健康・医療

“病気にならない体”のために「冷え」「夜ふかし」の改善が重要と医師が語る理由

冷えている女性
「冷え」と「夜ふかし」について医師が解説(Ph/photoAC)
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病気を治すためには自分に合った治療が大切だが、「病気になった原因に気づき、正すこと」がもっと大切だと話すのは、『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(アスコム)の著者で医師の川嶋朗さん。病気になった原因に自身が気づくことの重要性と、改善すべき習慣について教えてもらった。

病気と闘うために必要なのは「原因」を正すこと

病気と闘うために大切なことは、病気をつくってしまった原因を正すこと。原因が正されなければ、病気の治療がうまく行ったとしても再発してしまったり、なかなか治療が進まなかったりということにつながる。一方で、原因が改善されれば、症状が落ち着いたり、消えてなくなったりする可能性がある。

「医師から『もう治りません』と言われたとしても、『なぜ病気になったのか』がわかれば、その原因を取り除いていくことで、体がもともと持っている『生きる力』が患者さんを後押ししてくれるような治療法を見つけることができます」(川嶋さん・以下同)

病気は自分自身へのメッセージ

病気は、無理や無茶をしてきた自分自身に対して体が発するメッセージであると川嶋さんは話す。そして、そのことを患者に知ってもらい、そのうえで患者自身が改善していかなければ治療の効果は期待できない。

考え事をする女性
まずは病気の原因に自分で気が付くことから(Ph/photoAC)
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「ですから、私の診療法は、病気の原因となる問題を患者さん自身に気づいてもらうところからはじまります」

治療には生活習慣の改善が必要

患者は一人一人置かれた状況が異なるため、その人に適した治療を行うためにはその人のことを知る必要がある。

「私は『病気の原因を正さなかったら生きられないですよ』と、ハッキリ言うことにしています。ご本人の気持ちが大切なのです。まずは、自分を見つめ直し、生活習慣を改善した上で治療を施さなければ、根本的な病気の治療にはならないのです」

川嶋さんのクリニックでは、初診の患者さんの診察は1時間以上かけ、生い立ちから今の家庭環境、悩み、そのとらえ方などを聞き出し、治療法を見極めているという。そのように、自分自身の問題が何か掘り下げて考えてみよう。問題の原因になっているものがわかれば、体からのメッセージに対応することもできるのだ。

「冷え」を見過ごさない

川嶋さんが改善すべきと話すものの1つが「冷え」。「冷え」とは、実際に低体温であること、あるいは手足や腰などが冷たく感じる症状・体質のこと。西洋医学の検査では「冷え」はなかなか数値に現れないため、治療の対象とならず、それに悩む人も多くいるが、漢方医学では病気を診るのと併せてその人の体質や傾向を理解し、その延長線上に病気が存在すると考えられている。

「体を構成する要素を気・血・水の3つでとらえ、『冷え』は気が足りない状態(気虚)、血が足りない状態(けっきょ)、血が滞っている状態(おけつ)として理解され、『冷え』が高じると、病気になるといわれています」

冷えは万病を引き起こす

「冷え」が問題視されるのは、生命活動の維持に必要な酵素の働きを低下させるためだ。低体温ではたんぱく質の合成酵素が働かず、必要な物質がつくれない。脳内伝達物質や各種ホルモンができなければ、精神病やホルモン異常の原因となったり、遺伝子の修復酵素が働かなければ、がんやアルツハイマー病が誘発されたりする可能性もある。

「冷えは代謝障害、免疫不全、損傷治癒不全などをもたらすのです。そのため、冷えは万病のもとと言っても過言ではありません」

冷えの原因はストレス

万病のもととなる「冷え」ですが、その原因のひとつはストレスなのだそう。ストレスを受けると自律神経の交感神経が優位になり、交感神経の末端からノルアドレナリンが、副腎皮質からはステロイドホルモンが分泌され、血小板が集まって血液が固まるのを促進する。その結果、血液が流れにくくなり、熱を運べなくなるため、冷えが発生する。

「実際に病気になっている人は冷えているために、酵素反応が低下して代謝が落ち、血液の流れが悪くなり、免疫力も低下しています。それが心にまで影響が及ぶと、再び体の異常をもたらすという悪循環に陥ってしまいます」

冷え対策には血流の多いところを温める

その悪循環を断ち切るための最も手軽な方法が体を温めること。効果を高めるためには、血流の多いところ温めることが大切。血液がたくさん集まるのは筋肉であり、体の部位であればお腹、腰、お尻、太腿、二の腕だ。お腹と腰は特に重要であり、なかでもおへそ周りは血液のほとんどが経由しているポイントだという。

お腹をおさえる女性
おへそ周りは特に重要な温めポイント(Ph/photoAC)
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「また、下半身の要衝が太腿で、お腹から腰、太腿にかけて、全身の筋肉の7割が集中しています。ここを温めればポカポカになります」

長生きしたいなら早く寝る?

もう一つのポイントは「夜ふかし」を改善することです。中国の自然哲学では、自然界のことを陰と陽の相反する要素で考え、陰と陽が補い合ってバランスをとっていると考える。漢方医学は中国の自然哲学の考え方を応用したものであり、これを1日に置き換えると、22時から2時に「陰」のピークを迎え、この時間帯に眠ることが体調を整え、傷んだ体を治すという経験則的な考えになっているという。

22時に就寝する女性
長生きのためには夜更かしはNG(ph/photoAC)
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「その原則からいくと、病気の人は22時までに、健康な人でも0時までには寝ることがよいとされているのです。この理論は、漢方医学だけでなく、解剖生理学的に見ても理にかなった考えです」

眠っている間に酵素が体を修復

睡眠中は体のなかで酵素が組織を修復している。22時ごろから酵素が体のメンテナンスに入り、午前2時頃に、病気の原因となる活性酸素を中和してくれる抗酸化物質であるメラトニンの分泌が最も活発になる。

「同じ長さの睡眠時間だとしても、たとえば22時から午前2時までの4時間と、午前3時から7時までの4時間とでは、前者のほうが体によい睡眠がとれるということになります」

朝型生活は時間を有効活用できる

健康以外の観点でも、夜ふかしをしない朝型生活には、時間を効率的に使えるというメリットがある。川嶋さんは基本的に午前5時に起床し、そこから子どもたちが起きてくるまでの時間を執筆の時間に当てているそう。朝の時間は家族の起床や出社などタイムリミットがあり、夜のほうが時間を気にせず執筆がしやすそうだが、一方でその生活が際限なく続きやすく、体によくないためだ。

「私はタイムリミットというデメリットを逆に利用して、執筆の仕事はここからここまでという区切りが守れるように朝早く起きてやることにしているのです」

仕事に限らず、趣味など、つい長時間熱中して夜更かしにつながるような習慣がある人は、早起きして朝の時間を充てるなど、タイムリミットを有効に活用しよう。

◆教えてくれたのは:医師・川嶋朗さん

白いスーツを着た男性
医師の川嶋朗さん
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かわしま・あきら。神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授。統合医療SDMクリニック院長。北海道大学医学部卒業後、東京女子医科大学入局。ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院などを経て2022年から現職。漢方などの代替、伝統医療を取り入れ、西洋近代医学と統合した医療を担う。著書に『どうせ一度きりの人生だから 医師が教える後悔しない人生をおくるコツ』(アスコム)など。https://drs-net.com/profile/

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