
30年にわたってディズニーミュージカルを上演し、計7作品で3200万人以上を動員してきた劇団四季。『女性セブンプラス』では、大ヒットロングランの舞台裏を独占で徹底取材! 今回は『ライオンキング』から、俳優のインタビューと小道具スタッフによる裏話をたっぷりお届けします!【前・後編の前編】
【俳優インタビュー】スカー役・北澤裕輔さん「演じている間は肉食モードになります

1998年の初演以来、25年以上にわたるロングラン公演を実現し、上演回数は日本演劇史上最多の1万4000回超! アフリカの大地を舞台に、王ライオンの息子・シンバの成長と命のつながりを描いた『ライオンキング』は、“一生に一度は観るべき”といわれる不朽の名作。王である兄・ムファサと敵対するスカーを演じて3年の北澤裕輔さんに、役作りとマスク操作の難しさを聞きました。

──スカー役は、大きなマスクを操作しながら、出番の多い役ですよね。負担の大きさが伺えます。
北澤:マスク自体はF1のボディと同じカーボングラファイト製なので軽いんですが、マスクの支柱や操作するためのバッテリー、衣裳の革のパンツ、コルセットを合わせると全部で16kgあります。
演じて2、3日経つと体も慣れてくるんですが、久しぶりに演じるときはマスクを頭にのせると首がグッと沈む感じがして、アララ…って(笑い)。

──そんなタフな役のためにどんな肉体作りをされていますか?
北澤:首や腕も使いますが、いちばん負担がかかるのがふくらはぎ。ランニングをしすぎると肉離れしやすくなるので、ジムで適度に走り込みをしつつ、エアロバイクをこいでふくらはぎを重点的に鍛えています。
絶対欠かさないようにしているのが、毎週日曜日の公演が終わってから行くマッサージです。週1回、全身のバランスを整えておかないとけがをしかねないので。

──装備に耐えられるよう、体を大きくすることはないんですか?
北澤:確かに、少し太った方が声は出しやすい一面もあるんですが、体重を増やすとバテやすくもなるんです。衣裳はぼくの体ピッタリに作られているので、あまり増やしてもいけないし、スカー役をやっている最中は汗の量もすごくて、増やそうにも増やせない。そこは難しいところですね。
──お肌がツルツルですよね。汗をたくさんかくから新陳代謝が良いんでしょうか?
北澤:いやいや、そんな! 近寄らないで、恥ずかしい〜(笑い)。
ただ、スカー役のときは、意識して赤身肉を食べています。公演前や寝る前など、週2、3回食べると回復力が違うんですよね。普段、役を引きずらないタイプなんですけど、この点だけはライオンモードになっているかも(笑い)。
上下・前後に動くマスクの操作は右手リモコンの親指1本で
──操作について教えてください。
北澤:リモコンには上下と前後に動く2つのスイッチがあって、親指で操作しています。通常はマスクと俳優の顔が両方見える“ダブルイベント”と呼ばれる状態になっていますが、押し方の組み合わせで、俳優の顔を隠してマスクを前面に出すこともできます。たとえば、嫉妬心に狂っている状態などの際にマスクを前面に出すことがあります。



──“スカーらしさ”を出すためにこだわっている点は?
北澤:リモコンでマスクの向きを操作するだけでは不充分。前傾するときは一度、背中を丸めるようなイメージで後ろに引いてから、全身を使って前に出ていきます。少し遅れてマスクがついてくることで、勢いと一体感を高めています。


それとスカーはひねくれているので、姿勢を斜めにすることで“らしさ”を出しています。マスクを頭上に載せているだけのときでも、目線はお客様を向いていなければなりません。つまり、常にアシンメトリーな姿勢をとり、常にあごを引いていなければならないんです。気をつける点が多くてマスターするのに本当に時間がかかりました。
シンバ役を経て「スカーはただの悪いやつなのか?」の疑問に気づけた
──北澤さんはスカーが敵対視するシンバも演じたことがありますよね? スカーの魅力はどこだと思いますか?
北澤:ぼく的に主人公と敵対する役柄を演じるのはこれが初めてだったんです。スカー役のオーディションを受けたいと思ったのも自分なんですが、正直、自信はなくて。
ただシンバの気持ちはわかっているし、シンバの前はアンサンブルもやっていたので、全体的な流れを俯瞰できているし、スカーのことも理解できると思っていたんです。もちろん、わかっていてもそれがすぐできるかというのは別問題でしたが。
シンバは本当にストレートな性格で、そのまま必死に生きてればいい。一方のスカーは、『スカーの狂気』というナンバーでも歌っていますが、自らの間違いに気づきながらも、もう後に戻れないと思っている。スカーはただひどいやつと思われることもありますが、本当に「ただの悪いやつなのかな?」というのが、共感できるところですね。
──スカーの悲哀は大人になって気づけるところかもしれませんね。
北澤:実はこの間、ヤングシンバを卒業する子役から「大人になったらシンバとスカーをやりたいです」って言ってもらえて、ぼくらがやっているスカーをちょっといいと思ってくれたのかもしれないって思えてすごくうれしかったですね。

──北澤さんが考える、『ライオンキング』の作品の魅力を教えてください。
北澤:普遍的な物語性に加えて、ハイテクな部分とアナログな部分が融合された演出に魅力があることでしょうか。たとえばぼくは「ヌーの大暴走」のシーンが好きなんですが、オートメーションでヌーが走る様子を再現した部分と、実際に俳優がヌーを演じるという、そうしたハイテクとアナログが融合するとすごく迫力あるシーンになるんですよね。
アンサンブル、シンバ、スカー…と、この作品に長年関わらせてもらっていますが、10年ぶりに参加してもやっぱり“新しさ”がある。お客さまも違う世代の人たちがどんどんいらっしゃって、いつも新しい感激を生み出しているんだなと思います。
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身振り手振りで話してくれる指の先まで神経が行き届いているかのように美しい所作。そして、スカーとは似つかぬほど穏やかでどこまでも優しい。
取材対応への御礼を述べると、「こちらこそ、ありがとうございました」と頭を下げてくれる人柄に、ジンときてしまった。
【後編】では、俳優・稲葉菜々さんによる、チーターよりチーターらしく振舞うパペット操作のヒミツをお伝えします。
取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