──“スカーらしさ”を出すためにこだわっている点は?
北澤:リモコンでマスクの向きを操作するだけでは不充分。前傾するときは一度、背中を丸めるようなイメージで後ろに引いてから、全身を使って前に出ていきます。少し遅れてマスクがついてくることで、勢いと一体感を高めています。


それとスカーはひねくれているので、姿勢を斜めにすることで“らしさ”を出しています。マスクを頭上に載せているだけのときでも、目線はお客様を向いていなければなりません。つまり、常にアシンメトリーな姿勢をとり、常にあごを引いていなければならないんです。気をつける点が多くてマスターするのに本当に時間がかかりました。
シンバ役を経て「スカーはただの悪いやつなのか?」の疑問に気づけた
──北澤さんはスカーが敵対視するシンバも演じたことがありますよね? スカーの魅力はどこだと思いますか?
北澤:ぼく的に主人公と敵対する役柄を演じるのはこれが初めてだったんです。スカー役のオーディションを受けたいと思ったのも自分なんですが、正直、自信はなくて。
ただシンバの気持ちはわかっているし、シンバの前はアンサンブルもやっていたので、全体的な流れを俯瞰できているし、スカーのことも理解できると思っていたんです。もちろん、わかっていてもそれがすぐできるかというのは別問題でしたが。
シンバは本当にストレートな性格で、そのまま必死に生きてればいい。一方のスカーは、『スカーの狂気』というナンバーでも歌っていますが、自らの間違いに気づきながらも、もう後に戻れないと思っている。スカーはただひどいやつと思われることもありますが、本当に「ただの悪いやつなのかな?」というのが、共感できるところですね。
──スカーの悲哀は大人になって気づけるところかもしれませんね。
北澤:実はこの間、ヤングシンバを卒業する子役から「大人になったらシンバとスカーをやりたいです」って言ってもらえて、ぼくらがやっているスカーをちょっといいと思ってくれたのかもしれないって思えてすごくうれしかったですね。

──北澤さんが考える、『ライオンキング』の作品の魅力を教えてください。
北澤:普遍的な物語性に加えて、ハイテクな部分とアナログな部分が融合された演出に魅力があることでしょうか。たとえばぼくは「ヌーの大暴走」のシーンが好きなんですが、オートメーションでヌーが走る様子を再現した部分と、実際に俳優がヌーを演じるという、そうしたハイテクとアナログが融合するとすごく迫力あるシーンになるんですよね。
アンサンブル、シンバ、スカー…と、この作品に長年関わらせてもらっていますが、10年ぶりに参加してもやっぱり“新しさ”がある。お客さまも違う世代の人たちがどんどんいらっしゃって、いつも新しい感激を生み出しているんだなと思います。
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身振り手振りで話してくれる指の先まで神経が行き届いているかのように美しい所作。そして、スカーとは似つかぬほど穏やかでどこまでも優しい。
取材対応への御礼を述べると、「こちらこそ、ありがとうございました」と頭を下げてくれる人柄に、ジンときてしまった。
【後編】では、俳優・稲葉菜々さんによる、チーターよりチーターらしく振舞うパペット操作のヒミツをお伝えします。
取材・文/辻本幸路 撮影/五十嵐美弥