
サンダルを履くと、目線がいく素足の爪。割れていたり白くなっていたり「年だなぁ…」とがっかりすることもあるだろう。ただ、それを「生活に支障がないから」と放置すると、ひざ痛や腰痛、歩行困難になるケースもあるという。自分の足で一生歩くためには、実は足の爪こそ重要なカギを握っています。
足の爪は加齢とともに乾燥して硬く、厚くなる傾向に
夏は素足でいる時間が長く、「足の爪のトラブルに気づきやすいため、ケアをするのに最適です」とフットケア専門医の高山かおるさんは言う。
「手の爪はよく見ていても、足の爪の状態を把握している人は多くありません。
小さな足の爪には『指先を保護する』『指の力を増す』『指の触覚を増す』『バランスをとる』という4つの役割があります。爪がないと歩くときにつま先に力が入らず、バランスを崩して転倒しやすくなる。足の爪は歩くためにとても重要なのです」(高山さん)
フットケアのスペシャリストの桜井祐子さんは、「足の爪は加齢とともに伸びる速度が遅くなり、乾燥して硬く、厚くなる傾向にあります。いくつになってもきちんとケアすることで健康な爪が保てます」と話す。
さて、あなたの足の爪はどんな状態にあるだろうか? まず下記を見ながら、現状を確認しよう。
自分の足の爪を観察し、以下の症状がないかを確認してみよう。
【1】爪が厚くなってきた

【2】爪の一部に白や緑に変色した箇所がある

【3】小指の爪がつぶれて小さくなった
【4】爪のカーブが強く、Cの形のようになっている

【5】爪が周囲の皮膚に食い込んでいる

【6】爪に縦の線が目立つようになった
【7】爪に横の線が入って凸凹ができている
症状1:肥厚爪
チェックリスト【1】に該当した人は、次のような状態が考えられる。
●爪水虫(爪白癬)に感染している。
●靴や靴下による圧迫で、爪が正常に伸びることができなくなっている。
●外傷や深爪の影響で、爪が重なって生えてきている。
「厚くなった爪の多くは、爪水虫と思われがちですが、実際には肥厚爪のひとつ、『爪甲鉤彎症』であることも多いのです。これは、何らかの外的刺激や外傷の後に、爪が正常に伸びることができず、下から新しい爪が重なるように生えてくるため、厚く硬く変形するもの。圧迫や加齢による乾燥も悪化要因になるため、日常的な観察とケアが大切です」(高山さん・以下同)
症状2:白い爪は爪水虫
【2】に該当する人は、まず爪水虫が疑われる。
「水虫は、白癬菌というカビの一種で、爪の中やその下の皮膚に入り込んで起こります。爪が白っぽく濁っていたり、先端が崩れてもろくなっていたら、爪水虫の可能性が高いですね」
白癬菌は高温多湿な環境を好むため、夏に症状が悪化しやすい。
カンジダ菌という真菌(カビ)の一種に爪が感染して起こる爪カンジダ症も爪水虫のように白くなる。爪が緑色に変色する「グリーンネイル」は、緑膿菌という細菌が爪に感染し増殖することが原因だ。
「爪が白濁していたり、かゆみがなくても皮がむける場合は、皮膚科の受診を」
症状3:小指の爪がつぶれて小さい
【3】に該当する人は、小指の関節が親指側に曲がってしまう「内反小趾」の可能性がある。
「この状態では、小指と、靴や地面がこすれることで、爪が押しつぶされて小さくなったり、外側に向いて生えてきたりします。薬指の下に潜り込むような変形が起こることもあります」
治療が難しいことも多いため、日常生活での工夫が重要。特に靴の選び方がポイントだ(下記参照)。
「足が靴の中で前滑りしないよう、足と靴が一体となって動く感覚を目指しましょう。やわらかくて圧迫の少ない素材を選ぶのも◎」
症状4:巻き爪や陥入爪
「【4】と【5】の症状は、爪が変形する疾患の代表的なもの。爪が内側に巻き込まれた状態が『巻き爪』で、爪の縁が周囲の皮膚に食い込んで炎症を起こした状態が『陥入爪』です」
主な原因は深爪で、短く切りすぎた爪が伸びてきたときに爪が内側に巻き込み、皮膚に食い込みやすくなる。先の細い靴に爪先が強く押されて爪が内側に巻いてしまったり、外反母趾で足の親指が小指側に曲がって爪を圧迫したり、運動不足や浮き指が原因のことも。
「ふだんあまり歩かない人は踏み込みが弱く、足の指が浮いている『浮き指』になっています。指に力が入らず横からの圧力に押されて爪が巻きやすくなります。
症状が軽いうちは、痛みのある爪と皮膚の間にコットンを挟み込んだり、布製の絆創膏などで広げると痛みが緩和できます」
巻き爪に百円玉を当て、同じくらいの角度の場合は、中程度の巻き爪だ。
「症状が進む前に皮膚科を受診してください。爪をやわらかくする薬や、形状記憶合金のクリップを差し込む方法など、切らない矯正治療も確立されています」
症状5:爪の縦線・横線
【6】の「縦線」は加齢や乾燥によって爪が縦にすじ状に割れてくるもので、【7】の「横線」は足先を圧迫するような靴や靴下を履いている場合に起こりやすい。
「これらの多くは軽度なもので、日常のケアで改善が期待できます。爪の切り方に注意し、足と爪を清潔に保ち、保湿する。そして足先を締めつけない靴や靴下を選ぶことが大切です」
【整え術1】爪の正しい切り方・整え方
足の爪を整えることは、見た目の美しさはもちろん、「トラブル防止にもつながる」と桜井さんは言う。
「正しい切り方ができていれば、爪が足指の皮膚の間に埋もれることなく、巻き爪や陥入爪を予防できます。
理想の形はまっすぐに切って、角を少し丸めた『スクエアオフ』です。両端を大きく斜めに切ると角がトゲのようになり、皮膚に突き刺さりやすくなります」
足の爪を切るときの姿勢は、片ひざを立て胸に引き寄せ、爪を上から見るようにすると切りやすい。
「切る爪の長さは、指先にそろえるか、少し長めに。入浴後、爪がやわらかくなったときに行ってください」(桜井さん)
また、爪と皮膚の境(爪溝)をしっかり洗い、爪と皮膚が離れている状態にしてから、足指の皮膚を指で押さえ、爪だけに爪切りの刃が当たるように切るのがおすすめだ。
真横にまっすぐ、角は丸く
スクエアオフ
指先にそろえるか、やや長めに切り、両端の角は少し丸く整える。
避けたい爪の形
【1】バイアスカット

