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《アメリカ産食品の「食品衛生法違反」事例》違反件数ダントツは生鮮アーモンド、カビ毒の「アフラトキシン」が検出 今後の注目は輸入量増の可能性のある「米」の安全性 

市場に増えていくアメリカ産食品にはリスクが潜んでいる(写真/PIXTA)
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トランプ米大統領が拳を振り上げる関税政策で、世界経済は大混乱に陥っている。そこでいま、注目が集まるのが「アメリカ産食品」だ。5月1日の日米閣僚会議では、日本に農作物の市場開放を要求する米政府に対して、赤沢亮正経済再生担当相がトウモロコシや大豆の輸入拡大を提案した。しかし、そんなアメリカ産食品にはリスクが潜んでいるという──。【全3回の第2回。第1回から読む

注目高まるうるち精米でもカビの発生や異臭、腐敗などの違反事例

アメリカ産食品の上陸でより懸念されるのは「安全性」の問題にほかならない。食の安全に詳しいジャーナリストの小倉正行さんが指摘する。

「これまで一部の中国産や韓国産食品の衛生問題はメディアなどで大きく取り上げられてきましたが、アメリカ産食品の安全性はそれほど検証されてこなかった。でも実態を見れば、アメリカ産食品にもさまざまなリスクがあることがわかります」

厚労省の「輸入食品監視統計(2023年度)」によると、輸入に際して日本の食品衛生法に違反した国別の事例は、アメリカはトップの中国(206件・27%)に次ぐ第2位(100件・13.1%)だった。

具体的にどんなアメリカ産食品だったのか。厚労省が公表する「輸入食品等の食品衛生法違反事例」の過去5年分(2020年4月〜2025年3月末)を確認すると、違反事例は60品目、406件に達した。

なかでも違反件数122件とダントツだったのが生鮮アーモンド。主な違反内容はカビ毒の「アフラトキシン」の検出だ。

食品問題に詳しい消費者問題研究所代表の垣田達哉さんが指摘する。

「アフラトキシンは土壌中で産生されるカビ毒の一種で、アーモンドなどのナッツ類に多く含まれます。国際がん研究機関(IARC)はアフラトキシンを発がん性評価の最高ランクに位置づけており、“天然最強の発がん性物質”と呼ばれるほど。

高温多湿で産生されやすく、熱に強いため加熱しても毒性が除去されない。肉眼でも確認できないので見逃してしまうケースが多く、危険視されています」

アーモンドなどナッツ類は栄養価が高く、近年は降圧効果や美容効果が期待されると食生活に取り入れる人が増えている。

アメリカ産の生鮮アーモンドはカビ毒「アフラトキシン」が検出されている(写真/PIXTA)
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「日本国内に流通する生鮮アーモンドの98%がアメリカ産とされます。素焼きアーモンドやミックスナッツとして販売されますが、健康ブームの高まりでアメリカ産のアーモンドミルクの需要も増えている。健康志向で毎日食べる人は特に注意すべきです」(小倉さん・以下同)

日本政府が輸入拡大を視野に入れるトウモロコシも、アフラトキシンが検出される事例が多かった。ゆでたり焼いたりしてそのまま食べるためではなく、多くは加工食品に利用される。

「缶詰やコーンポタージュといったスープ類、粉末にしてコーンスターチとして活用される例もあります。スナック菓子や揚げ物用の衣の材料、食品添加物やビールの発酵原料など、幅広く使われます」

垣田さんが注意を呼びかけるのは「米」だ。トランプ関税の日米交渉次第で、輸入米が増える可能性がある。

アメリカ産の米もカビの発生や異臭、腐敗などの違反事例があった(写真/PIXTA)
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「アメリカから日本に船で長期間輸送する最中にカビ毒のアフラトキシンが発生するリスクがあります。主食の米は消費量が多いので、健康被害の拡大が心配です」(垣田さん・以下同)

アフラトキシン付着のリスクだけではない。過去5年間では、うるち精米でもカビの発生や異臭、腐敗などの違反事例が37件あった。

「昨今の米不足の影響でアメリカ産のうるち精米が注目され、外食チェーン店で使われたり、おにぎり、清酒などに使用されるケースも散見されます」

米不足や価格高騰を理由に、“米離れ”が加速し、パンやパスタなど小麦製品を主食に選ぶ傾向も見られるが、そこにも罠が潜む。およそ9割を輸入に頼る小麦は、カナダに次いで約40%をアメリカから輸入している。カビの発生や異臭、腐敗など過去5年間で43件の違反事例があった。

