健康・医療

50代以降、深刻な症状が増加する《肩の痛み》“症状別セルフメソッド“を整形外科医が伝授「症状別への適切な対処が痛みを改善する近道」

50代以降に「肩こり」より深刻な症状が増えていくという
50代以降に「肩こり」より深刻な症状が増えていくという(写真/イメージマート)
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日本の国民病ともいえる、肩の痛み。特に、肩こりに悩む女性は男性の倍以上というデータ(※「令和4年国民生活基礎調査」[厚生労働省]より)もあるが、50代以降に「肩こり」より深刻な症状が増えていくという。「病院に行くほどではないけれど、前から痛みが気になっている」というあなた、まずは自分の肩の状態を把握し、適切なケア方法を学んでいこう。

50代から肩の病気が増える

「レントゲンを撮っても異常がなく、湿布を処方されるだけ」「五十肩はそのうち治ると聞いたけれど、1年経っても痛いまま」―肩の痛みは原因や対策がはっきりせずモヤモヤすることが多い。これまで数百件超の肩治療を行ってきた整形外科医の歌島大輔さんが説明する。

「一般的に、中高年以降の肩の痛みは『肩こり』『五十肩』『腱板断裂』のいずれかであることが多い。それぞれ症状が少しずつ違うので、チェック表(下記参照)で、ある程度あたりをつけることは可能です」

「肩こり」とほかの2つでは、明らかに違いがあるという。

「たとえば肩こりの場合、首や肩甲骨まわりに痛みが出ることが多く、腰痛を伴う場合もあります。

一方、五十肩と腱板断裂は、肩先から上腕あたりが痛みます。この2つは痛みの範囲が似ているため、MRIを撮らないと判定が難しいことが多いです」(歌島さん・以下同)

五十肩と腱板断裂は、どちらも中高年以降に起こる症状だ。

「肩こりは20代から幅広い年代で起こりますが、五十肩は、文字通り40〜50代で発症することが圧倒的に多く、発症のピークは56才というデータもあります(※Reeves, B. The natural history of the frozen shoulder syndrome. Scand.J. Rheumatol. 4, 193-196(1975))。そして、60代以降からは腱板断裂が増加していきます。

従って、50代以上で肩先の痛みが気になるかたは、整形外科での受診を含め、肩こりとは違う対策が必要になると思います」

中でも五十肩は段階別に症状が異なり、痛みが激しくなる場合もあるため、「そのうち治る」と甘く見てはいけないのだ。

肩関節はもともと繊細にできてる

肩が痛くなりやすい理由の1つに、肩関節の構造のデリケートさがあるという。

「肩関節は『肩甲骨』と『上腕骨』で構成され、2つの複合運動によって肩や腕を動かしています。

ほかの関節との大きな違いは、唯一、ほぼ360度動かせる可動域の広さを持っていること。しかし、複雑な動きができるがゆえに負荷が大きく、不安定な関節でもある。そこに、姿勢の悪化や経年変化などが加わると、肩甲骨と上腕骨の動きのバランスが崩れ、痛みが起こるとされています」

肩関節が複雑でデリケートになったのは、なんと人類の進化の結果だという。

「人類が二足歩行になり、『前脚』が『腕』に変わったとき、それまで体重を支えていた関節が『肩関節』となり、腕をあらゆる方向に動かすという複雑な働きを担うようになりました。進化の過程で変化を強いられた結果、肩関節は高性能かつ繊細になったのです」

痛みが出る場所の違い
痛みが出る場所の違い。鎖骨の先端より内側の範囲に痛みが出る場合は、肩こりの可能性が。外側の範囲に痛みが出る場合は、五十肩か腱板断裂の可能性が高い(イラスト/アフロ)
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痛みが出る場所の違い(イラスト/アフロ)
痛みが出る場所の違い。腱板とは、上腕骨と肩甲骨をつなぐ肩のインナーマッスルの先端にあるスジの部分のこと。加齢などで“筋”が切れるのが腱板断裂だ(イラスト/AC)
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では、肩の痛みを和らげるには、どうすればいいのだろうか? 症状別に適切な対処をすることが痛みを改善する近道だ。

「ポイントは肩甲骨です。なぜなら、肩こりは肩甲骨の動きが悪くなることから始まり、それを放置すると五十肩や腱板断裂を招く可能性があるから。

下記で紹介する『セルフリハビリ』は、肩甲骨周囲筋を刺激し、肩関節を保護しているインナーマッスルを鍛える効果があります。『こんな簡単でいいの?』と思うかもしれませんが、インナーマッスルを鍛えるには負荷が弱い方が効果があるのです」

行う時間帯は起床直後を避け、入浴後など血流がよくなっているときが安全だ。「痛みが出ない範囲」で行うことを前提に、1日1分から始めてみよう。

あなたの肩の痛みはどのタイプ? 肩の痛みチェック表

以下のチェックからあなたの肩の痛みはどのタイプなのかをチェック!