【2】深爪

【1】は両端の角を大きく斜めに切るため、爪が内向きに巻きやすくなる。【2】は指の先端も角も切りすぎているため、爪が皮膚に埋もれてしまう。どちらも巻き爪、陥入爪の原因に。
爪切りは直刃を選ぶ
【1】刃先がカーブしていると爪が丸く切れるので深爪になりやすい。

【2】刃先がまっすぐの直刃のものを選ぼう。ニッパー型も直刃仕上げが〇。

硬い爪は斜めに切り込みを!
厚く硬くなった爪は、まず爪の先端部分に細かく斜めに切り込みを入れて少しずつ切るといい。その後、凸凹しているところを爪やすりで一方向に削って整えて。

爪やすりは一方向にかける
爪のアーチ形に沿って、左右から中央に向け、表面の毛羽のみをとるように爪やすりを一方向にやさしく動かす。次に、上から下にササッとなでて仕上げる。



【整え術2】足指の股も爪の溝も清潔に
毎日お風呂に入っていても、足先まできれいに洗えている人は実は少ない。
「フットケアの基本はとにかく足を清潔にすること。歯をきちんと磨くために歯間ブラシやフロスを使いますよね。足の場合もスポンジでササッとなでるだけでは不充分。指の間、股の部分、爪のまわりを意識して洗いましょう。
爪の横の溝の部分には汚れがたまりやすく、巻き爪があると溝が深くなっているので注意して洗うこと。
爪のまわりに汚れや角質がたまると爪や皮膚を圧迫したり、炎症を引き起こす可能性も」(高山さん)
また、石けんを直接足にこすりつけると皮膚トラブルの原因になる。しっかり泡立ててから洗うこと。毎日入浴するのが難しい場合は、足浴がおすすめだ。
【1】指の間や股に手指を差し込み念入りに洗おう。

【2】毛先が細くやわらかいブラシ(毛先がやわらかい歯ブラシも可)でやさしく洗って。

【3】爪まわりの皮膚や指の股に水分を残さないよう拭きとる。

【整え術3】爪まで保湿で爪育する
足を洗い、皮膚が潤っているうちにかかとや足の指、足裏全体に保湿クリームを塗る。その際、指と爪を1本ずつマッサージすると血液循環がよくなり、爪の色がよくなる。
「保湿クリームで足の指と爪をまんべんなくマッサージするだけで血行促進効果があります。積極的にいい爪を育てたいなら、爪用の美容液をつけて保湿した後、爪用のオイルをつけて『膜を張る』といいですよ。最後に、爪の根元と第一関節の間にある爪母という爪の製造工場を押圧すると、元気な爪が生えてくるようになります」(桜井さん)
1本ずつ、爪先まで円を描くようにマッサージする(外用抗菌剤を使っている場合は、薬がしっかり乾いた後に行う)。

美容液やオイルは、皮膚にも塗り込む。

【整え術4】“大きめ”の靴が爪を圧迫する
合わない靴が足のトラブルの大きな原因になるのはよく知られているが、脱ぎ履きを優先したゆったりすぎる靴も、足と爪のトラブルになる。
「ゆるい靴の中で足が前に動くと爪が圧迫され巻き爪の原因に。面倒でも脱ぐときはひもをほどき、履くときに結び直しましょう」(高山さん)
爪にやさしい靴選びのポイント3

【1】靴ひもやベルトで足の甲に固定でき、【2】先端に0.5~1cmのゆとりがあり、【3】かかとの形が足に合っていること。
ひもをほどいた靴に足を入れ、床でかかとを「トントン」と叩き、かかとの後ろに足を合わせる。

爪先側から順にひもを締めて固定する。靴を履き続ける場合、外出先でひもを一度は締め直そう。

【整え術5】靴下選びで足爪が変わる!?
「爪の乾燥を防ぐのにおすすめは5本指の靴下です。足指が蒸れにくく、保湿性があり、足指が自由に動くので指で地面を踏みしめることができます。5本指ソックスの効果を発揮させるには、指先を余らせず、指の股までしっかり入れること。
また足指はもちろん、足裏のアーチを整える機能を持つソックスもいいですね。70代のお客さんに履き続けてもらったところ、着用から2週間後には爪のカーブが改善。爪水虫の症状がなくなり、1年8か月後には爪が薄く平らになりました。爪育効果も期待できます」(桜井さん)
◆埼玉県済生会川口総合病院皮膚科主任部長・高山かおるさん
足の問題を根本から解決するための装具外来、メディカルフットケアを併設するフットケア外来を開設。「100歳まで自分の足で歩ける社会づくり」を目指す足育研究会代表。
◆フットケアスペシャリスト・桜井祐子さん
足のトラブル専門サロン「PEDI CARE」代表。足のトラブルに対応し、足の形状や生活習慣を考慮した根本的な分析とケアを行っている。足の専門校「SCHOOL OF PEDI」校長。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2025年9月4日号