食品表示に「小麦(国内製造)」と記してある場合も、これは“国産小麦を使用している”というわけではない。あくまでも「国内で製粉加工された」というだけで、小麦の産地は国産とは限らないのだ。

発がんリスクのある「ホルモン剤」が使われる牛肉

食肉製品では、冷凍の豚肉(加熱後包装)から大腸菌「E.coli」が検出される違反があった。

「E.coliはO-157など糞便系の大腸菌の総称で、食中毒を引き起こして死に至るケースもあります。一般的にアメリカ産の豚肉はハムやベーコン、ハンバーグなどで使用され、加熱調理が不充分な豚ひき肉製品などから大腸菌が検出されます」

アメリカ産食肉のリスクは大腸菌だけではない。東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんは「ホルモン剤」に警鐘を鳴らす。

「ホルモン剤は牛の成長を促進させる目的で使用する化学物質で、女性ホルモンのエストロゲンが代表的です。発がん性が指摘されるため日本国内では使用が認められていませんが、輸入肉は国内に入れる際の検査が“ザル同然”で見逃している状態です。

また、ホルスタインに注射すれば乳量が3割増えるというホルモン剤『ボバインソマトトロピン』も発がん性リスクが指摘されており国内では使用が認められませんが、ホルモン牛肉と同様に検査を素通りして輸入されている可能性があります」(鈴木さん・以下同)

アメリカで飼育される牛や豚にはホルモン剤が使用されている(時事通信フォト)
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牛肉だけでなくアメリカ産豚肉にも警戒が必要だ。

「アメリカ産の豚肉には、興奮剤・成長促進剤の『ラクトパミン』を使用したものがあります。これも人体への有害な影響が指摘され、ラクトパミンに汚染された豚肉を食べて中毒症状が出た例が報告されています。ゆえにEUやロシア、中国では軒並み輸入禁止ですが、日本は国内での使用は禁止にもかかわらず、輸入品はほぼノーマークで入ってきます。恐ろしいことに、ホルモン剤やラクトパミンは食品表示が義務づけられていないため、使用の有無が消費者には判断できないのです」

汚染された餌から人間へとリスクが伝達されるケースも想定される。小倉さんが指摘するのは、毒カビ・アフラトキシンに汚染されたトウモロコシが乳牛の餌となるパターンだ。

「日本に輸入する際、アフラトキシン汚染が見つかったトウモロコシは餌に回り、もともと餌用のトウモロコシはノーチェックで検査を通過します。

汚染されたトウモロコシを餌として食した牛の肝臓で代謝されたアフラトキシンは血液に流れ込み、牛乳として外に出されます。代謝により、“天然最強の発がん性物質”の毒性は10分の1程度に薄まるとされますが、それでも人間がその汚染牛乳を飲んだら健康被害が生じる可能性があります」(小倉さん)

アメリカの顔色を見て「規制緩和」を繰り返してきた歴史

アメリカ産食品の問題の背景にあるのが、日米の歪な力関係である。過去に日本はアメリカの顔色を見て、国民の健康を考慮しない「規制緩和」を繰り返してきたという。

その発端は1975年にさかのぼる。アメリカ産のレモンから膀胱がんの原因物質とされた際に、日本では使用禁止の防カビ剤「オルトフェニルフェノール」や「チアベンダゾール」が検出された。

当初、日本はレモンを海洋投棄して、アメリカにこれらの防カビ剤の使用禁止を求めた。

「これにアメリカが激怒して、日本の自動車の輸入を制限すると脅しをかけました。すると日本は『農薬としては禁止だが、収穫後に散布したので食品添加物とみなします』と防カビ剤の規制を緩和してしまった。以降、日本は同様の“規制緩和”をほかのアメリカ産食品にも適用しています」(鈴木さん・以下同)

鈴木さんが特に気がかりなアメリカ産食品は「じゃがいも」と「小麦」だ。

「じゃがいもに使われる強力な農薬『ジフェノコナゾール』には発がん性や神経毒性が指摘されますが、日本はかつてのレモンと同様に農薬を食品添加物とみなすルール変更を行いました。また、小麦に使われる除草剤は発がん性のほか、腸内細菌を殺してさまざまな疾患を誘発する危険性が指摘されています。一部でこの見解は否定されていますが、世界各国で規制が強化されるなか、日本は残留基準値を緩和しました。残念ながら、日本人の命の基準値はアメリカへの忖度で決まるのです」

アメリカ産「食べると危険」な食品リスト
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アメリカ産「食べると危険」な食品リスト
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(第3回に続く。第1回から読む

※女性セブン2025年6月19日号

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