、ようやく自発的に生理が来るようになりました。最初は年に数回、しだいに回数が増えていきましたが、毎月1回というわけではありませんでした。
いよいよ妊活も考える30代。生理不順の悩みはますます大きくなっていきました。と同時に、なぜ生理が遅れたり早まったりするのだろうと、疑問が生まれるようになりました。
気象予報士というのは、気象データを分析してこれからの天気の予想を立てるのが仕事。データを集めて分析するという仕事は私の性に合っていて、プライベートでも何か気になることがあればまずデータを集めるというのが、いつもの私のやり方です。
生理日管理アプリで調査
妊活を始めたときも、まずは、自分の体のデータを集めることから始めました。
まずは、基本中の基本、生理日管理アプリを使って生理日を記録し、排卵日の予測なども参考にするようになりました。
半年ほど記録をとってみると、周期が安定していないことがわかりました。28日周期を基本としたときに、4~5日遅れた月が数回、最長では2週間ほど遅れた月もありました。
でも、生理が数日遅れることがあるという事実はわかったけれど、なぜ遅れるのかという理由がさっぱりわかりません。
あれこれ思いを巡らせる中で、ふと生理周期と天気の関係について調べてみようと思い立ったのです。
きっかけは、当時勤務していた気象予報の会社で、桜の開花予想の開発を担当したことにありました。
桜の開花予想のように生理日も予想できたら…
桜の開花は春の始まりが暖かいと早まり、寒いと遅れます。
開花宣言の基準となっている東京・靖国神社の標本木の場合は、2月1日からの気温が合計して600度を超えると桜が開花する、ともいわれています。

「桜の開花予想のように、私の生理日も予想できたらいいのに……」という思いがふと頭をよぎり、自分がつくった桜の開花予想の式を改修して、これまで記録してきた生理周期のデータを入れたところ、予想以上の結果が数字となって表れました。
雨がひと月に100ミリ降ると、生理が3日遅れる。
これはあくまでも私の場合ですが、雨が生理の遅れに関係している可能性が見えたのです。
さらにデータを見てみると、梅雨や台風シーズンなど雨が多いほど私の生理は遅れ、涼しくなってきた秋・冬には気温が下がるほど生理が早まることがわかりました。
このような結果が出たら、誰だって、さらに調べたくなりますよね。私は知人など複数の女性に声をかけ、みんな同じ条件のもとでデータを解析してみることにしました。
天気や季節との相性は千差万別
そこでわかったことは、天気や季節との相性は千差万別であるということ。
私のように雨の影響を受けやすい人、雨よりも春や秋など短い周期で気圧の変化が繰り返し起こることが生理に影響している人、天気以上にストレスによる影響を強く受けている人。本当に人それぞれです。
自分の傾向がわかると、それだけで心の安定につながります。
それまでは、アプリが示す生理予想日を過ぎると、「妊娠かな? それとも体調不良かな」と不安になったものですが、データを解析して以降は、「今月は雨が多かったから生理が遅れるだろうな」という予測が立てられるため、無駄にハラハラすることがなくなりました。
最終的には、アプリが示す生理予想日よりも、降水量や気温に基づいた独自の計算式で予測したほうがかなり高い確率で次の生理開始日を予測できるまでになりました。
そして、とうとう、待望の日がやってきたのです。気温が下がり、雨が少なくなってきた秋、自分の予測では遅れずに生理がくるはずだったのに、生理がきませんでした。これまで、自分の予測が一週間以上外れたことはありません。居ても立ってもいられず、すぐに産婦人科へと足を運びました。そして、妊娠5週目という超初期に、妊娠を確認することができたのです。
天気による不調は自律神経の乱れが原因
それにしても、なぜ天気によって生理周期が変わったりするのでしょうか。生気象学を学び始めた私は、「自律神経」というキーワードに出会います。天気による不調は自律神経の乱れが原因というのです。天気の変化によって自律神経が乱れることで、ホルモンバランスに影響し、それが生理周期の乱れに繋がっているのではないだろうか。

そのヒントになる出来事が起きたのは出産後です。
私が低気圧女子であるゆえんは、古傷の痛みです。「雨が降ると古傷が痛む」と昔から言われるように、古傷は代表的な気象病です。日常生活にはまったく支障がないのですが、梅雨どきなど雨のシーズンになると、むかし陸上で傷めた右足の付け根がズキズキと痛み、ひどいときには歩くのが辛いほどの痛みになってしまうのです。
でも、痛みが軽いときもあれば重いときもあるのはなぜなのかは、長い間分かりませんでした。
妊娠中はまったく症状が出なかった
その古傷の痛みですが、なんと妊娠中はまったく症状が出ることがありませんでした。体調も安定していて、自分が低気圧女子であるということすら、すっかり忘れていたくらいです。
ところが、古傷のことなどすっかり忘れ、初めての育児に夢中になっていたある雨の日、例のズキズキが復活したのです。それは、歩くのもやっとというほど強い痛みで、整形外科にでもかかろうかと考えていたのですが、翌日になってあっけなく理由が判明しました。生理が再開したのです。
つまり、私の古傷は生理前後に雨の日が重なると、悪化しているということに気が付いたのでした。

女性は生理周期によって自律神経やホルモンのバランスが変化します。痛みに過敏になっている時期に天気によるストレスがかかると、古傷などの気象病の症状が出やすくなるのではないでしょうか。また、自律神経とホルモンバランスが相互に影響し合っているのであれば、天気の変化によって生理周期が変化しても不思議ではありません。
「天気は自然現象だから、気象病はしかたがない」とあきらめてしまっているなら、それは間違い!
天気予報の精度は年々上がってきているし、自律神経も自分の心がけ次第でトータルパワーを上げていけることが自律神経研究の第一人者である小林弘幸先生のおかげで理解できました。
小林先生との共著である『天気に負けないカラダ大全』を読めば、人によっては低気圧女子を完全に卒業できるでしょうし、重度の低気圧女子から片足を抜くくらいは多くの人が成し遂げられるのではないかと思っています。
天気にふりまわされない体を一緒に手に入れましょう。
◆教えてくれたのは:気象予報士・小越久美さん

1978年、岐阜県下呂市生まれ。気象予報士、健康気象アドバイザー。筑波大学第一学群自然学類地球科学専攻(気候学・気象学分野)卒業。2004年から2013年まで日本テレビ「日テレNEWS24」にて気象キャスターを務める。その傍ら、民間の気象予報会社(株)ライフビジネスウェザーに所属し、健康気象アドバイザー・データ解析士の資格を取得。スーパーマーケットの売上予測の開発にも携わる。現在は(一財)日本気象協会に所属し、気象データとAIを活用した商品の需要予測事業に携わり、アパレルや飲料メーカーなどへのコンサルティングを行う。著書『かき氷前線予報します~お天気お姉さんのマーケティング~』(経済法令研究会)。