□20代後半〜50代だ
□痛い場所は首・背中あたりだ
□頭を前後左右に傾けると痛む箇所がある
□夜間痛はない
□腕を上下や横、斜め前や後ろに伸ばしても痛くない
□朝起きたときに痛みやこわばりが強くなる

→原因と対策は《1》「肩こり」へ

□40〜60代だ
□肩の内側にある骨の出っ張り周辺を押すと痛い
□頭を前後左右に傾けても痛くない
□腕を上下や横、斜め前や後ろに伸ばすと痛む箇所がある
□夜間痛がある
□痛い方の腕を反対の手で持ち上げても上がらない

→原因と対策は《2》「五十肩」へ

□60才以上だ
□頭を前後左右に傾けても痛くない
□腕を上下や横、斜め前や後ろに伸ばすと痛む箇所がある
□夜間痛がある
□痛い方の腕は自力では上がらないが、支えがあれば上がる

→原因と対策は《3》「腱板断裂」へ

《4》実は「危険な痛み」

下記から《1》~《4》の症状別にセルフリハビリのやり方を紹介する。

《症状1》「肩こり」のセルフリハビリ

肩こりは、肩まわりの筋肉が緊張して起こる。

「肩こりの人を調べると、首・肩から背中に広がる『僧帽筋』が硬くなり、血流が悪くなっていることがわかっています(※矢吹省司「肩こりの病態―対照群との比較を中心に」.『臨床整形外科』.2007)。肩こりになりやすい環境は、長時間のデスクワークなどで同じ姿勢を続けることや睡眠不足(※4 Onda A et al. Fukushima J Med Sci 2022;68:79.)。また、ストレスも関連しています。

根本的な改善を目指すなら、筋肉を伸ばすだけのストレッチよりも、筋肉を収縮させる体操がおすすめ。収縮運動で僧帽筋を刺激すると、筋肉をほぐす効果があります。

また同じ姿勢での作業が続いたら、時々胸を張って背筋を伸ばして巻き肩や猫背を正すこと。パソコンのモニターの上端を目の高さと同じにすると、肩への負担が減ります」

セルフリハビリ

【1】肩が痛い方の手でうちわを持ち、そちらを上にして横になり、反対の手で頭を支える。うちわは卓球のラケットのように柄の上の面の部分を親指と、残り4本の指で挟むように持ち、ひじは約90度に曲げる。

肩が痛い方の手でうちわを持ち、そちらを上にして横になり、反対の手で頭を支える。うちわは卓球のラケットのように柄の上の面の部分を親指と、残り4本の指で挟むように持ち、ひじは約90度に曲げる
肩が痛い方の手でうちわを持ち、そちらを上にして横になり、反対の手で頭を支える。うちわは卓球のラケットのように柄の上の面の部分を親指と、残り4本の指で挟むように持ち、ひじは約90度に曲げる(イラスト/細川夏子)
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「枕やたたんだバスタオルを脇に挟むとひじの位置が安定します」(歌島さん・以下同)。

【2】手首を固定したまま、ひじを支点に腕を下げ、同じ軌道で【1】に戻す。【1】【2】を繰り返し1分ほどあおぎ続ける。

手首を固定したまま、ひじを支点に腕を下げ、同じ軌道で【1】に戻す。【1】【2】を繰り返し1分ほどあおぎ続ける
手首を固定したまま、ひじを支点に腕を下げ、同じ軌道で【1】に戻す。【1】【2】を繰り返し1分ほどあおぎ続ける(イラスト/細川夏子)
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「このとき、ひじを背中より少し後ろに引くと猫背が防げます。力を入れず、ゆっくりとあおぎましょう」。

《症状2》「五十肩」のセルフリハビリ

「五十肩は症状の度合いにより病名が変わり、大まかに2つに分けられます。軽症の場合は『肩関節周囲炎』といって、肩関節のまわりの部位に炎症が起きるケース。炎症が起きている部位以外は痛くないことが多いです。

重症化すると、肩が凍ったように動かなくなる『凍結肩』になります。これは、肩関節を包む『関節包』という薄くて柔らかい膜に炎症が起き、厚く、硬くなる状態です。ここまでくると腕が90度くらいしか上がらず、背中に手が回らず、夜間痛(痛くて眠れなくなる)が起きることもあります。肩こりや腱板断裂に比べ症状が強いのも、『凍結肩』に至った五十肩の特徴です。

夜間痛があるほど痛いときは、早期に整形外科を受診してください。

治療期間は、程度により半年〜1年、それ以上かかる場合もあります。下のセルフリハビリは、凍結した肩関節(関節包)を柔らかくして、肩の動きを改善する効果が期待できます。重症の人でも肩に負担をかけずに行えるのでおすすめ」

セルフリハビリ

【1】机から少し離れて椅子に座り、肩が痛い方の手のひらを、机に置いたタオルやハンカチに乗せる。両肩の力を抜き、反対側の手は、ひざの上に置く。

机から少し離れて椅子に座り、肩が痛い方の手のひらを、机に置いたタオルやハンカチに乗せる。両肩の力を抜き、反対側の手は、ひざの上に置く
机から少し離れて椅子に座り、肩が痛い方の手のひらを、机に置いたタオルやハンカチに乗せる。両肩の力を抜き、反対側の手は、ひざの上に置く(イラスト/細川夏子)
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「滑りをよくするため、タオルやハンカチを使います」。

【2】机の上を滑らせるよう腕をゆっくり前に伸ばし、痛くなる手前で止めて10秒キープ。上半身は腕の動きに合わせて倒していく。ゆっくりと【1】の状態に戻し、【1】【2】を3回繰り返す。

机の上を滑らせるよう腕をゆっくり前に伸ばし、痛くなる手前で止めて10秒キープ。上半身は腕の動きに合わせて倒していく。ゆっくりと【1】の状態に戻し、【1】【2】を3回繰り返す
机の上を滑らせるよう腕をゆっくり前に伸ばし、痛くなる手前で止めて10秒キープ。上半身は腕の動きに合わせて倒していく。ゆっくりと【1】の状態に戻し、【1】【2】を3回繰り返す(イラスト/細川夏子)
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「痛みがある側だけ行い、痛くなる手前で止めるのがポイントです」。

《症状3》「腱板断裂」のセルフリハビリ

「腱板断裂は、60才以降腱板が徐々に衰え、傷んで切れてしまう症状です。脱臼や、転倒で肩を強打したことで切れる場合もあります。腕を回旋(ひねる)したときや、腕を遠くに伸ばそうとしたとき、肩に痛みが走るのが特徴。部分断裂と完全断裂がありますが、意外にも五十肩より症状が軽い場合が多く、見逃されがちな病気でもあります。しかし、一度腱板が断裂すると自然治癒することはほぼありません。手術の適応については、肩を専門とする整形外科医に相談することを強くおすすめします」

下記のセルフリハビリは、腱板への負荷をかけずに肩のインナーマッスルに刺激を与える効果がある。治療と並行して毎日続けたい。

セルフリハビリ

【1】猫背にならないよう姿勢を正して椅子に座る。肩が痛い方の手でうちわを持ち(持ち方は「肩こりのセルフリハビリ」を参照)、机に置いたタオルやクッションの上にひじを置く。

猫背にならないよう姿勢を正して椅子に座る。肩が痛い方の手でうちわを持ち(持ち方は「肩こりのセルフリハビリ」を参照)、机に置いたタオルやクッションの上にひじを置く
猫背にならないよう姿勢を正して椅子に座る。肩が痛い方の手でうちわを持ち(持ち方は「肩こりのセルフリハビリ」を参照)、机に置いたタオルやクッションの上にひじを置く(イラスト/細川夏子)
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「脇をしめず、ひじの角度は90度を目安に」。

【2】ひじを支点に、手首ではなくひじから先の腕を使って大きくゆっくりとうちわをあおぐ。【1】【2】を1分ほど繰り返す。

ひじを支点に、手首ではなくひじから先の腕を使って大きくゆっくりとうちわをあおぐ。【1】【2】を1分ほど繰り返す
ひじを支点に、手首ではなくひじから先の腕を使って大きくゆっくりとうちわをあおぐ。【1】【2】を1分ほど繰り返す(イラスト/細川夏子)
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「猫背のまま行うと肩のインナーマッスルに刺激が与えられないので、上体を起こし、肩の力を抜いて行って」。

《症状4》危険な痛みの見分け方

肩の痛みには、時に危険な疾病が隠れている場合も。

「たとえば糖尿病は、五十肩の有病率や発症リスクを上げるという研究結果(※Dyer BP et al. BMJ Open 2023;13:e062377)があります。実際、五十肩の手術前検査で糖尿病が見つかったこともありました。

また、女性や高齢者の中には心筋梗塞の初期段階として、胸の痛みだけでなく、あごから肩への痛みが起きることがあるという報告があります(※American Heart Association. Heart Attack Symptoms in Women. AHA website. 2024)」

大動脈解離の発作でも肩や腰の痛みが出ることがあるほか、悪性腫瘍に関連する痛みとして肩甲骨の周囲が痛んだ症例もあるという。

「肩こりは持病だから仕方ないとセルフケアを続けていたら帯状疱疹だったという例もありました。

私たち医師は、診察の際、肩の痛みに隠れた患者さんの『レッドフラッグサイン(危険なサイン)』に注意を払っています。

特に、突発的な肩の痛みや胸や背中の痛みを感じたとき、熱があるときは、ためらわずに医療機関を受診するか、危険を感じた場合は救急車を呼んでください」

命にかかわる疾病でなくとも、肩の痛みは睡眠障害や頭痛、気分の落ち込みを招くこともあるという。

「また、更年期に入って肩こりが始まったというかたもいます。こうした不調がQOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)の低下を招き、精神的な不調に及ぶ恐れもあるのです」

たかが肩こりと侮れない。

こんな疾病が隠れている場合も

こんな疾病が隠れている場合も
こんな疾病が隠れている場合も(イラスト/AC)
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・糖尿病

・心筋梗塞・狭心症

・大動脈解離

・悪性腫瘍

・帯状疱疹 etc.…

痛みをすぐに治したいなら病院、リラクセーションなら治療院

肩の痛みを取りたいとき、整形外科に行くべきか、治療院(整体院、鍼灸院、マッサージ院など病院以外の施設)でもいいのか…。

「最初は『病院に行くほどでもないから』と治療院を選ぶかたが多いと思いますが、五十肩や腱板断裂の可能性がある場合は、整形外科を選ぶべき。医師の診断を受けずに治療院で間違った処置をして、悪化する可能性もあります。

整形外科でも得意分野が違うため、肩の専門医を探すなら、インターネットで『肩関節外来』と検索し、医院を探してみてください」(歌島さん・以下同)

セルフマッサージもしない方がいいのだろうか。

「もちろん、マッサージは一時的でも筋肉の緊張がほぐれ、リラックス効果が得られるメリットがあります。それで楽になるなら否定するものではありません。

しかし、痛みを根本的に改善させるには『誰かにやってもらう』だけではダメ。自力で筋肉を伸び縮みさせる運動を行わなければよくなりません。

症状の程度に応じて整形外科と治療院を使い分け、セルフリハビリを毎日の習慣にするのが理想ですね」

肩はどの程度動かしたらいいのだろうか?

「『炎症を抑える』ことだけを考えれば、動かさずに安静にするのがいちばんでしょう。しかし、それでは肩まわりの筋肉が衰え、硬くなります。長い目で見た肩の『健康』のためには『最小限のリハビリ』を日々積み上げるのがベスト。間違っても、筋トレなど負荷の大きい運動はやめておきましょう」

肩甲骨を気持ちよくほぐすには、下記のエクササイズもおすすめ。繊細な肩だから、やさしくケアして長持ちさせたいものだ。

ガチガチの肩甲骨まわりをほぐす30秒リラクセーション

【1】ひざを軽く曲げ、肩が痛い場合は、左手をひざに置いて体を支える。リラックスした状態で頭と右手をゆっくり下ろす。

ひざを軽く曲げ、肩が痛い場合は、左手をひざに置いて体を支える。リラックスした状態で頭と右手をゆっくり下ろす
ひざを軽く曲げ、肩が痛い場合は、左手をひざに置いて体を支える。リラックスした状態で頭と右手をゆっくり下ろす(イラスト/細川夏子)
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【2】【1】の状態で背中から右手までをブラブラと揺らす(10秒)。

【1】の状態で背中から右手までをブラブラと揺らす
【1】の状態で背中から右手までをブラブラと揺らす(イラスト/細川夏子)
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【3】【2】の姿勢から肩甲骨だけを背中に引き寄せる。手が数cm上がった状態で10秒キープ。また【2】の状態に戻し、背中から右手までをブラブラと揺らす(10秒)。

【2】の姿勢から肩甲骨だけを背中に引き寄せる。手が数cm上がった状態で10秒キープ。また【2】の状態に戻し、背中から右手までをブラブラと揺らす
【2】の姿勢から肩甲骨だけを背中に引き寄せる。手が数cm上がった状態で10秒キープ。また【2】の状態に戻し、背中から右手までをブラブラと揺らす(イラスト/細川夏子)
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※左の肩も同様に行うが、痛い方の肩だけでもOKだ。

◆整形外科医・歌島大輔さん

肩関節、肩関節鏡手術、整形外科専門医として肩治療を行う。特に肩関節鏡手術は年間400件を数える。YouTube「日本一の整形外科医YouTube Ch.」は登録者数22万人以上。

取材・文/佐藤有栄 イラスト/細川夏子

※女性セブン2025年10月16・23日号

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